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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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勉強会の進捗

 勉強会を始めて数日。


 当初は北島のあまりのヘタレっぷりに、関係性の進展は不可能だとは思われたが、思わぬ方法で解決した。


「うわ、北島さん今日のお弁当も美味しそうだね」

「あ、ありがとう。石田くんが好きだって言ってた甘めの卵焼きも作ってきたよ」


 なんと北島料理が得意らしく、勉強を見てくれるお礼として石田に昼食の弁当を作ってくるようになったのだ。


 きっかけは、相川の一言。


『あんた料理得意じゃん。無駄に」

『無駄じゃないよ!』


 そんなわけで手作り弁当作戦が実施され、これが見事に当たったのだ。


『料理が得意なんて、女子力のアピールに最適です。それに女の子の手作り弁当にときめかない男性なんていません。胃袋を掴んで、ハートも鷲掴み。内臓全部掴み取りですね!』


 などと、女子力皆無のセリフを桐花が口にしていた。


「このきんぴらごぼう美味しい! 朝に作るの大変じゃなかった?」

「う、ううん。日持ちするから多めに作っておいて、お弁当に入れるだけだから」


 桐花のセリフはアレだったが、同じ中身の弁当という共通の話題ができたことで、二人の会話は自然と弾んでいた。


 北島もようやく慣れてきたのか、やや緊張しながらもキャッチボールを行えている。


「ほら吉岡さん、休まず手を動かしてください」

「なあ桐花。昼飯くらいゆっくり食わせてくれよ」

「なんのために私がサンドイッチ作ってきたと思ってるんですか。吉岡さんにゆっくり昼食を取る余裕なんてありません」

「ちっくしょう」


 こんな感じで、俺たちは昼休み、放課後と勉強会を続けた。


「そういえば石田さん。やっぱり夏休みはお忙しいんですか?」

「そうっすね。夏の大会もありますし、夏休みの間は稽古漬けっすね」

 

 そしてこの頃になると勉強会にも慣れ、合間に行う雑談も増えてきた。


「石田くん、レギュラーになれた?」

「いや、そもそも柔道部ってレギュラーって言うんだっけ?」

「団体戦の代表のことかな? 無理無理、僕は高校から始めた初心者だからね。そもそもウチはレベルが高いから、1年で選ばれたのは剛力くんぐらいだよ」

「タケルが?」

 

 聞き慣れた名前が出てきて、俺はペンを止めた。


「あいつ代表に選ばれたのか。あの野郎、この前飯食いに行った時は何も言わなかったじゃねえか」


 なんて友達甲斐のないゴリラだ。


「まあ剛力くんが代表になるのはほぼ確実だったすからね。選ばれた時は雄叫びあげてましたけど」

「そりゃあそうでしょう。剛力さんには絶対に、絶っ対に全国大会に出場しなければならない理由があるんですから!」


 熱弁する桐花。 


「そういえば石田くんって、なんで柔道部入ったんだっけ? 中学は帰宅部だったよね」


 相川がそんな疑問を口にした。

 

「そうだね。中学の時は習い事が忙しくて、部活やってる時間なかったから」

「習い事? 何やってたんだ?」

「あー……ピアノっす」

 

 決まりの悪そうな表情で驚くべきことを言い出した。


「ピアノ? お前が?」

「べ、別にいいじゃないっすか。昔の話っす」

「そ、そうだよ吉岡くん! 石田くんがピアノやってても全然おかしくないよ。むしろ似合ってるくらいだよ」


 確かに、写真で見た髪の長かった時の石田がピアノを弾いている姿は様になっているだろう。


「まあ、アレっす。昔っから自分は男らしくないとか、女みたいだって言われることが多くて。それで強い男になりたくて高校では柔道部に入ったんす」

「男らしさの憧れか」

 

 柔道部の練習はかなりきついと聞く。


 それまで全く経験のなかったやつが頭を丸めて柔道部に入るなんて、随分と思い切らなければできないだろう。


 一念発起した石田に感心するが、肝心のこいつはため息をついて自嘲気味に笑う。


「入部して数ヶ月。自分は稽古について行くのもやっとで、男らしいかっこよさにはまだまだ遠いっす」

「そ、そんなことないよ! 石田くんはかっこいいよ! 柔道部に入る前から、ずっと!」


 北島が立ち上がり大声を出した。


 おそらくほとんど無意識だったんだろう。少し経ってから自分が何を言ったのか理解したらしく、その顔が真っ赤になっていた。


「あ、ありがとう。北島さん」


 石田も頬を染めている。


 戸惑いながらも、その表情はどこか嬉しそうだった。


「ぐへへ、付き合う前の男女が繰り広げる甘酸っぱいやりとりはたまりませんね」

「ぐへへって。お前にほんの少しでもあいつらの可愛げがあればいいのに」




 勉強会の真の目的である北島と石田を仲良くさせるミッションは順調そのもの。

 

 このままいけば告白まで上手く行くのはないか。そんな予感を感じさせるほど。


 ただしーー


「マジでやっべえ……」


 俺は全くもって順調じゃなかった。


 期末テストまであと三日となった金曜日。つまり、土日の休みを過ぎればもうテスト本番だ。


 これまでの勉強会で俺は高校生になって一番勉強したと自負している。

 

 だが、勉強の成果が芳しくない。


 桐花と石田が協力して作った小テストの結果が軒並み悪かったのだ。


 特に元々苦手だった現国と英語。この二つはこのままテストを迎えると確実に赤点を取ると確信するほどだ。


 勉強会で手を抜いていたわけではない。だが高校1年生1学期の不勉強のツケが一気に回ってきた。


 ……あと言い訳させてもらうと、教師役の桐花のせいでもある。この女、目の前で繰り広げられる北島と石田の初々しいやりとりをチラチラと盗み見していて気もそぞろだった。


「えっと、どうする? 勉強会って一応今日までの予定だったよね?」


 相川が遠慮がちにそう言った。


 土日の間、配管工事のため校舎そのものが立ち入り禁止となる。


 部室が使えない以上勉強会を開ない。だから元々今日が勉強会最終日の予定だった。


 だが俺のあんまりな結果を見て全員が気の毒そうな視線を向けてくる。


「まさか……吉岡くんがここまでできないとは。春香の下がいたなんて」

「だ、大丈夫だよ吉岡くん。長い夏休みと比べたら補習のなんてあっという間だよ!」

「そうっす! 逆に考えるっす、長くて退屈な夏休みにやることができたと!」

「揃いも揃って刺してくんな!!」


 北島と石田に至っては赤点取ること確定で話してんじゃねえか。


「仕方ありませんね。お勉強がまるでできない吉岡さんのために、明日土曜日も勉強会を開きましょう。それでも赤点を免れる確率は10%ほどで……いや、5%……まあ夢見たっていいじゃないですか。人生希望がないと」

「お前は一回刺した後に抉ってくるよなあ!」

 

 俺を痛めつけることにかけては天才的だな。


「でも桐花ちゃん。明日どこで勉強会するの?」

「そうっす。部室は使えないんすよね」


 疑問を口にする北島と石田。


 部室が使えない以上別の場所を用意しなければならないが、いい場所が思いつかない。


 パッと考えつくのは町の図書館だが、一人二人ならともかく、5人も集まって勉強会を開くとうるさくて追い出されかねない。

 

 俺は頭を悩ませるが、桐花は得意げな表情を浮かべた。


「場所については大丈夫です。こうなったら、私の穴場を紹介しますよ」


 

 

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