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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第4章 なぜ勉強をして来なかったんだろう?
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事件当日

「さて、事件があった日の事をお聞きしたいのですが」


 俺と桐花を警戒し、守谷を守らんとして頑なな態度を取り続けていた伊達と飛田は、部長さんの取りなしによってなんとか話を聞く気になってくれた。


「事件当日? エリカ様の参考書が盗まれたのがわかった時のことか?」

「と言っても、何をお話しすればいいのやら」


 伊達、飛田共に頭をかしげる。


「お話ししてほしいのは事件の詳細です。あの日何があったのか、どのようにして参考書が無くなっているのが判明したのか、そのことを一から十まで全部話してください」


 今不足しているのは情報。部長さんの話で事件について大まかにわかったがそれだけでは足りない。事件発生から数日経っている今、関係者の証言だけが手がかりとなるのだ。


 顔を見合わせた伊達と飛田はその日のことを思い出しながら口を開いた。


「勉強会があったあの日は、放課後に合唱部の前で待ち合わせてた」

「一番最後に来たのがエリカ様でした。それまで誰も部室に入らず部屋の前で適当に時間を潰していましたね」

「で、エリカ様が部室の鍵を開けて最初に部屋の中に入ったんだ。入ってすぐ机の上にカバンを置いた。場所は一番奥の席だったな」


 そう言って部屋の中央にある大きな机を指差す。おそらくこの机を使って勉強会をするつもりだったのだろう。


「エリカ様はカバンを開いて中からまずノート、次に教科書、最後に筆箱を取り出しました。その後に暑かったのか上着を脱いで椅子にかけて、ペットボトルのコーラを口にーー」

「ちょっと待ってください。いくらなんでも守谷さんの描写が細かすぎませんか?」


 こいつらさっきから守谷の話しかしていない。


 桐花がやたらと細かいところまで覚えていることにツッコミを入れると、下僕2人は胸を張った。


「俺たちがエリカ様の一挙手一投足を見逃すはずないだろ?」

「当然です」

「……そうですか」


 言いたいことはまだいっぱいあるが、グッと飲み込んだ表情をしている。


「すみません、続けてください」

「ああ。とりあえずコーラを飲んで一息ついたエリカ様は俺に向かってロッカーの中から参考書を取るように言ったんだ」

「ちょっと、あなたにじゃなくて僕に言ったんです!」

「いーや、間違いなく俺に言ったね」


 2人は変なところで言い争いを始めた。


「ちなみにどっちに言ったんです?」

「正直、どっちでもよかった」


 桐花の質問に守谷はそっけなく答えた。


「とにかくだな、俺とこいつとでロッカーの中を探したんだが、エリカ様の言う参考書がなかったんだ」

「隅から隅まで探しましたが、見つかりませんでした」

「……女子のロッカーを隅から隅まで」


 桐花は引き攣った表情を浮かべる。


「そのロッカーは?」

「そこの壁にある。左から2番目」


 守谷はそう言って俺のそばにあるロッカーを指差す。


 どこにでもある金属製の普通のロッカーだ。旧式なのか鍵すらついていない。


「左から2番目、これか」


 近くにいた俺が開けようとロッカーに手をかけたその時、尻に鋭い衝撃。


「痛っ!」

「ちょっと。勝手に開けないでよ」


 振り返れば学園の女王様が俺を睨んでいた。どうやら守谷に蹴られたらしい。 


「……すんません」


 女子に尻を蹴られるって、思ったよりショックだな。


 予想外なところで心理的ダメージを受け素直に謝る俺を尻目に、守谷はロッカーを開けた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 桐花に中を見るように促す。俺もその後ろから恐る恐る覗く。


「中にあるのは、教科書、ファッション雑誌、化粧品に……結構入ってますね。この袋は?」

「予備の体操服。体育がある日に忘れた時用」


 狭いロッカーの中にごちゃごちゃといろんなものが詰まっていた。


「守谷さん、参考書は確かにロッカーに入ってたんですね?」

「ええ。間違いないわ」

「最後に参考書を確認したのはいつですか?」

「それは……覚えてない。随分前に買ってから使ってなくて置きっぱなしにしてたから」

「ということは、参考書がいつ無くなったのかがはっきりしていないと」


 口元に手を当ててふむと考え込む。


「他になくなっていた物はありませんか?」

「確認したけど、他に見つからなかったのはなかった」

「参考書だけ……その参考書ってどんなのですか?」

「ああ、ちょっと待ってろ」


 桐花の疑問に答えたのは伊達だった。伊達は自分のカバンをごそごそと漁り一冊の参考書を取り出す。


「これだ、これが無くなったエリカ様と同じ参考書だ」


『高校1年数学の全て』というタイトルの参考書。裏表紙には伊達の名前が書かれている。


「同じ参考書を持ってるんですね」

「当たり前だ。エリカ様が買われた参考書だからな。ちなみにエリカ様の参考書にも俺と同じ場所に名前が書かれてある。そうですよね、エリカ様?」

「気持ち悪い」

「ありがとうございますっ!!」

「ありがとうございます!?」


 守谷の侮蔑の言葉にノータイムで頭を深々と下げる伊達。


「っく、僕だってエリカ様と同じ参考書くらい持ってますよ」


 そんな伊達を見て、飛田は悔しそうな表情を浮かべ謎の対抗心を燃やしている。

 

 いい機会だと思い、俺は伊達と飛田にかねてからの疑問をぶつけた。


「なあ伊達、お前は飛田が取ったと思ってるんだな?

「ああ、もちろん」

「飛田は伊達が犯人だと思ってると?」

「ええ。間違い無いです」


 お互い親の仇でも見るような目で睨み合う。


「なんでそう思ってるんだ?」


 ロッカーには鍵がついておらず、その気になれば誰でも守谷のロッカーを漁れる状態にある。


 そんな中でお互いに相手が犯人だと決めつけるなんて、以前から仲が悪かったとはいえ強引すぎないか?


「決まってるだろ。いいか、合唱部の部室には普段鍵がかかってる。鍵は職員室に保管されてて外部の人間は持ち出せない」

「事件が起きた後調べましたが、持ち出し記録には普段僕たちが部活で使った時以外の記録はありませんでした。最後に持ち出しがあったのはテスト期間に入る前の最後に部活があった日」

「つまりこの部屋に入ってエリカ様のロッカーから参考書を持ち出すことができるのは、合唱部の部員だけだ」

「合唱部の中でエリカ様の私物に興味を持つ相手なんて下僕以外いません。つまり自分ではないもう1人の下僕ーー」


「「こいつだ!!」」


 お互いの顔面に指を突きつけ合う。


「……なるほど」


 変態のくせして2人とも妙なところで冷静だ。話の筋は一応通っている。 


「鍵は職員室の鍵だけですか?」

「もう一つは私が個人的に持ってる」


 守谷が手を上げた。


「勉強会のあの日も私が鍵を開けた」

「守谷さんが? こういうのは部長が持ってるものじゃ無いんですか?」


 桐花が杉原部長に視線を向けると、部長さんはきまりが悪そうに笑う。


「そ、その。本当は僕が持ってたんだけど守谷さんに取られちゃって」

「部長、そこはエリカちゃんに対して怒っていいところですよ」


 部員の岸本からもやや呆れた顔を向けられる。


「い、良いんだよ! 守谷さん部活休んだことない真面目な部員だから!」


 部長さん。言い訳になってないっす。


「守谷さん、その鍵を誰かに渡したことは?」

「……あるわけないでしょ」


 そりゃそうだ。だったら先に言ってるよな。


 となるとやっぱり犯人は下僕の伊達と飛田のどちらかになるのか?


「おい桐花、これ不味くないか?」


 こっそりと耳打ちをする。


 どちらが犯人だとしても遺恨は残る。今回清水先生から受けた依頼は合唱部のために揉めごとを解決することだったはず。


 だがこのままでは犯人がわかっても合唱部のためにはならない気がする。下手をすればどちらか1人が合唱部を去るなんて事態にもなりうる。


 そんなことを伝えたところ、桐花は呆れたようにため息をつく。


「全く、でかい図体の割に肝っ玉が小さいですね」


 そう言って、不敵に笑うのだった。


「大丈夫です。そんなことにはなりませんよ。この事件の真相は至ってシンプル、笑っちゃうくらい簡単なものなんですから」

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