第二章プロローグ 部活設立に向けて
本日より第2章を投稿します。全8話予定です。
よろしくお願いします。
「さて、部の設立には必要なことが3つあります」
昼休みの食堂。
俺の対面に座る赤縁メガネがトレードマークの小柄な少女、桐花咲は弁当をつまみながら解説を始める。
「部員、部室、顧問です」
指を3本立てて俺に見せつけてくる。
「このうち部室と顧問に関しては問題ありません。顧問の先生には心当たりがあっておそらく快諾してくれると思います。そして部室ですが、部を設立してしまえば自動的に学園側から割り当ててくれますから」
「マジで? そんな簡単にいいのか?」
「ええ、本当気前がいいですよねこの学園。もちろん手続きの関係があるので設立してすぐにと言うわけにはいきません。……本来は」
「本来は?」
「ほら、私たちが使ってたボランティア部の部室ですよ。ボランティア部は今部員が1人しかいないんです。それもほぼ引退を決め込んでいる3年生だけ」
「ああ、その人から部室と鍵を脅し取ってたわけか」
「失敬な! きっちりお願いしてお借りしてただけですよ!」
怪しいところだ。
「つまりですね、ボランティア部の部室をそのまま私たちが使えるということです。部の申請さえ通っちゃえば即日活動可能というわけです」
「なるほどね」
随分と手際の良いこって。
「それで後は部員か。確か4人必要って言ってたか?」
「はい。私と吉岡さん、後2人必要になります」
「だったらタケルか九条か石田か、その辺りに頼めば良かったんじゃねえか? この学園確か兼部認められてただろ」
3人とも柔道部で忙しいだろうから幽霊部員になっちまうが構やしないだろう。一度部を作っちまえばこっちのもんだ。
「ところがどっこい、そう上手くいかないんですよ。この学園は部活動にも力を入れているため、多種多様な部活動が存在します」
「ああ、確かに変な部活多いもんなこの学園」
野球部なんてメジャーなものからカバディ部なんてマイナーなスポーツ系の部活、文芸部なんて王道の部活から県内ラーメン店研究部なんてキワモノの部活まで。この学園にはありとあらゆる部活動が揃っている。
「無用な部活動が乱立して実態のない部が増えることを防ぐためにも、設立の時にはあるルールがあるんです」
「ルール?」
「ええ。設立時には部員が4人必要で、その4人は他の部活動に在籍していてはいけなく、設立以降半年間他の部活で活動することはできない」
「おお……ん?」
えーと、つまりどういうことだ?
「同じような内容の部活動が増えないようにするルールなんです。ありとあらゆる部活が存在するこの学園、わざわざ作らなくても探そうと思えば自分が興味のありそうな部活なんていくらでもある」
「あー、つまり他の部活に半年間も参加できないデメリットを考えれば、一から部活を作ることにうまみはないってことか?」
「その通りです。部活を作るというのは、学園中探し回っても自分のやりたいことをやってる部活がない時の最終手段のようなものです」
やりたいこと、ねえ。
「まったく、この時期になってやりたいこともなくてブラブラしてる1年なんて吉岡さんぐらいのものですよ」
「オメーも人のこと言えねえじゃねえかよ」
「私はほら、やりたいことは決まっていましたから」
まあ、こいつはやりたいことを思うがままにやって人生を謳歌しているような人間だからな。
「とりあえず何が言いたいかと言いますとね、柔道部に所属している剛力さん達の名前を借りるわけにはいかないということです」
ここに部活をやってない暇人が奇跡的に2人揃ったわけだが、後の2人をなんとかしなければならないのか。
「いや待てよ、なら今から俺たちがボランティア部に入っちまえば良いんじゃないか? ほら、部員は引退を考えてる3年の先輩1人なんだろ。なら俺たちで好き勝手できるし、後はタケル達に名前も貸してもらえる」
我ながらグッドアイディアだと思ったのだが、桐花はやれやれと言った感じて首を振る。
「わかってませんね吉岡さん。部を存続させるためにはそれなりの実績が求められるんです。つまりボランティア部に入った以上ボランティア部として活動しなければ廃部になってしまうんですよ。吉岡さん町内のゴミ拾いとかしたいんですか?」
「……まあ、したいとは思わねえな」
「でしょう? 私もやりたいとは思いません。私がやりたいことはもっと別です」
「……今更だが、お前どんな部活を作るつもりなんだ?」
さっき生徒の依頼を受ける云々言ってたが、具体的には何をするつもりなんだ?
「言った通りですよ。生徒のお悩みを解決する部活です。私は人の恋愛とその次に謎解きが大好きですから一石二鳥ですね! ……部の名前は何にしましょう? まあ、それは追々考えるとして」
「いや……生徒の悩みが恋愛がらみだとは限らねえだろ」
「高校生の悩みなんて九割九部恋愛がらみに決まってますよ!」
「そいつはオメーの偏見だ」
何はともあれ、やること自体は決まってるわけか。
「で、後2人か。その2人がお前のやりたいことに共感してくれるかどうかは難しいんじゃねえか?」
「何も積極的に部活に参加して欲しいとは思っていません。あくまで名前を貸してくれれば良いんです」
「名義貸しってわけか。それでも半年間他の部活ができないデメリットがあるわけだろ? 今部活やってなくて今後もやる予定のないやつなんてそんな簡単に見つかるか?」
そもそもそんなのが見つかったとして、こいつが作ろうとしている怪しげな部活に入ってくれるのかどうか。なにせこっちは学園一の不良と学園一の変人と悪名高い2人だ。
しかし桐花は俺の心配をよそに不敵に笑う。
「私を誰だと思ってるんですか吉岡さん。部員候補はすでに見つけていますよ」
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