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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第3章 姉にできることはまだあるかい
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最高のデートプラン

「私の持論では恋人関係がうまくいくかどうかの90%は初デートの印象で決まります」

「また適当言いやがって……」

「一緒に遊んでいてつまらない、一緒にいることが苦痛だ、そんなふうに思われてしまったら一巻の終わりです。初デート成功の秘訣はお互いが楽しめるものにすること。そのためにもどこに行くかがまず重要になってきます」

「場所選びか」


 まあ、当然だな。


「お互いが楽しめるデート先を考える。そのためにはデートに行くお二人の詳細な情報が必要です。秋野さん、弟さんと彼女さんのことをもっと詳しく教えてくれませんか?」


 一瞬、こいつはデートプラン作成にかこつけて自分の趣味に走ってるんじゃないかと考えたが、今のところ言ってることは正論であるため黙っていた。


「そうだな。弟の名前は(みのる)北上(きたがみ)中学2年生だ。趣味は読書とサイクリング。特にミステリー小説が好きで、その感想をよくSNSに載せている」

「ほお、ミステリー好きですか。私と話が合いそうですね」

「お相手の名前は平睦月(たいらむつき)さん。同じく北上中学の2年生。バスケ部で趣味は読書。弟以上にミステリーが好きらしく、特に海外の古典ミステリーに目がないそうだ」

「いい趣味してますね」

「……ちょっと待ってくれ。弟の彼女の情報がなんでそんなにほいほい出てくるんだ?」

「ん? 弟が全て教えてくれたぞ?」

「マジかよ……! どんだけ仲良いんだあんたら」


 軽く戦慄を覚える。


「なるほど。つまりお互いミステリー小説が好きでそれ繋がりで付き合うことになったと」

「そうだ。弟がSNSに載せたミステリー関係のつぶやきに対してよく感想をくれてたそうだ」

「なら、近くの図書館とかいいんじゃねえの?」


 ふと思いついたことを口にするが、女性陣からダメ出しを喰らう。


「悪くはありませんが初デートでいきなり図書館は難しいと思います。図書館ではあまりおしゃべりはできませんから、静かに本を読むだけのデートになりますよ?」

「そうだな。どちらかと言えば付き合ってそれなりに経ってから、学校帰りに行くデート先というイメージだな」

「……そうっすか」


 ちょっと凹んだ。


「まあでも身近なところを初デート先に選ぶというのは悪くないです。いきなり遠出して移動だけで疲れるようなデートは嫌ですから」

「身近なところか」


 身近なところ、身近なところ……


 そうやって考えていると、ふと思い出したことがあった。


「なあ秋野。北上中学ってことは、弟くんも彼女も北上区だよな?」

「ん? まあ当然そうだが」

「確か北上区の飲食店がこの前テレビで紹介されてたな」


 思い出す。休日の朝、なんとなしに見ていたテレビで割と近いところの店がテレビで大々的に紹介されていて、印象に残っていたことを。


「何、本当か?」

「ああ。グルメ番組で紹介されてて、なかなか美味そうな店だったぞ。そことか良いんじゃないか?」

「確かに良さそうだな。テレビに出るくらいなら味の保証もあるだろうし、話題にも事欠かない!」

「……そんな番組やってましたっけ? 私その手の恋人のデートとかに良さそうな場所の情報は結構集めてるんですけど」


 桐花は訝しげな表情を浮かべながらスマホで検索をかけ始めた。


「おう。しっかりやってたぞ」

「なんてタイトルの番組ですか?」


 あれは確かーー


「確か『バカうま! 全国の行列ができるラーメン屋巡りの旅』だったーー」

「却下で」

「却下で」


 俺が言い切る前に切り捨てられた。


「え、なんで!?」

「吉岡くん、本気で言っているのか? それがダメなことくらい私でもわかるぞ」

「いやだって、ラーメンうまいじゃん!」

「別にラーメン屋が悪いとは言いませんけど、初デートの行き先がラーメン屋はあんまりです。まあ、最近はおしゃれなラーメン屋さんも増えてきましたから、そういうのであればまだ……ってちょっと」


 スマホを片手に検索をかけていた桐花はそこで言葉を切り、憤慨したように机をバンっ! と叩いた。


「今調べましたけど吉岡さんの言ってるお店○郎系じゃないですか! ありえませんよデートで○郎系なんて!!」(※個人の感想です)


 何度も机を叩く。


「女の子を○郎系に連れてくなんてどういう神経してるんですか! あんなおしゃれとは程遠い場所!」(※個人の感想です)


 まだ叩く。


「そもそもあんな栄養価の偏ったラーメンなんて、女の子は喜びませんよ!」(※個人の感想です)


 ボロクソだった。


「じゃ、じゃあなんだ! お前なら最適なデートプランを立てられるのか!?」


 あまりの言われように少し涙目になりながら反論する。


「当然です! 私を誰だと思ってるんです?」

「学園一のデバガメ女」

「うっさいです! いいですか? 先ほども言った通り私は常日頃から恋人のデートスポットに最適な場所やおしゃれなレストランの情報を集めています。そして、こんな日がいつか来るだろうと思って誰であろうと楽しめる、最高のデートプランを既に考えてあるのです!」


 自信満々に胸を張る桐花。


「聞かせてくれないか桐花さん」


 少しウズウズした様子で秋野が訪ねる。


 確かに、恋愛ネタが大好きすぎてその名を学園に轟かせている桐花の考えたデートプランというものには興味が惹かれる。デートスポットやおしゃれなレストランの情報を集めているという言葉も嘘ではないだろう。


「いいでしょう。しっかりお聞きください」


 そうして自信に満ちた顔で話し始める。


「まず待ち合わせです。『待った?』『ううん、今きたとこ』なんて定番のやりとりを交わしながら喫茶店へ向かいます。駅前のアモーレ珈琲なんていいでしょう。あそこはモーニングが絶品ですから。刺激的なコーヒーとカリッとしたトーストで眠気を覚ましながら2人で今日のデート先について話し合います」

「ほう」

「喫茶店を出てウィンドショッピングに向かいます。特に目的もなく、時たま目についた商品を気ままに試着して『似合ってるよ』『そう? じゃあ買っちゃおうかしら』『僕が出すよ』そんな会話を挟みつつさりげなく彼女にプレゼントを渡します」

「ほうほう」

「昼食にイタリアンレストランでパスタを食べて英気を養った後、ワンダーワールドで目一杯遊びます」

「ワンダーワールドって、確か遊園地の」

「はい。そして1日の締めくくり、夜景の見えるレストランでディナー。これは外せませんね。『今日楽しかった?』『うん、また来たいね』『もちろん。いつでも連れて行くよ』そして2人はーー」


 自分で話していて感じ入ったのか、その先の言葉はなかった。


「どうですかお二人とも! これ以上ない最高のデートプランでしょう!」


 フンスっと鼻息荒く、キラキラした笑顔でこちらに向ける桐花。


「これは……あれだね」

「ああ」


 俺と秋野は目配せしながら頷く。


「却下で」

「却下で」

「なっ!?」


 迷うことなく切り捨てた。


「な、なんでですか!!」


 納得いかないのか身を乗り出しながら抗議してくる。


「すまない桐花さん。なんというかその……詰め込みすぎだ」

「ああ。モーニングからディナーまでってどんなハードスケジュールだよ。初デートだぞ?」

「せめてウィンドショッピングと遊園地、どちらか一つに絞れないかな? メインが二つもあるとお腹いっぱいだ」

「第一そのスケジュールだと荷物どうすんだよ? 服やらなんやら買った後にそれ持ったまま遊園地で遊ぶのか?」

「それに夜景の見えるレストランでディナーだなんて、まず中学生がそんな店に入れるのか? お金もかかるだろうに」

「そもそもそんな時間帯まで中学生が出歩いてたら補導されるっつの」

「桐花さんのプラン要所要所は悪くないんだが、現実味がないというか」

「だよなあ……なあ桐花、前々から思ってたけど、あんだけ人の恋愛ネタ集めてるくせして実はお前自身は全然恋愛経験ないだろ? デートの経験ひとつもないからこんな夢見がちなデートプランができちまったんじゃないか?」


 俺たちの言葉聞きながら、桐花は顔を真っ赤に染め上げプルプルと震えている。


 そして爆発した。


「うっさいです、うっさいです!! 吉岡さんの癖に……うっさいです!!」


 その日俺は、世にも珍しい語彙力を無くした桐花を目にした。

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