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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第3章 姉にできることはまだあるかい
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弟くんと彼女さん

「ごめん。待った?」

「ううん。今きたところ」

「そっか。じゃあ、その、行こうか?」

「……うん!」


 初々しいやりとり、お互い緊張しているのがこちらにも伝わってくる。


「なんて、なんて理想的な待ち合わせなんでしょう! 初デートとはかくあるものですよね!」

「……そうだな」


 そんな2人を見た桐花は1人で身悶えていた。


 俺たちが見守る視線の先、今回のターゲットである(こんな表現はどうかと思ったが、他にいいのが思いつかなかった)秋野(みのる)平睦月(たいらむつき)が待ち合わせ場所である施設の入り口前に現れていた。


 弟の実くんは線の細いお坊ちゃんという様相の少年だった。肩下げの鞄に合わせた服装もシンプルで大人しいものだが、それがかえって上品なイメージを醸し出している。


 対して彼女さんの平睦月は少し派手な、どちらかといえば今時のギャルっぽい印象の少女だ。


「あれが彼女の睦月さんか。正直イメージと違うな」


 目を細めじっくりと観察する秋野。案外将来の義妹となりうる存在を今日のデートで見定めようとしているのかもしれない。


「確かに俺も思ってたのとは少し違ったな。髪も染めてるみてえだし」

「そうか? 確かに少し明るい気がするが、ほぼ黒髪だぞ?」

「いいや俺にはわかる。大抵の中学は髪染め禁止だろ? あれは『違いますー。染めてるんじゃなくてこれは遺伝なんですー』って言えるギリギリを攻めた髪色だ」

「……さすがですね吉岡さん(金髪のチンピラ)


 いい度胸している。個人的に彼女の好感度がちょっと上がった。


 そのまま2人は施設へと入っていく。2人の間にはやや距離があり、どこかぎこちないような、まさしく付き合いたての2人といった感じが出ている。

 

「平さん。あの、その……」

「ん? どうしたの?」

「……私服初めて見たけど、似合ってる。可愛いよ」

「あ、ありがとう実くん」


 弟くんは直視できないのか、やや視線を逸らしながら彼女の服装を誉めた。彼女も驚きや照れが混じっているが嬉しそうだった。


「……なんで中学生にできることが、吉岡さんにはできないんですかねえ?」

「うるせえな」


 ジト目でこちらを見てくる桐花が鬱陶しい。


「さて。私たちもいきましょうか」

「ああ。しっかりこのデートを見守るぞ。秋野家の未来のために!」

「……おう」


 こうして中学生カップルの初デートのストーキングが始まった。


 彼らはまず雑貨屋で何やら面白そうな、しかし買ったら買ったで結局日常生活で使い道のなさそうな道具を冷やかして時間を潰し、その後は施設内のあらゆるショップ、服やらアクセサリーといった小物がある店を回っていた。


 見た目の印象通りと言うべきか、どちらかといえば彼女の方がアクティブで弟くんを連れ回しているようだった。しかし弟くんはその状況に嫌な顔ひとつ見せずニコニコと彼女について回っていた。


 お互いこんな服が似合うんじゃないかと言いながら試着したり、彼女さんが中学生にしては攻めた服を試着して弟くんの顔を真っ赤にさせたりと、非常に楽しそうだった。


 しかしそれを見ているだけのこちらは全く楽しくない。デートがあまりに順調過ぎてこちらの出る幕などない。(そもそもトラブルがあったとして、俺たちが一体何をすれば良いのやら)


 何が楽しくてこんな天気の良い日に中学生の初デートを付け回さなきゃいけないのやら。正直俺いらねえんじゃねえかとか、もう帰っていいんじゃねえかとか何度も頭をよぎったのだが、よくよく考えれば俺がいなくなるとそこに残るのは桐花 (人の恋路が大好き。暴走の危険性あり)と秋野 (ブラコン。暴走の危険性あり)だという事実に気づくと残らざるをえなかった。


 げんなりしている俺とは対照的に、桐花も秋野も生き生きしている。


「ふむ。平睦月(たいらむつき)さんとやらなかなか弟のことを見ているようだ。(みのる)にはカジュアル系が最も似合うと思っていたのだが、まさかあえてアウトドア系で攻めるとは盲点だった」

「あぁ。これまでいろいろなカップルのデートを見てきましたが、中学生の初デートは初めてです。こんなにも初々しくて心ときめかせるものだったとは。これは1秒たりとも見逃せません。全てこの網膜に焼き付けなくては!」


 ……秋野。あんたの弟の初デートが桐花の欲望の肥やしになってるが、いいのか?


 俺の心配をよそに秋野はそのことを気にするそぶりはない。それどころか桐花と一緒に初デートを見守るのを心の底から楽しんでるようだ。


「む! あれを見てください秋野さん!」

「どうした桐花さん」

「彼女さんの隣を歩く弟さんの手、彼女さん側の手が落ち着かなさそうにしています!」

「まさか……! あれは、手を繋ごうとしているのか!!」

「そうです! 今弟さんは迷っています! 初デートでいきなり彼女の手を繋いでいいのかと、嫌がられるんじゃないか、がっついているように思われるんじゃないかと!」

「違う、そこは攻めるべきだ実! 平さんはお前が手を握って来るのを待っているはずだ!」

「そうです。繋いでください、弟さん!」

「繋げ実! 秋野家の男なら、繋げ!」

「繋げ繋げ繋げ…………っ!?」


「「Hoo!!」」


 ハイタッチを決める決める秋野と桐花。周りの人が何事かとこちらを見てくる。


「……もう少しこいつらと離れて歩けばよかった」

 

 意気投合してやがるこいつら。

 

 そんなやりとりを続けているうちに午前はすぎ、昼飯時となった。


「ほう、お昼はイタリアンですか。いいんじゃないですか? あそこは値段も手頃だし、何よりおしゃれでラーメンなんかよりよっぽどデートむきです」

「こっち見んな」


 弟くんたちはレストラン街の一角、スパゲッティが美味しいと評判のイタリアンレストランに入って行った。


「俺らもどっか入るか」


 まさか同じ店に入るわけにもいくまい。幸いにもここはレストラン街、和食から洋食までなんでも揃っている。


 先ほどから辺りに漂う美味そうな匂いに食欲を刺激されて、いい具合に腹が減ってきたところだ。


 しかしーー


「何言ってるんですか。お店になんて行きませんよ」

「え!?」

「当然でしょう。他のお店で食べてる間に2人が出てきたらどうするんですか。ここで2人が出てくるのを待つんですよ」

「じゃ、じゃあ昼飯どうすんだよ!」

「桐花さん、昼食を買ってきたぞ」

「おー! あんパンと牛乳! わかってるじゃないですか秋野さん。やっぱり張り込みにはこれですよね!」

「いや俺、昼飯は塩っ気あるもんじゃないと食った気しないんだがーー」

「む、そうか吉岡くん。なら君にはこれをあげよう」


 そう言って秋野が袋から取り出したパンを受け取る。


「塩あんパンだ」

「違う! そうじゃないんだ!!」


 悔しいことに秋野が買ってきたパンはなかなか美味かった。

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