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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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エピローグ ヘタレ少女の恋の行方

「ちょっと待ってくださいね、今マイクの設定しますから」

「お前カラオケの部屋にまで盗聴器仕掛けたのか? いよいよやべえだろ」

「マイクですって。こっそりと人の話を聞くのことに特化したマイクです」


 それを世間一般じゃ盗聴器って言うんだよ。


 俺たちが先ほどまで歌っていた部屋。そこに桐花が盗聴器を仕掛けた。


 現在のその部屋には石田と北島の2人きり。俺、桐花、相川は別で取った部屋で待機しながら、盗聴器に接続されたスマホを囲んだ状態だ。


「相川は北島の手を握ってやらなくても大丈夫なのか?」


 少し揶揄うと、相川は鼻で笑ってきた。


「まさか。もういい加減独り立ちしてもらわないとね」


 完全に吹っ切れた様子の相川を見て、俺は安堵する。


「あ、繋がりましたね」


 やはりこいつが用意した盗聴器の性能は素晴らしく(最も、他の盗聴器の性能なんて知らないのだが)スマホからは部屋の中にいる2人の息遣いさえ聞こえてきた。


『石田くん、ごめんね。ずっと1人きりにしちゃって』


 そういえば石田をずっと放置していた。緊急事態だっとははいえ、状況を何も知らない石田には悪いことをした。


『ううん。でも大丈夫なの?』

『え?』

『桐花さん、食べ過ぎでお腹壊したって吉岡くんが』


 あ、そうやって言い訳してたの忘れてた。


「……吉岡さん?」


 ジト目で桐花が睨んでくる。


「いやほら、緊急事態だったから。うまく誤魔化せって言ったのはそっちだろ?」

「私をダシにしろとは言ってませんよ!」

「ちょっと2人とも静かにして」


 相川にたしなめられる。


『あ、うんそうだね! 桐花ちゃんは大丈夫、さっき見た時はアイスを食べられるくらい回復してたよ』

『そうなんだ。昼間あんなに食べてお腹壊したって言うのに。やっぱり桐花さんてすごいや』

「……あの、私ってそんなに食べる印象あります?」


 大食いキャラの印象を持たれていることが不服なのか、桐花が割と真剣な表情でそう聞いてくる。


 正直に答えてしまうと桐花を傷つけると判断し、俺は聞こえなかった振りをした。


 北島と石田のやりとりは本題へと入った。


『い、石田くん、期末テストの勉強見てくれてありがとう』

『え、どうしたの急に?』

『だって、今回のテストすごい手応えあったんだ。石田くんのおかげだよ。自分のテスト勉強もあったのに』

『いいよお礼なんて。人に教えるのってすごい勉強になるし、僕も勉強会楽しかったから』


 照れたような石田の声。


『それに、お礼を言うなら僕もだよ。北島さんが作ってきてくれたお弁当、すごく美味しかった。もう食べられないって考えると残念だよ』

『ほ、本当!? 嬉しい。もし良かったら……えっと、ごめんなんでもない』

「……そこはまた作ってくるって言えよ。あのヘタレ」


 相川が眉間に皺を寄せて吐き捨てる。


『それでさ、実は石田くんに渡したいものがあって』

『僕に?』

『うん、これなんだけど』

 

 ガサガサと紙袋を開ける音が聞こえてくる。


 紆余曲折あって手元に戻ってきた紙袋の中身。北島がジュースをこぼしたなんてトラブルはあったが、100均で買ってきた包装紙に包み直すことでことなきを得た。


 ……まあ、北島が包装紙を止めるテープの存在を失念していたせいで、カラオケの店員にセロハンテープを借りるなんて事態に見舞われたりしたのだが。まさか店側もセロハンテープを借りにきた客なんて初めてだろう。


『これは?』

『今日石田くんの誕生日でしょ。だから、その、誕生日プレゼント』

『え、いいの?』

『う、うん。勉強を教わったお礼も兼ねて、受け取ってください』

『あ、ありがとう北島さん』

 

 スマホからは石田の照れたような声が聞こえてくる。


『開けていい?』

『う、うん。気に入ってくれるといいけど』


 ガサゴソという音がする。髪を破る音が聞こえてこないことから、石田が丁寧に包装を開けていることがわかった。

 

『ボールペン? え、でもこんな良さそうなの、いいの?』

『うん。えっとね、石田くんに似合いそうなの探したんだ』

『うわあ、嬉しいよ。本当にありがとう』


 プレゼントは渡せた。ひとまず第一関門は突破だ。


 問題はここから。


『そ、それとね。ずっと……石田くんに言いたいことがあったんだ』


 スマホ越しでも伝わる北島の緊張。


「さあ、来ましたよ吉岡さん。いよいよですよ。いよいよですよ!」 


 桐花が興奮して俺の肩を揺らしてくる。


「ああもう堪んないですね! 告白直前のこのもどかしい空気! 瓶詰めにして持って帰りたいくらいです!!」

「なんて情緒のないセリフなんだ……」

「2人とも静かにして。聞こえない」


 相川に怒られた。


『言いたいこと?』

『うん……えっと……あのね……』

『北島さん?』

『待って! 今、今言うから……!』


 北島が自身を落ち着かせるためであろう深呼吸の音が聞こえてくる。

 

 スマホを囲む俺たちも固唾を飲んで見守る。


『私、私ね……!』

 

 緊張がピークに達する。


 不思議なくらい喉が渇く。


 相川がスマホを瞬きせず見つめる。


 おそらく桐花は無意識なのだろう。俺の手を握ってきた。


 そしてーー



『私…………ずっと石田くんの連絡先、聞きたくてさ』

 

 

「へ?」


 予想外のセリフに、俺の喉から奇妙な音が漏れた。


 隣の桐花もポカーンと口を開けている。


『連絡先?』

『う、うん。ほら、中学からずっと一緒クラスだったのに、そう言えば石田くんの連絡先知らないなーって』

『そう言えば、クラスで連絡先のグループ作ったりしてなかったね』

『こ、これを機会に連絡先教えてくれない?』

『もちろん。喜んで』


 それから、2人の間で他愛のない会話が続く。


 どう考えてもこれから告白をするという雰囲気は消えている。


「う、嘘だろ? これだけお膳立てされて、これ以上ないシチュエーションに持ち込んで、ここでヘタれるのか!?」


 あまりの事態に悪夢でも見ている気分だった。

 

「信じられない!」


 相川が頭を抱えた。


「ここまで、ここまでヘタレだったなんて! これなら同席して手でも握ってるんだった! そうすれば無理矢理にでも告白させたのに!!」


 相川は自分を責めているが、誰がこんな事態想定できると言うのだ。


「おい桐花、どうすんだ? これ依頼失敗じゃねえか?」


 北島から受けた依頼は告白に協力してほしいというもの。


 ここまで道を整えた俺たちに落ち度は全くないだろうが、こんなもの成功したなんて言えない。


「今からでも北島を引っ叩いて告白させた方がいいだろ?」

「…………」


 桐花は無言。苦虫を噛み潰したような表情で黙ったままだった?


「桐花?」

「…………」


 そしてそのままゆっくりと立ち上がり、天を仰ぎ見ながらゆっくりと息を吐き出した。

 

「…………もうすぐ夏休みですね」

「いや無理無理無理! なんだその誤魔化し方!?」


 桐花の回答は現実逃避だった。


「いつの間にか梅雨も終わってましたし、これからどんどん暑くなっていきますね」

「気持ちはわかるけど匙投げんなよ! ここでお前がフォローしなきゃ誰が北島を救えるんだ!」 

「あ、夏休みの前にテストが帰ってきますね。吉岡さん、赤点取ってなきゃいいですけど」

「お前から見ても救いようがないのか!? あの女のヘタレっぷりにはお前もお手上げなのか!?」


 桐花は俺の言葉には耳を貸さず、遠い目をしながらしみじみと呟く。



「もうすぐ夏休み。しっかり楽しんでいきましょうね」

「……夏休みのスタート、幸先悪ぅ」

 

ここまでお付き合いいただありがとうございました。

これにて第8章完結です。


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