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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第4章 なぜ勉強をして来なかったんだろう?
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依頼人1号

 事件を解決した直後、事の顛末を清水先生に報告すると、相談部の顧問となることを快諾してくれそのまま必要な書類の提出を行なってくれた。


 部として正式に認められるまで少しかかるらしいが、そんなことはお構いなしと言わんばかりに桐花は翌日、その日の授業が終わるや否や俺の教室に現れて、そのまま俺の手を引いて相談部の部室へ急行した。


「依頼人が来た時に留守じゃ示しがつかないじゃないですか」

「昨日の今日で依頼人が来る訳ねえだろ。まだ正式にできてもねえ部活なんて認知すらされてねえよ」

「ふっふっふ! その辺りは抜かりありません。見てください、昨日徹夜してポスター作ったんですよ! これを休み時間使って学校の至る所に貼りまくってきましたから!」


 お前それ許可取ったんだろうな?


 いや、聞くだけやぼだな。絶対無許可でやってる。


 そんなことを思いながら桐花が突きつけてきたポスターを受け取る。


「『お悩み相談は相談部まで。どんなお悩みも必ず解決してみます』……なあ、ここに描いてあるの何?」

「何って、私の似顔絵じゃないですか。やっぱり私はこの相談部の()ですからね。……あ、もしかして吉岡さんの似顔絵がないことが不満でしたか? あちゃーしまったな。すっかり忘れていました」

「…………そうだな」


 桐花の描いた絵を見て、俺が描かれていないことに心底ホッとする。


 そうか、こいつ……絵心なかったんだ。


 まあ、絵の出来栄え云々は置いといても相談に来る訳ねえよな、こんな怪しい部活に。


 どういうわけだが知らないが、桐花咲と吉岡アツシという悪名高い2人が部活を作ろうとしているという事実が学園中に知れ渡っているのだ。


 そんな状況下でできた新しい部活。普通に考えて警戒して誰も寄ってこない。


 ワクワクした様子を隠そうともしない桐花には申し訳ないが、しばらく放課後は暇を持て余しそうだななんて思っていた。


 しかし俺の予想に反し、それからおよそ30分もしないうちに相談部に人が訪れた。


 コンコンと丁寧なノックの後、失礼しますと声をかけて部室に入ってきたのは1人の女子生徒だった。


「初めまして。風紀委員1年、藤枝宮子(ふじえだみやこ)です」


 前髪を上げてカチューシャでまとめた少女だった。クールな印象の銀縁眼鏡をかけている。


 その女生徒の登場に俺はかなり驚いた。


 依頼人らしき人物が早々に現れたことに対してではない。彼女が風紀委員を名乗ったことに対して、なぜここに風紀委員が? という疑問でいっぱいだった。桐花でさえ困惑した表情を浮かべている。


 


 晴嵐学園風紀委員。


 一般的な風紀委員のイメージといえば、服装や髪型などを校則に則ったものにするような注意喚起や、素行の悪い生徒の取り締まりなどを行うことで学校の風紀を守る組織といったところだ。


 しかし晴嵐学園においてそのイメージは当てはまらない。


 何せ入学式の挨拶で学園長が『法に触れなければ、基本的に何やってもいいよ』なんてのたまうような学園だ。


 服装や髪型に規定なんてなく、生徒はみんな思い思いの格好で授業を受けている。……以前クラスメイトがウケを狙って特大のアフロのかつらをつけて授業を受けていたことがあったが、教師は何も言わなかった。


 自由奔放な生徒が多いこの学園。しかし、だからと言って学園の風紀が乱れているわけではない。


 やっていい事と悪い事のラインが法律である以上、生徒たちは慎重にならざるをえない。ゆえに学園の治安はそこらの高校と比べてもかなりいい方だろう。

 

 素行の悪い生徒なんてかなり少ない、それこそ特に何もやっていない俺が学園一の不良と呼ばれる程度には。


 そんなわけで晴嵐風紀委員の仕事は他の学校とは大きく異なる。

 

 では晴嵐学園風紀委員の役割とは何か?


 風紀の取り締まりであることに違いはない。ではその取り締まるべき風紀とは?


『生徒の無許可の男女交際を禁ずる』


 当然、許可証を持っていない恋人たちの取り締まりである。


 


 理由がわからず困惑する。無断恋愛の取り締まり役である風紀委員がなぜこんなところに? 

 

 しかも、1年の藤枝宮子と言えばーー


「な、何の御用でしょうか?」


 と、そんな状況下で桐花がようやく声を発した。


 表面的には冷静に振る舞っているように見えるが、桐花も心中は穏やかではいられないだろう。恋愛至上主義を掲げる桐花にとって無断恋愛の取り締まりを行う風紀委員なんて決して相容れない存在のはずだ。


 そんな存在が、ようやく設立したばかりの自分達の部活に現れたのだ、警戒するのも当然だろう。


 最大限警戒した桐花の視線を受けた藤枝は、表情ひとつ変えずに口を開いた。


「私はあなた達の部活動、『相談部』の存在に意義を申し立てにきました」

「……は?」


 その予想外の言葉に桐花は呆気に取られた。


「な、何を……?」


 ぱくぱくと口を開け閉めしている桐花、衝撃のあまり言葉の意味が理解できていないようだった。


 その様子を見た藤枝はふうとため息をつき、口調を崩しながら再度説明を始める。


「一から説明するわね。私たち風紀委員はあなた達が作ったこの『相談部』という部活の存在について危機感に近いものを抱いているわ」

「……なんでだ? まだ正式には認められてもなくて、何にも活動してない部活だぞ?」

「決まっているでしょう? 部活そのものではなく、その部活を作った人物が問題なのよ」


 いっそ冷徹に見えるその表情を、桐花に向ける。


「桐花咲。晴嵐学園始まって以来最大の問題児。他人の恋愛沙汰に執着するあまりストーカーじみた行動を繰り返すあなたには多数の苦情が寄せられているわ」

「桐花ぁ……」

「なんですか吉岡さんその目は!? 屋上を出禁になってからは少しは遠慮してるんですよ!」


 こいつの遠慮のレベルなんて信用できるか。


「そうそう、『自由恋愛の許可を』なんて言いながらビラをばら撒いてたあなたを、風紀委員総出で追いかけ回したのは記憶に新しいわね」

「……お前まじかよ。流石にその噂だけはデマだと信じてたのに」

「わ、若気の至りですよ!!」


 黒歴史量産しまくりだな。


「何はともあれ、そんなあなたが作った部活を、学園の風紀を守る私たちが放っておけるわけないでしょう?」

「そんなメチャクチャなーー」

「それに加えて」


 桐花の言葉を途中で遮った藤枝は、俺に冷たい視線を向ける。


「柔道部のガラスを遊び半分で割った挙句に友人に罪を擦りつけようとした、学園一の不良がいる部活なんて私たち風紀委員は認めることができません」

「…………」


 まずいな。ここでその話が出てくるのか。


「っ! あなたそれはいくらなんでもーー」

「桐花」


 激昂し言い返そうとした桐花を制止する。


 俺はあくまで冷静に言葉を返す。


「なあ、藤枝さん。確かに俺たちは過去に問題を起こしているが、この『相談部』は正式な手続きを踏んで作られたものだ。それをどうこうする権限はあんたら風紀委員にはあるのか?」


 風紀委員の権限はあくまで無許可の男女交際を行った生徒に適用されるものだ。


 この学園の理念は自由。


 いくら俺たちが問題児だろうと、部活動の自由まで奪うような力はないはずだ。


「そうね。正直なことを言えばあなた達が作った部活に口出しをする権限はないわ」

「だったらーー」

「でもね、物事には必ず裏道が存在するの」


 裏道?


(いつき)このはに秋野楓(あきのかえで)。相談部の部員であるこの2人は、幽霊部員だそうね?」

「っ!?」


 そんなことまで調べていやがったか。


「……2人ともお忙しいだけです。それが何か問題でも?」

「ええ、問題ね。ということはこの部室にはあなたたち2人しかいないわけね」


 それに何の問題が?


「過去にもいたそうよ。友人に名前を借りて部活を作った後、学園からもらった部室で2人きりになることを画策した、無許可で男女交際をしている生徒が。わかる? 防音性がそれなりにあって鍵をかけられる部室に2人きりになろうとしたのよ?」


 俺も桐花も、藤枝が何を言おうとしているのかようやくわかった。


「ちょっとそれってーー」

「俺と桐花が、部室でエロいことするって言ってるのか!!??」

「……一応、あなた達に気を遣ってかなりぼかした表現をしたのだけれど」

「……っ!!」

「痛っ痛い! 蹴るな桐花!!」


 顔を真っ赤に染め上げた桐花に足を何度も蹴り飛ばされる。


「超心外です! 私がこのデリカシー皆無のデクの棒相手に、どうこうなるわけないじゃないですか!!」

「わからないわよ? あなたみたいなタイプほどダメ男好きそうだし」

「偏見です! 名誉毀損もいいところです!! 絶対にありえません!!!」

「嫌よ嫌よも、ってね。まあ私から見ても絶対ありえないけど」

「……2人とも、その辺で勘弁してくれねえか」


 喋れば喋るほど俺が傷つく。


「ともかく、実際はどうであれそんなこじつけができるのよ。風紀委員に所属している私と、あなた達2人どちらの方が学園に信頼されてると思う?」

「ぐっ!」


 そんなの答えるまでもない。


「何が目的ですか? 私たちの部活を潰すのが目的ならば、わざわざ顔を見せにくる必要はないはずです」


 桐花は苦虫を噛み潰したような顔で目的を尋ねる。状況は圧倒的にこちらが不利、相手の話を聞くしかない。


 藤枝はやっと本題に入れたと冷たい笑みを浮かべた。


「私たち風紀委員の仕事は知ってるわね? 許可証を持っていない生徒が必要以上に異性と関わっていないかのチェックと注意喚起。そして何より、無許可での男女交際をしている人物を特定して学園への報告。だけどこの学園の生徒は1000人を軽く超えるから私たちも手が回らないの」


 そこでーー。と言葉を続ける。


「取引よ。あなた達の部活が私たち風紀委員にとって有用なものであると証明しなさい。そうすればこの部活の存在に関して私たちは口を出さない。手始めに、私に任された仕事を手伝ってもらうわ」


 藤枝は自身のカバンからまとめられた紙の束を取り出して、挑戦的な視線を桐花に向けながら机に叩きつけるように置く。


「相談部は生徒の悩みを聞いてそれを解決する部活だそうね? ならばこれは私からの依頼という形にしましょう」


 そして依頼内容を口にした。


 それは、桐花咲にとって最悪のものだった。


「許可証を持っていないにも関わらず男女交際をしていると噂されている女子生徒がいるわ。その女子生徒の恋人を特定してちょうだい。得意でしょう? こういうの」


 

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