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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
相談部の日常 その2
130/138

相談部女子会

 それは梅雨入りし始めた頃のことだ。


 その日の放課後、相談部の部室には依頼者の代わりに幽霊部員である秋野楓が訪れていた。


「前にも話したと思うが、弟と彼女さんが受験勉強のために家にいることが多くてね。よく弟の部屋に篭って2人で勉強しているよ」


 やはりというべきか、その日の話も弟のことばかりだった。


「頑張っている2人にジュースやお菓子の差し入れに行くのだが、最近は弟に『全部自分たちでやるから』と言われるようになってね。さらに私が勉強を教えようかとも進言したのだが、それも断られたよ」

「……そりゃあ嫌だろ。彼女と2人で勉強してるのに姉貴が入って来るなんて」


 いくら姉弟仲が良くても、そこまで踏み込まれて良い顔はしないだろう。


「弟にもついに反抗期が来たのかと思い三日ほど落ち込んだが、まあそれはいい。弟が大人に成長していくプロセスだと涙を飲んで受け入れたよ」

「まあ、弟さんも思春期ですからね。仕方ありませんよ」

 

 問題なのは思春期の弟ではなく、過保護な姉の方だと思うのは俺だけだろうか?


「しかし、弟の部屋に入れなくなってしまったのは由々しき問題だ。おかげで部屋の中の様子を知ることができなくなってしまった。ああ……気になる。弟と彼女さんは2人きりの部屋で一体何をやっているんだ?」

「勉強だろ」

 

 妙な邪推をしている秋野を冷めた目で見る。


「なあ桐花さん、吉岡くん」


 秋野はどこまでも深刻そうな表情で言葉を紡ぐ。


「あの2人……もうチューしてると思うか?」

「それ弟には絶対聞くなよ」


 そんなやりとりをしている最中、控えめなノックの音が響く。


「はい、どうぞ」

 

 桐花が返事をする。


 扉を開けて入ってきたのはもう1人の幽霊部員、樹だった。


「あ、桐花さん。借りてた本をーー」


 部室の中にいる秋野を見つけて言葉を止める。


 ……そういえば、この2人初対面か?


 同じ相談部の部員ではあるが、幽霊部員である2人が部室を訪れるの頻度はそこまで高くない。2人の訪問が被ったことなんて一度もなかったはずだ。


 秋野はともかく、樹は初対面の相手だと気まずいのではーー


「秋野さん来てたんですね」

「やあ樹さん。こんにちは」

「……あれ?」


 全く想像していなかった自然なやりとり。


「え、知り合いなの?」

「し、知り合いって。当然じゃないですか。同じ部員なんですよ?」

「いやいや、そうだけどさ」

「ああ、そういえば部室で樹さんと会うのは初めてだったかもしれないね」


 思い出したかのように告げる。


「確かに部室で顔を合わせる機会はないが、樹さんとは良く喋るよ」

「ま、前に桐花さんに紹介してもらってから仲良くなりました」


 そうなのか?


 桐花を見れば、うんうんと頷く。


「我々相談部女子、普通に仲良いですよ。たまに集まって女子会してますし」

「女子会?」

「はい」


 そんなことやってたのか。全然知らなかった。


「なんだそれ、俺は除け者かよ。呼べよ」

「……呼ぶわけないでしょう。女子会って言ってるじゃないですか」


 冷たい視線を向けられる。


「女子会か。女子会って何やんの?」

「そうですね、まあどこかに集まってお喋りしたりするぐらいですね。喫茶店とか、誰かの家とか」


 へえ、俺の知らないところでそんなことを。


「どんなこと喋ってんの?」


 軽い気持ちで聞いた質問。しかし、全員なぜか目を逸らした。


「それは……」

「まあ、その……」

「……うん」


 3人とも微妙な反応。


「え、何その反応? 一体何をーー」

「あ! そういえばこの前は秋野さんの家でお泊まり会しましたね」


 誤魔化すように桐花が大声を上げる。それに便乗するように樹と秋野が続く。


「あ、秋野さんの家大きくて素敵でした」

「はは。ありがとう樹さん。あの時は楽しかったな。ゲームしたり、お菓子食べながら一晩中お喋りしたり」

「へえ、お泊まり会までやってるのか」


 それは流石に男の俺は呼べないな。


「で、一晩中何を喋ってたんだ?」

「それは……」

「まあ、その……」

「……うん」

「なんなんだよ!!」


 先ほどと全く同じ気まずそうな反応を返す3人を怒鳴りつけた。


「なんだお前ら? 俺には言えないようなこと女子会で話してたのか!?」

「い、いや……まあ、とても言える内容じゃないが」

「やっぱそうなんじゃねえか!」

「落ち着いてください吉岡さん。女子だけの秘密の会話ですよ? ほら、恋バナだとかは吉岡さんに言えないでしょう?」

「じゃあさっきの気まずそうな表情はなんだよ!」


 恋バナなんて桐花だったら嬉々とした表情を見せるはずだ。絶対に恋バナなんかじゃない。


「ま、まさかお前ら。俺がいないのを良いことに、俺の悪口大会でもしてたんじゃねえだろうな?」


 最悪の想像をしてしまい、青ざめる。それなりに親しい女子3人が集まって自分の悪口を言い合ってたなんて、思春期の男子高校生には耐えられない。

 

 しかし樹が慌てて否定してくる。


「い、いやいや! 吉岡くんの悪口なんて言ってませんよ!」

「そ、そうだぞ! 確かに、吉岡くんの話題は出たがーー」

「秋野さん!」


 秋野は慌てて口を押さえた。


「俺の話題? やっぱ女子会で何か俺の話をしたんだな?」


 知らなければよかったと思った。女子会で俺の話をされたことを知らないままでいれば、このまま何もなく過ごせただろう。


 しかし一度知ってしまった以上、俺について何を話していたのかその詳細を聞かなければ今後の付き合いも変わってきそうだった。


 秋野は観念したように、渋々口を開く。


「私たちの共通の話題はそう多くない。同じ部員である吉岡くんの話題が出るのは必然だった」

「じゃあそこで、俺の悪口大会か?」

「違う! 悪口大会ではない! どちらかと言えば……その……懺悔大会だ」

「はあ? 懺悔?」


 秋野の言葉の意味が一瞬分からず戸惑う。


「懺悔? 俺に対してか?」

「そ、そうだ。話の流れで、各々吉岡くんに謝らねばならないことを懺悔したんだ」

「俺に謝らなきゃならねえこと? 待て待て、怖い怖い! 全然心当たりがねえんだけど!」


 桐花はともかく、秋野と樹もか?


「……秋野さん、桐花さん。こうなったらここで吉岡くんに全部話して謝りましょう」

  

 樹が覚悟を決めた表情で告げる。


「いや、そうだな樹さん。いつか機会があれば謝らなければならないと思っていたんだ。今その時なのだろう」

「ええ……本気ですか? ()()を言うんですか? はあ、仕方ありませんね」


 同じく覚悟を決めた秋野と、イヤイヤと言った様子の桐花。どうやら2人とも話す気になったようだ。


「じゃあ、ここは言い出しっぺの私から」


 神妙な面持ちの樹がそう切り出す。


「吉岡くん。前に私が貸した本覚えてますか?」

「本? ああ、あのラノベか」


 前に桐花と樹が俺に小説を読ませようと画策した結果、俺は樹から本を借りることになった。


 樹が薦めてきた大人向けのオフィスラブではなく、異世界を舞台とした恋愛ものだ。


 タイトルは『主従逆転物語〜元メイドの公爵令嬢、真の実家で成り上がる〜』


 思いっきり女性向けのライトノベルだったが、わりかし楽しく読ませてもらっている。


「悪い、まだ全部読んでないんだ」

「いえ、それは全然良いんですけど」


 全5冊だったな。元々読書の習慣がない俺には読み終わるまで時間がかかりそうだ。


「それでですね。本を貸した時のこと覚えてますか?」

「ああ。確か昼休みに俺のクラスに来たんだよな。で、俺がいないからクラスの女子に預けてたと」


 確か女子の名前は高山だったか? 


 正直言って、高山が樹から預かった本を持ってきた時は冷や汗ものだった。


 なぜならそのラノベの表紙イラストは、手枷で拘束された半裸のイケメンだったのだから。


 表紙だけ見るとかなりアレな小説だと思われかねない。


 幸いにも、しっかりと紙袋に入っていたため中身は高山に見られていないはずだが。


「じ、実はですね。本を預けた時、その人に『どんな本なの?』って紙袋の中身を見られちゃいまして」

「え“っ?」


 嘘だろ? あの表紙を同じクラスの女子に見られたのか?


「そ、それがお前が俺に謝りたいことか?」


 確かにかなりショックだが、謝られるほどのことではない。


 しかし樹は首を横に振った。


「そ、その人に聞かれたんです『吉岡くんって、こういうのが好きなの?』って」

「いや好きなわけねえけど。それで?」

「私慌てちゃって。思わず『はい! 吉岡くんは面食いなんです!』って」

「何言ってくれてんの!!」


 俺の大声に樹の肩がびくりと揺れる。


「お前! それだと俺が表紙のイケメン目当てみたいじゃねえか!」

「ご、ごめんなさい」

「俺がそっち系の男だと思われたらどうするんだっ!」


 絶対高山から他の女子生徒に話広まってる。ただでさえ悪目立ちしているのに、これ以上変な噂が浸透したらどうしてくれるんだ。


「よ、よし。次は私だな」

 

 間髪入れずに秋野の番。おそらくこれ以上樹に矛先が向かないように、という配慮だろう。


「実はこの前、うちの弟が吉岡くんと桐花さんに日頃のお礼をしたいと言い出してな」

「は? お礼?」

「ああ。なんでも私がお世話になっていることに対して、とかなんとか」

「……ああ」


 本当に良くできた弟だ。


「それで、弟がお礼の品とメッセージカードを用意したんだ」


 この律儀さは秋野によく似ているな。


「そのメッセージだが、結構びっしり書き込まれていてな。私も読んだんだが……なんか『姉がいつもすみません』とかなぜかそんなことがびっしりと」


 秋野……こんなにできた弟にこれ以上迷惑かけんなよ。


「そのお礼の品とメッセージを私が学校まで持ってきて、吉岡くんと桐花さんに渡したんだが……」

「ん? 渡し()? え、もう俺もらってんの?」


 全然身に覚えがない。そんなものもらったか?


「ああ。やはり気づいてなかったか。いや、それも無理はない。実はそのメッセージカード2枚あってな。後から知ったんだが、弟の名前が書かれた前半のカードが吉岡くんに渡せていなかったんだ」

「…………」


 なんだろう? 嫌な予感がしてきた。


 お礼の品とメッセージカードと聞いて何かが引っ掛かる。


「あれは、私が登校してすぐだったか? 普段から朝早く登校するから吉岡くんに教室には誰もいなくてな。だから吉岡くんの机の上に置いたんだ」

「……机の上に置いた」


 嫌な予感は止まらない。


「弟が家庭科の調理実習で作ったクッキーと『これは僕の気持ちです。こんなものではとても足りませんが、どうか受け取ってください』と書かれた後半のメッセージカードをーー」

「あれ弟かよっ!!」


 そして完全に思い出した。


「お前、あれえらい騒ぎになったんだぞ!」 


 僕の気持ちです。なんてメッセージが添えられた、間違いなく手作りのクッキー。


 どう考えても男からの告白だ。


「なんて言われたかわかるか? あの吉岡アツシが遂に男から告白されたって……遂にってなんだよ!!」


 あの時のクラスのざわつきと、好奇の目線。俺の居た堪れなさを想像できるだろうか。


「あれ本当に怖かったんだぞ! 差出人不明の手作りクッキーがあんなに不気味だなんて俺知らなかったからな!」

「ま、まさか吉岡くん! 弟が作ったクッキーを食べずに捨てたんじゃないだろうな!!」

「食ったよ! 全部食ったさ! 俺の勇気を褒めて欲しいね!!」


 大変美味しかったです。


「全く。どいつもこいつもなんなんだ」


 着実にクラス内での俺の評判を下げてきやがって。俺を社会的に殺すつもりなのか?


「それで、桐花。お前は一体俺に何をやらかしたんだ?」


 ここまできたらもう勢いだ。桐花を問いただす。


「……言わなきゃダメですか?」

「言えよ。どうせなんかあるんだろ?」


 俺はもう覚悟を決めてるんだ。


「……実はですね」

「おう」


 恐る恐ると言った様子で桐花が切り出す。


「えっと……私」

「ああ」


 じっくり時間をかけて言葉を続ける。



「私……吉岡さんがこの前買ってきたお菓子をつまみ食いしちゃいまして」

「お前だけズルくねえか!?」



 この女。1人だけ軽い罪の告白で済ませやがった。


「嘘つけ! 絶対他にあるだろ! お前が俺の買ったもん盗み食いするなんてしょっちゅうじゃねえか!」

「そ、そうですよ桐花さん! ちゃんと話してくださいよ!」

「そうだ! 私たちはしっかり話したんだから、桐花さんも後に続くべきだ!」

「というか、お前が言い淀むレベルのやらかしってなんだ!? 怖いって。俺は一体何をされたんだ!」


 方々からの非難に桐花も顔を歪める。


「わ、わかりましたよ。話しますよ」


 そして観念したようにポツリと話だす。


「この前の昼休みのことです。昼休みの間、私ずっと屋上にいたんですけどーー」

「待て。お前、屋上出禁になってなかったか?」

「……いいじゃないですかそれは。今は関係ないです」


 こいつ、無断で侵入しやがったな?


「いい場所ですよね、あそこ。学園公認のカップルが一つのベンチに座って肩を寄せ合い、仲良くお弁当を食べる光景が見放題なんですから」

「だから出禁になるんだよ」

「うっさいです」


 桐花は口を尖らせた。


「それで、昼休みが終わる直前、スマホにメッセージが来てることに気づきまして」

「メッセージ?」

「はい。樹さんから『吉岡さんに渡すラノベを預かって欲しい』と」

「……は?」


 待て。そのラノベって『主従逆転物語〜元メイドの公爵令嬢、真の実家で成り上がる〜』か?


「も、元々桐花さんにお願いして渡すつもりだったんです。でも返事がなくて直接渡しに行ったら吉岡くんもいないし。だからクラスの人に」


 おい待て、それってつまり。


「メッセージが送られて気づくまで時間がかかってましたし、昼休みも終わりそうだったので……まあ、いっかって」

「つまりお前が原因か!!」


 桐花を怒鳴りつけた。


「お前! お前のせいでは俺はそっち系の面食いだと思われただろうが!」

「い、いやいや。流石に私もそこまでのことになるなんて想像できませんよ。悪意はありません、完全に事故です」

「そう簡単に割り切れるか!」


 事故の被害者にしてみればたまったもんじゃない。


「それで次なんですけど」

「次!? まだあんのか!?」

「い、一応これが最後です」

 

 まだ俺を苦しめ足りないのか?


「ある日の朝、登校した時のことです。私の机の上にクッキーの入った袋が置かれていることに気づきました」

「秋野の弟のか?」

「はい。私宛のメッセージカードが2枚ついてましたから、すぐにわかりましたよ……『姉をどうか見捨てないでください』とか色々悲壮感漂う内容でしたね」

「弟ぉ……」


 秋野。お前今日帰ったら弟に頭下げとけよ。


「ただですね。私宛のメッセージカードとは別に、もう一枚メッセージカードが付いてましてね」

「…………ん?」

「そこには吉岡さんの名前が書かれていました」

「それって……まさか」

「はい。本来吉岡さんに渡るはずだった、前半のメッセージカードです」

「お前が持ってたのかよ!」


 ここでもまたお前が原因じゃねえか。


「お前すぐ持ってこいよ! そうすりゃ色々誤解は解けたんだから!」

「いやあ……吉岡さんのクラスまで行くのもめんどくさかったですし。まあ、いっかってーー」

「全然よくねえ!!」


 こいつめんどくさいって言いやがったぞ?


「ま、まあ。その後メッセージカードは秋野さんに返しましたし……存在を忘れててかなり後になってからでしたが」

「俺に返さなきゃ意味ねえだろ!」


 傷口が広がる前に対処して欲しかった。


 今日の今日まで秘密にしやがって。正体不明の男からもらった手作りクッキーに、俺がどれだけ怯えてたと思ってるんだ?


「お前よくもまあ秋野と樹に懺悔させといて、自分は1人だけ誤魔化そうとしやがったな? 諸悪の根源はお前じゃねえか!」


 もう終わりだ。この女のせいでクラスの中では俺は完全にそっち系の男決定だ。


「どうしてくれんだ? ただでさえクラスじゃ孤立気味なのに……俺の居場所が……」

「……今度。私たちの女子会参加します?」

「するか!!」




 

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