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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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お疲れ様会

「ごめん。待たせたかな?」

「ううん、みんな今来たとこだよ」


 一度家に帰った石田を店の前で迎える。石田は私服に着替えてきた。


「石田くんの私服……私服! 高校に入ってから初めて見たかも……やばい、どうしようかっこいいーー」

「じゃあ店に入ろうか」

 

 頬を上気させながら何やらぶつぶつ呟く北島を無視して、相川が促す。


 お疲れ様会の会場として選ばれた店は、以前桐花がタケルに勧めた洋食屋だ。


 丸太を積み上げたようなログハウス調の外観。来るのは初めてだが、確かにおしゃれな店だ。


「いらっしゃいませ!」


 中に入ると活気のある店員に迎えられる。


「予約した桐花です」

「はい。5名様で予約の桐花様ですね。こちらへどうぞ!」


 店はそれほど大きくないため席数が限られている。そのため桐花は事前に予約を取っていたようだ。本当に手抜かりがない奴だ。


 席に向かう途中、座敷席を利用した荷物置き場に案内された。


「お客様のお荷物はこちらに置いてあるカゴにまとめてください」


 石田を除いて、俺たちはパンパンのカバンを持っている。店の広さを考えると案内される席はそう大きくなく、おそらく荷物が邪魔になる。


 そんな店側の配慮なのだろうが、紙袋を持つ北島が固まった。


「ど、どうしようか?」


 荷物置き場は共同のもので、他の客の荷物も置かれている。そんな中にプレゼントの入った紙袋を置くのが不安なのだろう。


「しゃーねーだろ。財布とスマホだけ持っていこうぜ」

「……そうですね。食事の時に汚れたら大変ですから」


 それに、わざわざ紙袋だけ持って行くと目立ってしまう。


「う、うん。わかった」


 少し不安そうな表情を残しながら頷く。


 カゴは大きかったが、5人分の荷物を入れると流石にパンパンだ。そのまま荷物を入れると紙袋が潰れてしまうため、北島は自身の鞄の上に寝かせる形で紙袋を置いた。

 

 そしてそのままテーブルへ。席順は自然と勉強会と同じ形になった。


「さて、何を頼みましょうか」

「色々あるっすね」


 あれこれ悩みながら何を食べるか決め、注文する。


 しばらくして全員分の食事が運ばれて来たタイミングで、桐花が立ち上がった。


「さて、僭越ながら私が乾杯の音頭を取らせていただきます」


 芝居がかった口調で俺たちを見渡す。


「急遽開催された勉強会に参加していただき、ありがとうございます。勉強会では様々な苦労がありました。吉岡さんが英単語を覚えられなかったり、吉岡さんが作者の伝えたいことを全く理解していなかったり、吉岡さんがーーあれ、吉岡さんの話ばかりですね」

「は、話が長いぞー」

「ほう。その苦労を押して吉岡さんに勉強を教えていたのは誰でしたっけ?」

「……どうぞ続けてください」

「よろしい。ですがこれ以上みなさんをお待たせするわけにはいかないので長話はこれまでにしましょう。ではみなさん、勉強会お疲れ様でした。乾杯!」


 乾杯。


 それぞれグラスを合わせる。


「石田くん、ハンバーグにしたんだ」

「ちょっと石田さん! なんで150gのハンバーグなんですか! 300gのハンバーグを頼んだ私が大食いに見えるじゃないですか!」

「いや、ハンバーグ300gは結構な量だぞ」


 それにお前の食い意地は今更だろう。


「は、ははは。北島さんはカルボナーラ?」

「うん。好きなんだ、カルボナーラ。毎回あると頼んじゃう。トモちゃんはいつもナポリタンだよね」

「洋食屋さんのナポリタンって美味しいよね。鉄板だとなおよし」

「今日制服なんだからケチャップ飛ばさないでよ」

「あんたじゃないんだから」


 ちなみに俺はオムライスだ。桐花に子供っぽいと笑われた。


「それで吉岡くん。テストはどうだったんすか?」

「お前なあ、めでたい席でそんな話題を出すのはどうかと思うぞ」

「……めでたくない結果だったんすね」


 どうだろう。赤点を取った中間テストよりは手応えがあったとは思うが、赤点を回避できているかどうかは微妙なラインだ。


「そういえばさっき、家に帰る途中で剛力くんと九条さんにあったっすよ」

「テスト終わったのに二人一緒にいたのか? いや、俺たちみたいにお疲れ様会でもすんのか」


 タケルと九条の二人はテスト期間中、ずっと二人で勉強していたという話だしな。


「そうみたいっすよ。九条さんの家に招かれてお食事会だそうです」

「……外で食うんじゃなくて、自宅でやんの?」

「……九条さんのお父さんとお母さんもいるそうっす」

「…………」


 お前それ、娘さんを僕にくださいのパターンじゃねえか。


 あいつらまだ付き合ってねえよな? 何段階すっ飛ばしてんだ?


「石田さん。九条さんの家わかりますか?」

「桐花、座れ」


 見学しにいこうとすんじゃねえよ。


 そうこうしているうちに全員が食べ終わった。


「美味しかったね、石田くん」

「そうだね。僕もお腹いっぱいだよ」


 腹を抑えながらやや苦しそうに告げる。150gでも石田の胃袋にはギリギリだったようだ。(なお、桐花は300gのハンバーグを涼しい顔で完食していた)


「このあとカラオケだよね。この店であってる?」


 相川がスマホを桐花に見せる。


「あってますよ。ここからすぐ近くのカラオケで、穴場です」

「お前のその『穴場』ってセリフ怖いんだけど」


 おかげでファミレスでは酷い目にあった。


「至って普通のカラオケですよ。予約の時間も近いですし、行きましょうか」

「石田、動けるか」

「い、いけるっす」


 やや顔色が悪い石田を心配しながら、俺たちは席をたった。


「そうだ、鞄」


 忘れてはいけない。荷物置き場にある鞄を取りに行かねば。


 座敷席の荷物置き場に向かうと、後から来た客の荷物に俺たちが使っているかごが押され、奥に押しやられていた。


「ちょっと私取ってくるね」

 

 相川が靴を脱ぎ、座敷に上がる。

 

 俺たちの荷物が入ったカゴを手に持ち、一瞬動きを止める、


「……おんもっ!」

「相川無理すんなよ」


 教科書やら何やらでパンパンになった鞄5人分だ。流石に一気に持つのは無理だろう。


 相川はカゴごと持ち上げるのを諦め、個別に鞄を取り出して渡していく。


「はいこれ、春香の鞄と紙袋で最後ね。あー重かった。春香に任せればよかった」

「わ、私は箸より重たいもの持ったことないから」

「お嬢様かよ」


 相川が北島に鞄を投げつけた。


 俺たちは会計を済ませて店を後にした。


 そして舞台は決戦の地、カラオケ店に変わる。

 

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