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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第3章 姉にできることはまだあるかい
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エンカウント

 食後、レストランから出てきた2人を追って移動を始めた。


「ふふふ、あの2人外から見えるなかなかいい位置に座ってくれましたね。おかげでお互いの食事を食べさせ合うなんて、良いものを見ることができました!」

「くっ。あーんだなんて、ここ数年私がしても食べてくれないのに。これが家族ではない、彼女の特権というやつか。だめだ(かえで)嫉妬なんてみっともないぞ!」

「お前ら、人が飯食ってるとこ見るだけでよくそこまで盛り上がれるな」


 ストーキングしつつ小声ではしゃぐという器用な真似を見せる2人についていきながら、げんなりとした気分でツッコミを入れる。


「なあ、やっぱどっかで飯食ってきていいか? あんパン一個じゃ足りねえよ」

「我慢してください。私たちには使命があるんですから」

「……ちっくしょう」


 逃さないと言わんばかりに桐花に手を握られ引っ張られる。こいつのその活力は一体どこから湧いてくるもんなんだ?


 カップル2人は午後いちでゲームセンターに入って行った。


「食後だっていうのに元気なもんだな」


 有り余る元気さが羨ましい。あれが若さというものか、なんて現役バリバリの高校生の俺が言うのも変な話か。


「これはちょっと、中に入らないと様子がわからないですね」


 今までは店の外からでも2人の様子を確認することができた。だがこのゲームセンターはかなり入り組んでいて広いためそれは不可能だ。


「諦めて入口で2人を待つしかねえんじゃねえの?」

「いえ、このゲームセンター反対側にも出入り口があるんです。もしそっち側から出て行かれたら見失ってしまいます」


 確率的には2分の1か。


「二手に分かれるという手段もありますが、ここはあえて中に入ってみましょう」

「おいおい、大丈夫かよ」


 今までバレないようにかなり神経を使って尾行してきたのだ。同じ店の中に入るような真似は自殺行為じゃないか?


「幸いにもゲームセンター内はかなり混み合っています。細心の注意を払えば見つかることはないでしょう」

「だとしても見つかる可能性はゼロじゃないだろ。秋野なんか顔見られただけでアウトだろうが」


 顔の割れてない俺と桐花はともかく、秋野は見つかった時点で『なんで姉ちゃんここにいるの?』という事態が発生する。


「そのリスクを負ってでも、行かなければならないんです」

「なんで?」


 なぜそこまで意固地になるんだ?


「このゲームセンターにはプリクラがあります。プリクラの撮影でテンションが上がった2人が、その勢いのままキスをする可能性がーー」

「行こう桐花さん。今すぐに」


 今この場で最も注意を払わなければいけない秋野がグイグイ前へ進む。


「おいこら待て秋野! 桐花お前も足早にゲーセンに入ろうとするな!」


 そもそもプリクラの機体の中での行為をどうやって確認するつもりなんだ?


 そんな疑問に答えてくれる存在はこの場にはいなかった。


 

 ゲームセンター内の混み具合は予想以上であり、桐花の言う通り注意していれば弟くんたちにバレる心配はなさそうだった。


 その2人はいきなりプリクラに向かうなんてこともなく、シューティングゲームやレースゲームを一通り楽しんだ後、メダルを買い込みメダルゲームの機体へ向かった。


 やや幅広の椅子に2人で腰掛け、肩の触れ合う距離感にお互い照れているのが遠目に見てもわかった。


「ありゃあ、しばらくかかりそうだな」


 となると当然終わるまでの間、それを待ち続けなければならない。


 姉である秋野なら、弟がその彼女と仲睦まじくメダルゲームに勤しむ姿を長時間だろうと微笑ましく見守ることができるのだろうが、結局他人でしかない俺にはそんな真似できない。


 人の恋路が大好きな変人桐花であればそんな2人をおかずに飯が食えるだろうが、どこまでも一般的な感性をもつ俺にはそんな変態趣向はない。


 そんな訳で俺は暇つぶしに適当なクレーンゲームをプレイすることにした。


「ちょっと吉岡さん」

「カモフラージュだよ、カモフラージュ。ゲーセンで遊びもしない奴らなんて目立つだろ?」


 なんて適当な言い訳をしながらクレーンゲームの景品を物色する。


 あまりここから離れると桐花にブーブー文句を言われるのは目に見えているので、とりあえず近場で目ぼしい物を探すしかない。


 少し時間をかけてクレーンゲームを見て回る。


「とりあえず、これにしとくか」

 

 俺が選んだのはワイヤレスイヤホンを景品としたクレーンゲーム。最近流行りのアニメのイラストが描かれた物だ。


 500円玉を投入して6回のプレイ権をゲット。陽気な音楽が流れ始めてゲームスタートだ。


「って、このアームよっわ」


 1回目のプレイでこの機体に500円も入れてしまったのは間違っていたことを確信する。景品を持ち上げるアームが異常に弱い。


「くっそ、人気のあるアニメとのコラボだからって、こっちの足元見てやがるな?」


 これは回数を重ねて少しずつ動かして行かなければならないやつだ。


 ジリジリと亀のような歩みで景品を動かしていくこと数回。あっという間に500円分のプレイ権を使い切ってしまった。


「ちくしょ、もう一回」


 再度500円玉を投入する。


 別にこのイヤホンが特別欲しい訳ではない。ゲーセンの景品のイヤホンの性能なんてたかが知れてるし、このアニメのファンである訳でもない。


 ただ既に500円を消費してしまった以上、取れるまでやらなくてはなんか負けた気がするのだ。


「よしよし、今のは結構動いたぞ」


 結局、これがクレーンゲームの沼だ。イヤホンが欲しいのなら今クレーンゲームに注ぎ込んでいる金をその予算に回せばいいのだが、自らの手で景品を勝ち取るという優越感が合理的な考え方を邪魔してくる。


「よ、吉岡くん。そろそろだな……」

「待てよ秋野。今いいとこなんだ」


 体が少し火照ってきているのがわかる。アドレナリンが分泌されて体中を巡っているのだ。


「ちょっと! 吉岡さん!」

「止めるなよ桐花。これは男の勝負だ」


 後少し。この500円のプレイ権が残っているうちに決める!


「吉岡さん! ねえちょっーー」


 周りの音が聞こえなくなってきている。自分が今ゾーンに入っているのがわかった。


「もうちょい、もうちょいだ」


 残すプレイ権は後1回。これで決める!


「こいこいこいこいっ……ッしゃぁオラァ」

「ーー吉岡さん!!」


 達成感と共に、周りの音が耳に入ってくる。真っ先に聞こえたのは桐花が俺を呼ぶ声。


「ん?」

「いてっ」


 振り返るとトンと軽い衝撃、何かにぶつかったみたいだ。


 足元を見れば中学生ぐらいの少年が尻もちをついていた。


「ぶ、ぶつかってごめんなさい!」


 その体勢のまま怯えたように謝ってくる。


 秋野実くんだった。 

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