テスト終了
期末テスト最終日。
最後の科目は俺が最も苦手とする『英語』であった。
俺は最後の最後まで、ひたすら見直しを続けて少しでも点を稼ごうと足掻いた。
そして終わりを告げるチャイムがなる。
「……終わった」
俺の口から思わず漏れたその言葉が何を意味するのか、俺自身にもわからなかった。
「お疲れ様です吉岡さん。テストどうでした?」
テストが終わってすぐ、俺は相談部の部室に足を運んだ。
部室には桐花だけでなく、北島と相川もいた。
「それは、あれだな。神のみぞ知るってやつだな」
「……あれだけ勉強して最後は神頼みですか」
呆れたようにため息をつかれた。
桐花のジト目から逃げるように、俺は北島と相川に視線を移した。
「石田は? 一緒じゃねえのか?」
「石田くん荷物置きに一回家帰るって」
「現地集合するって言ってたよ」
荷物とはおそらく、この1学期の間に溜まりに溜まった教科書やらノートのことだろう。夏休みを前に全生徒が持ち帰りに苦労するという。
かくいう俺や、この場にいる全員鞄がパンパンだ。限界まで詰め込んで持ち運びが大変そうだった。
「ならば都合がいいですね。ここで作戦の最終確認をしましょう」
桐花が目を輝かせながら身を乗り出す。
「ここまでの勉強会はあくまで前座。本番に向けての準備段階でしかありません。大事なのはここからです!」
北島の最終目標は告白。
その告白のために、俺たちは今日集まっている。
「当初の予定通り、本日は期末テストのお疲れ様会を開催します」
「まず、昼飯食いに行くんだよな? そこで告白か?」
「そんなわけないじゃないですか。告白は二人っきりで行うのが絶対です、今から行くお店で公開告白なんてするわけないでしょう」
「確かにそうだな」
「あ、でも。大勢の人を集めて、みんな踊っている中で告白するシチュエーションもありですね」
「……フラッシュモブでの告白なんて、OKもらえること前提の告白じゃねえかよ」
北島の告白成功確率は現状そこまで高くはない。
「告白を行うのは食事の後カラオケに行った後です」
「カラオケか」
勉強会の最中から、お疲れ様会は食事の後カラオケにしようと桐花が打診していた。
カラオケで告白というのはどうかと思ったが、外から様子を窺い知ることのできない密室というのは告白にはうってつけだと桐花にゴリ押しされた。
「しばらくみんなで遊んだ後、北島さんと石田さんを部屋で二人きりにします。そこで北島さんは誕生日プレゼントを渡し、告白するという流れです」
「二人っきりにするって、その間俺たちはどうするんだよ。部屋の前で待機か?」
「まさか。その辺りもちゃんと考えてますよ」
「ならいいけど」
桐花の考えとやらに期待しよう。
「あの、それってトモちゃんも部屋から出てくんだよね?」
すると、北島が妙なことを言い出した。
「はい? そりゃあ、告白ですから」
「と、トモちゃんが一緒にってわけにはいかないかな?」
「はあ!?」
とんでもないことを言い出した北島に、相川が大声を出して詰め寄った。
「なんで私があんたの告白に同席しなきゃいけないのよ!」
「だ、だって一人っきりじゃ心細いんだもん!」
「ふざけんな! その間私は何してりゃいいんだ! 告白の裏でBGM代わりにラブソングでも歌ってろってか!?」
「そ、そんなこと頼まないよ……手、握っててくれる?」
「いいかげん独り立ちしろよ!!」
どこまでも親離れできない北島を諌め、話は石田に渡すプレゼントに移った。
「それで北島さん。プレゼントは持って来ましたか?」
「うん。それはバッチリだよ」
そう言って小さな紙袋を机の上に置き、その中からプレゼント用に包装された細長い箱のようなものを取り出した。
「これ、ちょっと高めのボールペン。ケースつき」
「なるほど、ボールペンですか」
少し地味目だが、高校生のプレゼントとしては悪くないチョイスに思えた。
「石田くんの持ってる物って、ちょっと良い物が多いんだよね。前に聞いたら、良い物を長く使うのが家訓だ。って」
そういや、あいつと出会うきっかけとなった小銭入れもなかなかしっかりとした作りの物だったな。
「そうか。いや、思ったより全然まともでビックしたわ」
「思ったよりまともって。吉岡くんは私をなんだと思ってるの?」
「そりゃあ、な? まあ、これ以上言うと悪口になりそうだからやめとくけど」
「何を言うつもりだったの!?」
それはほら……悪口になるから。
「ひどいよ吉岡くん! 私だってちょっとは考えるよ!」
「よく言う……プレゼントをボールペンに決めるまで、私がいくつあんたの提案を却下したと思ってるの?」
「うっ」
図星を突かれたのか、北島が苦い表情を浮かべた。
「ああ、やっぱ紆余曲折あったのか」
「そうよ。最初はなんだっけ? ペアのネックレスだっけ?」
「うわ、それ付き合ってからのプレゼントじゃねえか」
初っ端から飛ばしてくるな、この女。
「それでその次が、ペアの時計だったね」
「最初のが却下された時点で、ペアの物はダメなんだって気づけよ」
「で、次が手作りのマフラー」
「7月なのに?」
「次が手作りの浴衣」
「季節感合わせりゃ良いってもんじゃねえんだよ。手作りの時点で重いんだよ」
俺と相川の会話を聞いていた北島がだんだんと涙目になってきた。
「で、最終的に私からボールペンにしろってアドバイスしたわけ」
「プレゼント選んだの相川じゃねえか。何が私だってちょっとは考えてるだ、こんなのほとんど相川のプレゼントだろ」
「私のプレゼントだもん!」
涙目の北島が猛抗議してくる。
「プレゼントを買いに行ったのも私! どのボールペンにするか考えたのも私! お金を出したのも私だもん!」
「わかった、わかったから。泣くなよ」
「泣いてないもん!」
これ以上泣かれては困るので、北島をいじめるのはここで一旦やめた。
「これ、紙袋に入れて持ってくのか?」
「うん。カバンはいっぱいで入らないのと、綺麗に包装されてて汚したくないから」
「なるほど。だけど、この紙袋ブランドのロゴみたいなの入ってるよな? 目立たないか?」
今回の誕生日プレゼントは完全にサプライズだ。なのに明らかに誕生日プレゼントです、って感じの紙袋を引っ提げて行くと石田にバレそうなものだが。
「そこは大丈夫。もう一つ紙袋を持って来たんだ」
そう言ってロゴ入りの紙袋より一回り大きく、無地の紙袋を取り出す。
「この中に紙袋ごとプレゼント入れれば、ほら何が入ってるかわからないでしょ」
大きな紙袋の口の真ん中に一つボタンのような留め具があり、それを留めれば中を見ることは不可能だ。
「こうやって持っていけば、カバンに入りきらない教科書を紙袋で持ち帰ってるように見えるでしょ?」
「へー、確かに良いアイディアだな。うん、どうせこれも相川の考えだろ」
「そうよ」
「ちょっとは私に花を持たせてよ!」
さて、やるべきことは決まった。
この告白がうまく行くかは、それこそ神のみぞ知るというものだ。
「さあ、いよいよ正念場です。必ずこの『長年の片思いに終止符を。二人っきりの密室でドキドキプレゼント告白大作戦!!』を成功させますよ!」
「お前ってネーミングセンスねえよな」
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