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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第3章 姉にできることはまだあるかい
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遠足じゃない

 デート先の選定はまだ続いていた。


「で、どうする? 動物園にでもしとくか?」

「まったく、子供の遠足じゃないんだからもっと真剣に考えてください。動物が苦手な人だっているんですからね」

「確かに私も嫌いではないが、匂いがちょっとな。動物園だと獣臭さが気になるな」


 なるほどそんなものか。それによくよく考えればこの辺りに動物園などなく、かなり遠出することになる。初デートは近辺がいいという話だったはずだ。


「じゃあこの辺だと水族館……はまだ遠いか。植物園、あれじゃ1日持たねえな。科学館は改装のために休館中だし……」

「吉岡さんのチョイスってなんか遠足っぽいですよね」

「うるせえな」

「もうちょっとムードを考えましょうよ。デートで遠足の空気が出ちゃったら雰囲気ぶち壊しですよ」

「わかってるけどよ」


 考えれば考えるほど候補先を絞るのが難しくなってくる。遊ぶ場所はそれなりにあるはずなのだが、デート先と考えるとどうもしっくりこない。


 頭を悩ませていると秋野が提案をしてきた。


「もういっそのこと自宅デートというのはどうだろう?」

「自宅?」

「ああ、秋野家総出で迎えて豪勢に宴会なんてのはどうだ?」

「……ハードル(たっけ)え」


 なんだよそれ、嫁入り一直線じゃねえか。結納するまで帰さねえってプレッシャーを感じる。


「ま、まあ自宅デートはもう少しお互いの仲が深まってからがいいでしょう。あまりご家族の方がでしゃばるのも良くありません」

 

 流石の桐花も頬を引きつらせてガチのアドバイスをしている。


「いきなりお互いの家に行くというのは緊張してしまいますからね、それよりもいいデート先があります。お互い緊張することなく楽しめるデート先が」

「……本当か? さっきの提案のせいでお前の信頼が若干揺らいでるんだが」

「大丈夫ですよっ! うう、さっきのデートプランだって長年シュミレーションを重ねて作り上げた自信作だったのに!!」


 ……シュミレーションって、それお前の妄想じゃねえの?


「まあいいや。それでお互い緊張することなく楽しめるデート先ってどこだよ」


 さっきの提案、少なくとも要所要所は良かったのは事実だ。全体のプランはまだしも、こいつの勧めるデート先なら期待できる。


「この街の住民ならおなじみ、虹山運動公園です」

「って、それこそ子供の遠足じゃねえかよ」


 虹山運動公園はこの街で一番でかい公園だ。この街の住民なら一度は訪れたことがある場所、というよりなんならこの辺りの幼稚園、小学校の遠足先の定番スポットだ。


「お前あんなとこ本当に広いだけの公園じゃねえか。子供の遊具と原っぱぐらいしかねえぞ」

「あれ? 知らないんですか吉岡さん? 数年前にあそこ大幅に改装されたんですよ」

「え、マジで?」


 小学生の時の遠足以来行った事ないから知らなかった。


「昔は本当にただの子供の遊び場でしたが、改装されてからはテニスコート、パターゴルフ場、大型アスレチックなど、大人でも楽しめる場所に生まれ変わって、休日は家族連れやカップルで賑わうこの街の名所になっています」

「マジかよ、そんなんなってんのか」

「はい。確か弟さんの趣味はサイクリングで、彼女さんはバスケ部でしたよね? 目一杯体を動かす初デートというのも良いものだと思いますよ。ちなみに今度の休日、天気予報はバッチリ晴れ100%です」

 

 桐花の提案はかなり魅力的なものに聞こえた。お金のかかる遊び場じゃないところも中学生には優しいし、何より子供の頃に一度は行ったことのある思い出の場所のはずだ。そう考えると虹山運動公園という選択肢はかなりありだと思う。


 しかし顔をしかめた秋野が苦言を呈す。 


「確かに悪くない提案だが、あの辺りは確か飲食店がなかっただろう? まさかコンビニで買ってから行くのか?」

「それは……確かに雰囲気ぶち壊しだな」


 初デートの食事がコンビニ飯ではあまりに安っぽい。


「そこもしっかり考えました。初デート、公園というシュチュエーション。これは手作り弁当の出番だとね」

「手作り弁当? 彼女さんに作ってくれってお願いするのか?」


 なんか図々しくねえか? と思ったのだが、即座に否定される。


「違いますよ! 作るのは弟さんです!」

「弟くんが? え、男が手作り弁当?」

「まったく古い人ですね吉岡さんは。今時男の人が料理するなんてフツーですよ。むしろ女子的には料理できる男子はポイント高いですよ?」

「マジ?」


 ちらりと秋野の方を見れば彼女もうんうんと頷いている。


「確かに、男子厨房に入るべからずという考えは古い。現に弟もある程度なら料理ができる」

「でしょう? お昼は弟さんの手作り弁当を2人でつつく、これに決まりですね!」


 俺が軽いカルチャーショックを受けている間にことは進んでいた。


「どうせなら水筒も持ってっちゃいましょう。コップ付きの水筒を2人で共有しながら使って関節キスにドッキドキなんて定番中の定番ですね!」

「ああ。あと他に持ち物は汗をかいた時のためにタオルと、あとはハンカチだな」

「確かに! たまに男の人でハンカチ持ってなくて服の裾でふく人いますけど、あればっちいですよね! 見てるこっちはドン引きですよ」


 ハンカチを持ち歩かない派の俺は少し傷ついた。


 桐花はカバンからルーズリーフとペンを取り出した。


「これまでの話し合った内容をまとめて計画書にしちゃいましょう。集合は北上駅前でいいですよね?」

「ああ。あそこからならバス一本で虹山運動公園まで行けるしな。弟も彼女さんの家からも近い」

「じゃあそこに9時集合で。服装は動きやすい服装がいいですね」

「そうだな。あ、弁当を持って行くなら他にウェットティッシュもーー」

「なるほど、それならーー」


 桐花と秋野の打ち合わせは続いていく。


 嬉々とした表情で計画書を書き出す桐花。人の初デートプランを考えるのが楽しくて楽しくてしょうがないと言った様子だ。


 だがその表情が途中で陰る。


 口元の笑みが消えていき、スムーズだったペン先が鈍いものに変わっていく。

 

 その理由は、桐花が書き上げた計画書を見ると明らかだった。


「…………なあ、桐花」

「言わないでください」

「この計画書、これってーー」

「言わないでください」


 俺の言葉を遮り続ける桐花。


 しかし自分がミスをしたという自覚があるのかその声には覇気がない。


「き、桐花さん。この計画書、とてつもなく見覚えがあるのだがーー」

「言わないでください。秋野さん」

「し、しかし。これはーー」


 秋野の戸惑う声。その理由は分かりきっている。


 桐花の書き上げた計画書、これはーー



[初デート計画書]

・行き先

 虹山運動公園


・スケジュール

 9:00 北上駅前集合。バス移動30分

 9:30 虹山運動公園到着

 9:30〜12:00 自由行動

 12:00〜13:00 昼食

 13:00〜15:00 自由行動

 15:00 バス移動30分

 15:30 北上駅到着 その後解散。


・持ち物

 お弁当

 水筒

 ウェットティッシュ

 敷物

 タオル

 ハンカチ


・服装

 動きやすい服

 運動靴


※雨天時、翌週に延期



「…………」

「…………」

「…………」


 重苦しい沈黙。


 俺は勇気を出してこの沈黙を破った。


「これは……遠足のしおりだな」

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