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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第2章 小さな恋の詩
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差出人候補

「吉岡さんがくだらないことを喋っている間に、泉先輩から火曜日と水曜日の昼休みの図書当番について聞いてきました」


 ぎろり、と冷たい視線を送られる。


 いやあれは違うんだって、樹と少しでも打ち解けようとした結果なんだって。


「聞いたところによると、火曜日と水曜日の図書当番は同じメンバーで4人いるそうです」

「4人? 多くないか?」


 放課後の今の図書当番は泉先輩と樹の2人だけだった。その上今は泉先輩1人で仕事をしているはずだ。


 そんな俺の疑問に樹が答えた。


「ひ、昼休みの方が忙しいんです。時間が限られている上、放課後部活で来れない生徒が集まるからいつも図書カウンターが混んでいて」

「はい、だから泉先輩曰く今年度から昼休みは4人体制になったそうです」

「なるほどね」


 候補者が増えて難儀しそうだ。


「図書当番は1年と2年の男子が2人、1年と3年の女子が2人だそうです」

「となると、候補者は2人か」

「はい、そして休憩時間の関係などから誰か1人は図書準備室にいるそうなので、全員に詩を書くチャンスはあります」


 桐花がペンを取り、ホワイトボードに名前を書き込み始めた。


「1人は1年の伊沢実(いさわみのる)さん。サッカー部だそうです」

「へえ、サッカー部」


 なんとなくだがサッカー部が図書委員になるのは違和感がある。そう感じるのは俺の偏見だろうか?


「もう1人は2年の上野弘(うえのひろし)さん。書道部です」

「書道部?」


 それを聞いておや? と思う。


「確か書かれていた詩、やたらと達筆だったよな?」


 これはもう決まったんじゃないか? 


 そう思ったのだが、桐花は残念そうに首を横に振る。


「いえ、私もそう思ったんですが、サッカー部の伊沢さんも通信教育でペン習字を習っているらしくて」

「通信教育って……」

「なんでも中学まではひどい悪筆で、それをみかねた親御さんに強制的にやらされたそうです。そのおかげで今はなかなか達筆だそうですよ」


 そらまた面倒な偶然だ。


「なので筆跡からの特定は難しいですね。なのでもっと他の方法で絞り込まないと」

「他の方法か……」


 候補は2人。そのうちの1人が差出人であることは間違いない。


 ならーー


「なあ、なら1人1人ーー」

「まさか1人1人問い詰めるなんて馬鹿なことは言わないでくださいね。『無断恋愛禁止』なんて校則のせいで皆恋愛に関して慎重になってるこの学園で、名前も明かさずひっそりとラブレターを送り続けていた人に対して、そんなデリカシーのない真似するわけありませんよね?」

「……うん」


 一言一句正論。


 大人しく引き下がるしかない。


「樹、この2人と仲良かったりする?」


 こうなったら正攻法。どっちが樹を好きなのか調べるしかないだろう。


「ううん、喋ったこともないです」

「え、同じ図書委員だろ?」

「そ、そうですけど。私図書委員に入ってまだ1ヶ月しか経ってないですし、会ったのも月一回行われる月末の会合、顔合わせの時の一回だけです」


 会ったのは顔合わせの一回きりだって?


「ということはそれはーー」

「一目惚れですね!!」


 俺のセリフを奪い取った桐花は興奮気味に樹に詰め寄る。


「一目惚れであそこまで熱烈なアプローチができるなんて、なんて情熱的な方なんでしょう!!」


 両手を握って目を輝かせている。今にも踊り出しそうだ。


「ひ、一目惚れだなんて! 私みたいなでかい女に……」

「いや、別に不思議じゃないだろ」

「え?」


 どうやら樹は自分の身長にコンプレックスがあるようだが、俺からすれば些細な問題だ。


「いいか、世の中にはゴリラに一目惚れする女がいるんだ。多少背の高い女に一目惚れする男がいても不思議じゃない」

「ご、ゴリラに一目惚れって、どんなシチュエーションですか!?」


 まあ意味わかんないだろうな。俺も意味わかんない。


「とにかく、一目惚れならこちらからは確かめようがありませんね」


 桐花はそう言って口元に手を当て考え込む。


「……樹さん。樹さんがあのロッカーを使うことを知ってるのは誰ですか?」

「ああ、あの青の5番のロッカーか」


 つまり樹があのロッカーを使ってることを知らなければ、ラブレターを送ることもできないと。


「多分図書委員全員だと思います。顔合わせの時に、泉先輩がみんなに『樹ちゃんには青の5番のロッカーを使ってもらいますからー』って言ってましたから」

「まあ、普通みんな知ってるか」


 となると、この線で絞り込むことは不可能だな。


「じゃあこの詩でのアプローチをしそうなのはどっちかって考えるのはどうだ?」

「あー、つまりどちらの方が短歌を送りそうかって話ですか?」

「そうそう、俺の見立てだと書道部の方が、っぽいんだけどな」

「言わんとしていることはわかりますが。それだけだと決定打に欠けますね。別にサッカー部で短歌好きでもいいじゃないですか」


 まあ確かに。流石にそれは俺の偏見か。


 そもそも相手は短歌で自らの恋心を伝えようとしている人物だ。そんな高尚な人間の気持ちなんて、どこまでも俗っぽい俺には推し量れない。


 そんなことを考えながらホワイトボードに書かれた短歌に目をやる。


 火曜日1回目『恋すてふ わが名はまだき立ちにけり 人知れずこそ思ひそめしか』

 水曜日1回目『わが恋は 虹にもまして 美しき いなづまとこそ 似むと願ひむ』

 火曜日2回目『思へども なほぞあやしき 逢ふことの なかりし昔 いかでへつらむ』

 樹さん1回目『ステキな詩 マヂでぁりがと本トゥに! どちゃくそ胸がドキドキするねッ♡』

 水曜日2回目『嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知る』

 樹さん2回目『タ``ァれなん? ス〒≠ナょ言寺を<レたノノヽ ぁナタカゞ言隹カゝ ぅちレよ矢ロ丶)タレヽ』


「なんていうかこういうのみてると、ムズムズするな」


 背中がかゆくなるような感覚とでもいうのだろうか?


「わ、私の返事の話はもういいじゃないですか!?」

「ちげーよ。そっちじゃなくてまともな短歌の方だよ」


 桐花はなんのことやらわからないと言った様子で首を傾げる。


「いやな、なんか見ていて気恥ずかしいというか。あの『思へどもーー』ってどういう意味だっけ?」

「私の恋は、虹よりも美しく、稲妻のように激しくあってほしい。ですね」

「ほら、特にそれなんて見てて気恥ずかしくなるというか……」


 照れ臭さが表情に出てしまったのだろう。俺の顔を見て桐花が少し笑った。


「ふふふ、男の人はそうかもしれませんね。なにせ、この短歌の作者はあの有名なーー」


 そこまで言って、桐花はピタリと止まる。


 そのままぎこちなくホワイトボードに目をやる。


「ん?」


 そして次にロッカーに目をやって不思議そうな顔をする。


「……あれ?」


 そしてそのまま何やら考え込む。その間わずか数秒。


「…………あ」


 何かに気づいた表情を見せる桐花。


「おい、差出人がわかったのか?」

「え、ええ」

「ほ、本当ですか!?」


 樹が興奮したように立ち上がる。


 しかし、その樹とは対照的に桐花の表情は優れない。いつもであれば謎を解けた直後は不敵な笑みを浮かべるのだが、今浮かべている表情は明らかに戸惑いだった。


「差出人が誰なのかわかりました。ただ、その、思っていたのとかなり違うと言いますか」

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