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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第2章 小さな恋の詩
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エピローグ なんだかんだで大団円

「なあ、結局さ」


 樹に送られていたと思われていた詩の真相を解明した翌日の放課後、俺と桐花は根城にしているボランティア部の部室でたむろっていた。


 赤いカバーのついたメモ帳に何やら熱心に書き込んでいる桐花に、俺は昨日から気になっていたことについて質問した。


「甲と乙は誰だったんだ?」


 確か甲が女子生徒、乙が男子生徒であったはず。2人のことは顔も知らないのだが、ここまでくればその正体が気になってしまう。


「甲は3年の女子生徒、乙は書道部2年の上野さんです」

「なんで?」

「まあ単純な話ですよ、2人が上級生だからです」

「ん? どういうことだ?」


 上級生だからとか、1年だからとか関係あるのか?


「その2人は樹さんがロッカーを間違って使っていることに気づかなかった。ということはですね、樹さんが通常通り緑の5番のロッカーを使っていると思い込んでいたことになります」

「ほお」

「あの事件の発端は泉先輩が緑のロッカーを青のロッカーと表現したことが始まりです。普通だったらそんな表現をしているなんて初見じゃ気づきませんよ。もし1年生が甲と乙だった場合、自分たちがやりとりしていたロッカーは樹さんのものになったと勘違いするはずです。樹さんと同じくね」

「だから1年生ではない」

「はい。上級生のお二人は泉先輩のその()を知っていた……いえ、むしろ慣れきっていたからこそ、樹さんが勘違いしていることに気づけなかったんだと思います。図書委員は去年からの持ち上がりですから」

「なるほどな」


 ここまで説明して桐花はパタンとメモ帳を閉じ、持っていたペンをクルクルと回す。


「おそらくですが、お二人が詩を送り合う()()を始めたのは今年の4月になってからでしょうね。今年度から図書当番の割り当てが変わったそうですから。どういう経緯でそうなったのかわかりませんが、4月から週に一度相手に詩を送る関係になった」


 素敵ですよね。なんて桐花は笑った。


「おそらく2人は互いに相手が誰なのか知らなかったんだと思います。同じ火曜と水曜の図書当番であることはわかっていても、男子2人女子2人で確率的には2分の1ですからね」

「誰なのか知ろうとしなかったのか?」

「多分しなかったと思いますね」


 なんで?


 そう質問した俺に対してクスリと笑いながら答えた。


「だって、そっちの方がロマンチックじゃないですか」


 本当、こういう時ほどいい顔で笑いやがる。


「しかしまあ、そうなると甲も乙も気の毒だったな」

「確かにそうですね。密やかな文通に、知らなかったとはいえいきなり樹さんが割り込んできたわけですから」

「ああ、あのギャル文字の短歌な」

「大混乱だったと思いますよ。まさか全く違う人物が送ったものとは夢にも思わなかったでしょうし、確かめようにも相手がわからないわけですから。相手が錯乱したと思ったかもしれませんね」

「樹もちょっと青ざめてたな。私のせいで2人の関係が壊れた! って」

「そのあたりは大丈夫ですよ。私の授けた秘策がーー」


 その時、コンコンと控えめなノック。


 桐花がはい、と声を上げると髪が長くてちょっと背の高い女子が入ってきた。


「こ、こんにちは」

「よお」

「樹さん、いらっしゃいです」


 桐花が差し出したパイプ椅子におずおずと座る。


「で、どうだった?」

「はい、全部うまくいきました」


 桐花が授けた秘策。樹が一度ぶっ壊した甲と乙の関係を修復するための策は至って簡単だった。


 月末の会合で自分が間違ったロッカーを使用していたことを報告する。それだけだ。


 事情を知らない奴から見ればただの間違いの報告だが、これは甲と乙に対するメッセージ。私が間違ってあなたたちの関係に割り込んでしまいましたという懺悔のようなものだ。


「わ、私が報告すると、顔色を変えた2人がいたので多分気づいたと思います」

「ならもう万々歳だな」


 2人の関係は元に戻る。また短歌を送り合うようになるだろう。


「はい、万々歳です。……私以外は」

「……うん」

「これでハッピーエンドですね。……私以外は」

「…………」


 気まずい。


 今回の事件。あえて誰が悪いかを挙げるならば、ギャル文字の短歌を送りつけた樹だろう。もしあれが普通の短歌であったなら筆跡の違いやらで、甲も乙も第3者が介入していることに気づいたはずだ。ギャル文字は文面のインパクトが強すぎて筆跡どころではない。


 だが、誰が1番の被害者であるかと言われれば、それも樹だろう。


 無駄にドギマギさせられ、顔も知らない差出人を想い、最後はそれが全てただの勘違いだったと突きつけられる。……言っちゃなんだが黒歴史(ギャル文字)もできた。


 ただひたすらに気の毒だ。同情することしかできない。


「私……なんなんでしょうね? 勝手にぬか喜びして、1人で盛り上がって」


 どこか遠くに視線を向ける樹。声の調子が平坦すぎるのも逆に哀れだ。


「で、でも元々付き合うつもりはなかったんだろ?」

「それはそうでしたけどっ、いいじゃないですか別に夢見たって!!」


 両手で顔を覆って嘆く樹。あまりに可哀想で見てられなかった。


「私だって思春期の高校生ですよ!? 私のことを好きになってくれた人はどんな人なんだろうとか、素敵な人だったらいいなとか、そういうのちょっと考えてもいいじゃないですか!?」

「お、おう」

「すぐに付き合おうとなんて考えていませんでしたけど、短歌でのやり取りで少しずつお互いのことを理解していって最終的には結ばれるなんて、ちょっとぐらい妄想してもいいじゃないですか!!」

「えぇ、あのギャル文字の短歌まだ送りつけるつもりだったのか」


 ギャル文字気に入ってるのか?


「やっぱりです。私みたいなでかい女好きになってくれる人なんていないんだ……」

「そ、そんなことねえって」


 一度ネガティブが暴走したら止まらない。なんとか慰めようとするが効果はなかった。


「みんなちっちゃい女の子が好きなんだ! 小動物系アイドルの九条さんみたいな!!」

「いやあれは小動物系って言うか……」


 どちらかと言えば小型の肉食獣という表現の方が近い。俺は密かにウルヴァリンと呼んでいる。


 樹の嘆きっぷりがあまりに酷いので助けを求めて桐花を見るが、視線をそっとそらされる。


 まじかよ、俺でなんとかしろってか?


「な、なあ。気にすんなよ、人間見た目じゃねえって」

「……そんな言葉嘘っぱちです」

「嘘じゃねえって。ほら俺を見ろ、こんな見た目だけど別に不良じゃなかっただろ?」


 今回の事件で樹とはちょっとだけ仲良くなれた。俺が不良じゃないことはわかってくれているはずだ。


「……まあ、確かにそうですけど」

「な。見た目にとらわれずに中身を評価してくれるやつはどこにでもいるんだよ」


 ほんの少しだけ、樹が顔を上げだ。


「第一俺からすればお前も桐花もまとめてチビだよ」

「チビ? 私がですか?」

「おう。チビだチビ」

「私が……チビ。ふふふ、ははは」


 そう言うと、何やらツボに入ったみたいで声をあげて笑い始めた。


「すみません、チビなんて言われたの初めてで」


 そう言って笑顔を見せる樹は、とても魅力的に見えた。


 和やかな雰囲気。


 樹の後ろ向きな気持ちも晴れたところで、桐花が立ち上がり樹の方にポンと手を置く。


「樹さん」


 労るような優しい言葉と視線。そしてーー



「最初の約束通り、これで私たちの部活に入ってくれますね?」

「……お前本当、そういうとこブレねえよな」

これにて第2章終了です。

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。

現在第3章作成中です。できる限り早く投稿できるよう頑張りますので、これからもよろしくお願いします。


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