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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
相談部の日常 その2
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続・イチゴはやっぱり甘くない

 学園の妹、蛇川イチゴ。


 一年生女子の中でもトップクラスの人気を誇る彼女の魅力について、以前同じクラスの進藤が熱く語っていたことがある。


『イチゴちゃんの魅力はそのイチゴの名の通り、甘い雰囲気にあるでござる。イチゴちゃんの近くにいると甘くてふわふわしたピンク色の空気の中にいると錯覚してしまい、とんでもない多幸感に襲われるのでござる』


 惚けた顔でそんなことを宣う(のたまう)進藤が『お兄ちゃん』であることをその時初めて知り、戦慄したことを今でも覚えている。


「ウチはねチヤホヤされたいの。1人2人じゃなくて、大勢の男どもにね」

 

 今の蛇川に、進藤が言っていた甘い雰囲気は全くない。


 目つきは鋭く、声はドスが効いている。


 ツインテールの女子だというのに、今ならタバコを吸ってても違和感がないだろう。そう思えてしまう。


「中学の時は……まあ色々あって敵を作りすぎちゃったせいで殺伐とした学校生活になってね。今思い出してもウンザリする」


 おそらくだが、今剥き出しになっている素の性格のせいなんだろう。


「だから高校入る時決めたの。大勢の男からチヤホヤされるプロの妹になろうって」

「プロの妹」

「おそらく世界にはまだ存在しない日本語ですね」


 人類には早すぎる価値観を持っているようだ。


「妹はいいわよ。お兄ちゃん♡って甘えるだけでチヤホヤしてもらえるんだから」


 一瞬だけ声色が甘いものに変わった。その変化の速さは見事なものだった。


「色々頑張ったわよ。髪型、化粧、ファッション、表情、声。理想の妹になるための努力は惜しまなかったわ」

「人工の妹」

「吉岡さん。それも存在しない日本語です」

「お兄ちゃんたちの心を離さないために定期的にイベントを開催したりしてるわ。歌ったり、踊ったり、握手会をしたり」

「プロだ」


 チヤホヤされたいというだけでそこまでやるとは。素直に尊敬する。


「そうだ思い出した。あんたたちでしょ? ウチのカバンの件暴いたの。そのせいであの風紀委員の藤枝って女に目つけられたんだけど?」


 蛇川が憎々しげに睨んでくる。


 自作自演を働いた蛇川の自業自得なのだが、有無を言わせない迫力だった。


「そのことは許してあげる。その代わり、ウチのお願いを聞きなさい。拒否権はないわよお兄ちゃん♡」


 百点満点のスマイルを向けられる。


 背筋が凍りつく、とんでもないスマイルだった。



「お願いっていうのはウチの友達、米沢舞のことよ」

「友達……?」

「何よ金髪? まるで、この女に友達なんているのか? なんて言いたげな顔ね」

「……」


 一言一句正確に心を読まれた。


「まあ別にいいわ。自分でも女受けするキャラじゃないことは自覚してるから」


 あっさりとした蛇川の反応。


「それでもこんなウチの友達やってるくらいだから、舞がどれだけいい子なのかわかるでしょう?」


 なんとも答えづらい質問だった。


「舞には本当にお世話になってるの。イベントの準備も手伝ってくれるし」

「本当にいい友達だな」

「何より舞がいることで、ウチがぼっちだと思われない点が最高ね。持つべきものは友達だわ」

「その物言いは最悪だけど」


 米沢、よく友達なんてやってられるな。


「それでこの舞だけど、どうも最近ストーカー被害に遭ってるみたいなの」

「ストーカーですか?」


 桐花の表情が真剣なものに変わる。


「ええ。あの子、ウチにまで隠そうとしてるんだけどバレバレよ」

 

 蛇川は苛立つように爪を噛んだ。


「あんたたちにはこのストーカーをなんとかして欲しいの。具体的には舞に2度と近づけないようにして」

「……とっ捕まえて警察に突き出すとかか?」

「そんな大袈裟にしないで。金髪、あんたがストーカーをボコボコにすればいいじゃない」

「そっちの方が大袈裟だよ」


 思考が物騒すぎる。


「どうするにせよ、ストーカーの正体を突き止めなければなりませんね」

「いえ、ストーカー野郎の正体はわかってるの。ウチのお兄ちゃんよ」

「……念のため確認しますけど、それは血のつながったお兄さんのことではありませんよね?」

「当たり前でしょ! ウチは一人っ子よ!」


 学園の妹が一人っ子って、もう訳わかんねえな。


「舞をストーキングしてる不届き者の名前は浅山。1年の帰宅部よ」

「なぜ浅山さんがストーカーだと?」


 確かにストーカーって普通自分の正体を隠すよな。米沢って子も蛇川にはストーカーのこと話していないから、正体なんて知りようがないはずだが。


「わかるわよ。だって浅山、普段の集まりでウチじゃなくて舞に目がいってるんだもの」

「なるほど」


 さすが蛇川。お兄ちゃんのことをよく見ている。


 だけど根拠としては薄い。


「もちろんこれだけじゃないわ。前に舞とご飯食べてた時、舞のスマホにLINEの通知があったの」

「……まさかそれが?」

「ええ。慌てて隠されたからメッセージの内容はよくわからないけど、浅山からだったわ」


 蛇川は深刻そうに頷く。


「でもよ、それって普通にLINE交換しただけじゃねえの?」

「それはないわ。舞香は男子がちょっと苦手だから、LINEの交換なんてするわけない。きっと違法な手段で舞香の連絡先を手に入れて、卑猥なメッセージとか画像を送ってるに違いないわ」


 忌々しげに吐き捨てた。


「そしてこの前、決定的な出来事があったわ」

 

 蛇川は身を乗り出しながら告げる。


「休日に駅前に行った時、偶然舞と会ったの。ちょっと話してすぐ別れたけど、その後に浅山にも会ったのよ」

「……たまたまじゃねえのか?」

「ありえないわよ。だってその駅前ってウチと舞の地元だけど、浅山の家からかなり遠く離れた場所よ? そんなとこくる理由なんて普通ないのもの。今思えば舞、ウチと喋ってる時も早く話を切り上げようとしてたわ。きっと浅山から逃げようとしてたのよ」


 つまり浅山は、その時米沢をつけまわしていたところ、蛇川に遭遇してしまったと。


「ちょっと待ってください。浅山さんの家から遠く離れた場所って言いましたが、蛇川さんは浅山さんの家を知ってるんですか?」

「当たり前じゃない。お兄ちゃんの個人情報なんて、趣味から住所まで全て把握してるわよ」

「ガチプロだ」


 プロの妹になるには、そこまでしなくてはならないのか。


「わかった? 浅山が舞のストーカーなのは間違いないわ。だから2度と近づけないよう、骨の一本くらい折ってきなさいよ」

「こっちが捕まるわ」


 解決手段が骨を折るって。


「許せない。舞をストーキングするなんて」


 蛇川の握りしめた拳が震える。


「ウチという妹がいながら、他の女に夢中になるなんて……!」

「……え、そっち?」


 怒りのポイントは、友人が被害に遭っていることじゃないのか?


「お兄ちゃんの自覚が足りてないんじゃないの? 金髪、けじめに小指もらってきなさい」

「考え方が完全にヤ○ザなんだけど」


 なんて恐ろしい妹だ。


「……ちょっと確認させて欲しいんですが」


 怒りに震える蛇川に桐花が問いかける。


「米沢さんはストーカー被害にあってるとは言ってないんですよね?」

「そうよ」

「聞いてみたりはしたんですか?」

「もちろん。浅山と何かあったのか問い詰めたわ。そしたらあの子わかりやすく動揺しながら、なんでもないって。きっとウチに迷惑かけないように遠慮したんだわ」


 友人である蛇川に相談もできないほどのストーカー被害か。そう聞くとかなり深刻な状況に思える。


「もう一つ。駅前で米沢さんと会ったのは、何時ごろの話ですか?」

「へ? さあ……朝早くだったと思うけど」

「とすると、米沢さんは電車に乗って出かけたその帰りだった、ということはないんですね」

「まあそうね。これから遊びに行く、って感じだったけど。それが何?」

 

 訝しげな蛇川の問いには答えず、桐花は口元に手を当てて考え込む。


 そのまましばらく後、桐花はゆっくりと口を開いた。



「それってストーキングされてるんじゃなくて、米沢さんと浅山さん付き合ってるんじゃないですか?」

 


 沈黙が場を支配する。


 俺も蛇川も桐花の言葉が一瞬分からず、停止してしまった。


「……は?」


 蛇川がかろうじて喉の奥から音を絞り出した。


「いやだから、浅山さんが米沢さんのストーカーだっていうのは蛇川さんの勘違いで、ただ2人は付き合ってるだけだと思うんですけど」

「そ、そんなバカなことあるわけないでしょう! 何を根拠に!」

 

 蛇川が動揺しながら声を荒げる。


「まず、LINEのメッセージのことですけど。蛇川さんはメッセージの内容を見てないんですよね? 卑猥なメッセージや画像なんてただの想像なんでしょう?」

「……そうだけど」

「もしそんなものが送られてくるならブロックでもすればいいだけです。でも通知があったってことはブロックなんてされていない。つまり少なくとも米沢さんは浅山さんのメッセージを受け入れてたということです」


 なるほど、確かに。


「次に休日駅前で浅山さんを見かけたとのことですが」

「こ、これこそ舞をストーカーしてた証拠でしょ!」

「ストーカーだとするとおかしいんですよね」


 桐花は諭すように告げる。


「蛇川さんと米沢さんが出会ったのは朝早く。しかも米沢さんはこれから遊びに行く予定だった」

「だから何?」

「浅山さんは一体どうやって、米沢さんが駅前にいることを知ったんでしょうか」

「それは……」


 蛇川は言葉に詰まった。


「これがどこか遊びに行った帰りの出来事ならわかるんですよ。米沢さんが出かけた先で浅山さんに遭遇、その後浅山さんが米沢さんをストーキングして駅前までやってきたとかなら」

「でも実際は朝早くの出来事だった」

「ええ。となるとストーキングの線は考えづらい」

「なら何よ? なんで浅山は舞がいる駅前にいたのよ。まさか偶然だとでも?」

「偶然ではないでしょうね」


 桐花は続ける。


「米沢さんと浅山さんは待ち合わせてた。つまりデートです」


 蛇川はあんぐりと口を開けた。


 友人がひた隠しにしていた秘密を知って驚愕しているようだった。


「ま、まさかそんな。じゃあなんで舞はウチにそのこと言わなかったの?」

「あれじゃね。お兄ちゃんを取った形になるから、蛇川に殺されるとでも思ったんじゃね?」

「ぶっ殺すぞ」

「ふええ」


 桐花がため息をついて説明する。


「言いたくても言えなかったんじゃないですか。米沢さんも浅山さんもおそらく恋愛許可証を持っていないんでしょう」

「だから何よ? ウチがそんなこと風紀委員にチクるとでも?」

「いえ、蛇川さんが信用できないという話ではありません。ですが風紀委員に知られる危険性があるから、言えなかったんだと思います」

「はあ?」


 蛇川は桐花を睨みつけた。


「だって蛇川さん、風紀委員に目をつけられてるんでしょう?」

「…………あ」


 そういえば、藤枝も蛇川は監視対象だって言ってたな。


「蛇川さんの『お兄ちゃん』と付き合っていることを、風紀委員に目をつけられている蛇川さんに伝える。バレるリスクを考えるとそう簡単に決断できないでしょうね」


 風紀委員の藤枝の敏腕ぶりは学園でも有名だ。


 仮に蛇川が2人の交際を知れば、それが態度になって現れ藤枝にバレるかも知れない。この状況で交際の事実を蛇川に教えろという方が無理だろう。


「まさか舞が……浅山と……」


 呆然とした様子を見せる蛇川。


 しかしすぐさま立ち上がり、何も言わず部室から立ち去ろうとした。


「ちょ、ちょっと待て蛇川。どこ行く気だ?」

「決まってるでしょ。舞と浅山問い詰めて、本当に付き合ってるのか確認するのよ」


 その表情は無だった。


 危うさを感じた俺は蛇川を必死に止める。


「待てって、問い詰めた後どうする気なんだ?」

「……まさかと思うけど、ウチが2人を別れさせるとでも思ってる?」

「違うのか?」


 蛇川は振り向き、深いため息をついた。


「そんなことしないわよ。ウチはそこまで心が狭い女じゃないわ」


 蛇川は意外にも落ち着いた言動を見せる。


「舞が誰と付き合おうと。それがウチのお兄ちゃんだろうと心から祝福するわ。だって友達なんだから」 


 その一言に、俺も桐花も安堵する。


「良かった。俺はてっきりブチギレているかとーー」

「でもね」


 俺の言葉を遮り、蛇川が告げる。


 蛇川の纏う雰囲気がまた変わる。表情も、声色も変化していく。


「でもね、イチゴ悲しい。だってお兄ちゃんがイチゴに隠し事していたんだよ?」


 グスンと、泣く仕草を見せる。


「しかも、イチゴの親友である舞ちゃんと付き合ってるなんて。そんなのおかしいよね? 妹のイチゴがいるのに、他の女の子に夢中になるなんて変だよね?」


 その姿はまさしく『学園の妹』蛇川イチゴ。先ほどまでとはまるで別人だった。


 キャラ作りなんて生やさしいものじゃない。完璧な擬態だ。


 背筋に冷たいものが走る。


「やっぱりケジメは必要だってイチゴ思うんだ。だからね、今からお兄ちゃんの小指もらってくるね」


 イチゴちゃんは完璧な笑顔のまま『バイバーイ』と手を振りながら相談部から去っていく。戦慄する俺と桐花を残して。


「えっと……さすがに蛇川さんの冗談ですよね?」

「……ふええ」


 

ここまでお付き合いいただきありがとうございました。

次回より夏休み編に入ります。

できる限り早く更新したいと思いますので、評価、ブックマークをしていただけたら幸いです。

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