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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第3章 姉にできることはまだあるかい
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尾行は慎重に

「ぶ、ぶつかってごめんなさい!」


 俺の足元に転がる線の細い少年、秋野実くんは怯えたような表情で謝ってくる。


 どう考えても振り返った弾みでぶつかったこちらの方に非があるのだがまあ仕方ないだろう、何せ相手はこの俺、丸坊主の金髪で強面の大男だ。


 明らかに緊張した様子でこちらの反応を伺う実くん。だが、緊張しているのはこちらも同じだった。


(やばい、見つかった……!)


 喉が干上がる思いだった。


 ストーキングがバレるのは考えられるかぎり最悪のパターンだ。


 姉が弟のことが心配で同級生と初デートを監視してましたなんて、デートが台無しになるなんてどころじゃない。彼女さんから呆れられて破局しかねない出来事だ。


 だからこそ俺たちは何があってもバレないように注意していたのに、完全に油断していた。


 咄嗟に当たりを見渡す。


 周囲には同じように怯えた表情を見せる彼女の平睦月(たいらむつき)。俺に謝る実くんを固唾を飲んで見守っている。


 そして桐花。苦虫を噛み潰したような表情でこっちを見ている。


『何やってんだてめえ』


 そんなことを俺に訴えかけているのがひしひしと伝わる。


 幸いなことに姉の秋野はいなかった。どうやら実くんたちがここにくる前に避難していたらしい。


 まだセーフ。まだ俺たちがこの2人をストーキングしていたことはバレていない。今の段階ではたまたまぶつかった相手ということで誤魔化せる。


「す、すまん。大丈夫か?」


 まだ尻もちをついたままの実くんに手を差し出す。実くんは少し迷った後その手を取って起き上がった。


「わ、悪かった。ぶつかったのはこっちだ、ごめんな」

「い、いえいえ! そんな、こちらこそ!」


 お互いに謝りまくる。しまった、今すぐにでもこの場を離れなければならないのに、逃げるタイミングを逃した。


 どうする? どう逃げる? 


 俺はどちらかといえば口下手な人間であることを自覚している。それも、慌てた時ほど口数が多くなり失言をしてしまうタイプだ。


 下手に喋るとうっかりストーキングしてた事を喋りかねない。


 どうやってこの場を離れるか考えあぐねていると、見かねた桐花が助け舟を出してくれた。


「ごめんなさい。この人本当にそそっかしいんですよ」


 そう言いながら俺の腕を組んでくる。なんだ? どうした?


「じゃあ私たちはこれで、行きましょうか」


 なるほど、俺たちもデート中のカップルということにして誤魔化すつもりなんだな。


 桐花の意図を察した俺はそれに便乗する。


「ああ行こうか…………ハニー」

「ぶっっ!!」


 桐花が突如吹き出した。


「ちょっと、なんですかハニーって! 真面目にやってくださいよ!」


 小声で抗議してくる桐花。


 心外だ。こちらはお前に合わせようと必死だというのに。


 だがおかげでこの場を離れることができそうだ。このまま弟くんと接触していたらパニックになってボロを出しかねなかった。


 桐花と腕を組んだまま弟くん達カップルに背を向ける。


「ま、待ってください!」

「っ!?」

 

 そのまま去ろうとしたところで呼び止められる。もう俺はこの時点でパニックだ。


「な、なんだ?」


 自分の顔が引き攣ってないか自信がない。


 もしかしてバレたか? そんな不安を抱いていると、弟くんは俺に近づいてきて何かを差し出す。


「あの、これ忘れていますよ?」


 渡されたのは、俺が1000円かけて取ったワイヤレスイヤホンだった。


「そ、そうか。ありがとう」


 安堵する。ひとまずバレていなかった。


 だが、下手に安心したのがまずかった。


「じゃあ、俺たちはこれで。初デート楽しめよ」

「え?」

「あ」


 やらかした。


 そう気づいたと同時に桐花に足を踏まれる。


「な、なんで僕たちが初デートだってーー」

「私たち高校生ですから! 高校生ともなれば恋愛経験豊富で、お二人の微妙な距離感を見れば初デートかどうかなんて一目瞭然なんですよ!」


 桐花が必死で誤魔化す。


 正直苦しいかと思ったのだが、弟くんはなんとか納得してくれた。


「そ、そうなんですか。高校生ってすごいな……」

「あ、ああ。そうなんだ。おとうーーぐふっ」


 桐花の腹パン。


「ーーき、君もそのうちわかるようになるさ。うん」


 じゃ、じゃあな。


 そう言ってやっとこさその場を去ることができた。


 足早にゲーセンから立ち去り、人目のつかないところまで行きやっと胸を撫で下ろした。


「あ、危なかった」

「危なかったじゃないですよ! 危うくデートが台無しになるところだったんですからね!」


 ボロを出し続けたが、桐花のギリギリのフォローで辛うじて首の皮一枚繋がったようだ。


 カンカンに怒る桐花に対して頭を下げ続けていると、先に避難していた秋野がやってきた。


「だ、大丈夫だったか? 弟にバレなかったか?」

「秋野さん聞いてくださいよ! この人本当に酷かったんですから!」

「い、いやだな、集中しすぎてわかんなかったんだって。あまりの集中力でゾーンに入って……」

「何がゾーンですか! たかがクレーンゲームに一流アスリート気取りですか!!」


 もうボロクソだった。


「まあまあ桐花さん、バレなかったならとりあえずよかった。弟たちもゲームセンターから出てきたようだし、そろそろ行こう」

「吉岡さん。次こそ気をつけてくださいよ?」

「……はい、気をつけます」



 尾行を再開。 


 一度接触した以上俺はもう尾行から外れた方がいいんじゃないかと提案したのだが、桐花に却下された。


「確かに吉岡さんは目立ちますから再び見つかるリスクは高いです、しかしさっき私と吉岡さんはデートしているカップルとしてあの2人に認識されたはずですから、吉岡さん1人だけいなくなって私だけが見つかった時に言い訳がきかなくなります。最悪秋野さんの存在さえバレなければ、デートコースが被ったカップルって言い訳できますから」

「お前も尾行から外れるって選択肢は?」

「あるわけないでしょう」

「……そっすか」


 なんやかんやで尾行はまだバレていない。慣れてきたというのもあるが、先ほど一件のせいで緊張感が生まれてより一層注意して尾行するようになったからだろう。


 それからしばらくの間は取り立てて変わったことは起きなかった。


 もちろんそれは俺の主観によるもので、当事者のカップル2人には幸せでドキドキするかけがえのない時間であったことには違いない。……そして念のため、それを追いかけ回す桐花と秋野からしても有意義な時間であったことは間違い無いとだけ言っておこう。


 事態がほんのちょっとだけ動いたのは、彼らが文房具屋にいた時だ。


 お互いお揃いのボールペンを買おうかなんて話をしている最中のこと。


「平さん。ごめん、ちょっとだけここにいてもらっていいかな?」

「え、どうしたの実くん?」

「えっとその、トイレ!」


 そう言うや否や文房具屋から飛び出した弟くん。


 別に違和感のない行動。せいぜい緊張でトイレ我慢してたのかなと思う程度だった。


 しかし、そんな弟くんの行動に目ざとく反応した人物がいた。


 桐花だ。


「今すぐ弟さんを追いましょう!」

「は? なんで?」

「いいから早く! 秋野さんも!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ桐花さん」


 何が桐花の琴線に触れたのかさっぱりな俺たちを置いてけぼりに、桐花はトイレに向かう弟くんの後を追った。


 

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