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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第2章 小さな恋の詩
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部員候補その1

10万文字突破しました!

みなさんここまでお付き合いいただきありがとうございます!

 放課後、桐花に連れられてやってきたのは学園の図書室だった。


 図書室なんてこの学園に入学してから一度も利用したことのない非読書家の俺はその扉を開けるのに躊躇するが、桐花はなんの遠慮もせずにその扉を開け放った。


「頼もー!」

「声落とせよ、道場破りか」


 図書室という静かな空間に響き渡る桐花の大声にヒヤリとするが、幸いにも図書室の利用客は少なく、数少ない利用者も一瞬こちらに目を向けるだけで特に咎めることもなく本の世界へと没入していた。


 桐花はズカズカと我が物顔で図書室内へと入り、そのまま貸し出しカウンターへと進む。


 俺もあわててその後を追う。空間いっぱいに漂う本の香り、嗅ぎ慣れないその香りはとても新鮮に感じた。


「こんにちは泉先輩」

「おー桐花ちゃん、図書室では静かにしいやー」


 桐花が声をかけたのは貸し出しカウンターに座っていた糸目の女子生徒。泉先輩と呼ばれたその女子生徒の一応の注意に桐花はすみませんと素直に頭を下げる。


「吉岡さん、この方は図書委員の泉先輩です。中学が一緒だったんですよ」

「へえ、中学の桐花」

「今と全く変わらんかったねー」


 どこか間延びした先輩の声。

 

「……中学から()()だったのか」

「どういう意味ですかね?」


 なんて恐ろしい話だ。中学から桐花が完成されていたなんて。


 戦慄する俺をジト目で睨む桐花、それを無視して泉先輩に挨拶をする。


「どうもっす。俺はーー」

「あー、吉岡くんやろ? 色々噂は聞いとるよ。なかなかやんちゃらしいねー」


 あまりに軽い物言いに少し面食らう。


 俺の噂なんて大概が碌でもないものだ。それを知っていながら“なかなかやんちゃ“? この先輩見た目に反してとんでもない胆力の持ち主なのか?


 訝しむ俺に気付いたのか、泉先輩は笑いながら手を振った。


「あーごめんごめん。悪い噂はいっぱい聞いてるけど、それ以上に桐花ちゃんから君のこと聞いてるからね。特に怖がったりせんよ?」

「桐花から?」

「い、泉先輩! そのことは!」


 珍しく桐花が慌ててる。


 なんだ? 一体何を話したんだ?


 えーとね、と耳打ちするように片手を口に当てた先輩に近づき、話を聞き出す。


「……いくら仲が良うても、高校生で肉奴隷ってのは先輩感心せんなー」

「てんめえ桐花! 何話しやがった!!」


 桐花を思いっきり睨みつける。


 クソ、この女目ぇそらしやがった。


「お前まさか、知り合いという知り合いにその話してんじゃねえだろうな?」

「まあまあ、その話題はいいじゃないですか」

「ちっともよくないんだが!?」


 俺の碌でもない噂にさらに碌でもないものが加わりかねない。しかも、今までとは違うベクトルで。


 さらに問い詰めようとするが、先輩が口に指を当ててシーっと諫めてきて、ここが図書室ということを思い出した。


「……っ、お前ここに何しにきたんだよ」


 声をひそめながら桐花を問いただす。まさかこの先輩に俺を紹介するなんて殊勝な目的じゃあるまい。


「もちろん私たちの部活の部員を集めるためですよ」

「それがなんて図書室なんだよ? まさか図書委員でも勧誘するつもりか?」

「そうですよ」


 え、まじでそうなのか?


「いいですか吉岡さん。委員会活動と部活動は別物なんです。当然部活設立時のルールには接触しない。その上この学園の委員会はそれなりに忙しいそうですから部活に入っていない生徒も多い。籍だけでもおいて貰えばいいという考えの私たちの部活に、これ以上ないほど都合の良い存在なんです」

「都合のいい存在って……」


 図書委員の先輩の前だぞ、もうちょい言葉を選べよ。


「じゃあ何か、この先輩に頼むつもりなのか?」

「うちは他に部活入ってるから無理やよー」

「……じゃあ誰を? つうかその人は入ってくれる見込みはあるのか?」


 そもそもそんな都合の良い存在がいたとして、部活に入ってもらえるかどうかという問題が残るのだ。


「もちろんその見込みはありますよ。どうやらその人、何やらお悩みをお持ちだそうで」

「悩み?」

「ええ、それもかなり私好みの。ですよね先輩?」

「うん、あれは桐花ちゃん案件やと思うよー」


 ここまで言われれば、桐花が何をしようとしているのか俺にもわかった。


「そのお悩みを私が解決する見返りとして、我らの部活に入ってもらうという算段なわけですよ。どうです、完璧な作戦でしょう?」


 胸を張ってどこか誇らしげに自らの作戦を披露する桐花。


「……まあ、お前らしいっちゃお前らしいよ」


 微妙に人の弱みに付け込んでるところとか特に。


「それで先輩、その方は?」

「あっちの奥にある図書準備室で待ってて貰っとるよー」


 貸し出しカウンターから身を乗り出した泉先輩は図書室の奥の方を指さした。


「ありがとうございます。ではまた」

「うん、頑張ってなー」


 そうひらひらと手を振る先輩に見送られながら、奥にあると言う図書準備室に向かう。


 座り心地そうな椅子が多数並べられたその空間のさらに奥。本棚に囲まれているため目立たない扉を開ける。その部屋の中に置かれたシンプルな背もたれのついた椅子にその少女は腰掛けて本を読んでいた。


 俺たちに気付いた女子生徒は慌てて立ち上がる。


「は、初めまして。(いつき)このはです」


 背の高い女子生徒だった。もちろん俺ほどではないが、桐花からすれば見上げるほどの身長差であろう。


 背中まである長い髪は目元まですっかり覆っていて表情がわかりづらいが、それでも俺たちを前に緊張していることがわかる。


「初めまして樹さん。桐花咲です。こっちの柄の悪いのが吉岡さんです」

「一言余計だ」


 柄が悪いなんてわざわざ言わなくていい。悲しいがそんなの見ればわかるだろう。


「は、はい! よろしくお願いします!」


 声色から感じる緊張の色。


「まあまあ、そんな緊張しないでください。同じ学年なんですから」


 桐花はそう言って宥めようとするが、樹の緊張は解けずその大きな体を縮ませている。


 そして遠慮がちに向けられる視線、彼女の緊張の原因は間違いなく俺だった。


「……おい桐花、やっぱ俺いない方がいんじゃないか?」


 小声でそう耳打ちする。


 どう考えても部員を勧誘するときに俺の存在は障害になるだろう。学園一の不良の名前は伊達じゃないのだ。


 問答無用で連れてこられたため何も言わなかったが、そもそも部員の勧誘なら桐花1人でもできるはずだ。


 しかし桐花は俺の言葉をキッパリと否定する。


「何を言ってるんですか吉岡さん。いくら名前を貸してもらうだけの関係とはいえ、同じ部活の仲間を作ろうとしているのですよ? 部員である吉岡さんを怖がる仲間はいらないんです」


 堂々とした答え。


 妙な気恥ずかしさを覚えた俺は、それを誤魔化すように質問を続ける。


「……じゃあどうすんだよ? ガッツリビビられてんぞ?」

「まあそこは私に任せてくださいよ」


 自信満々にそう宣言した桐花は樹に向き合う。


「樹さん。吉岡さんはそれほど怖い存在じゃありません」

「……本当ですか?」

「ええ、なぜなら吉岡さんは私に絶対服ーー」

「犬云々の(くだり)はいらねえからな」

「…………」

「…………おい」


 一瞬でもこいつに期待した俺が馬鹿だった。


「てめえそればっかじゃねえか!! もっと他に俺を擁護する方法はねえのか!?」

「うっさいですね! 私だって色々考えてるんですよ! その結果としてこの方法が最善だと私の頭脳は結論付けたんです!!」

「だとしたらお前の脳みそはクソだよ!!」


 俺たちの言い合いは、あまりの騒がしさに泉先輩が注意しに来るまで続いた。

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