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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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会話のキャッチボール

「喋れや」

「ヒッ!」


 翌日の早朝、部室にて。


 石田を除いたメンバーで集まり、北島を取り囲んでいた。


「あんた、なんだ昨日の醜態は」

「しゅ、醜態って?」

「この勉強会の目的忘れたか? 石田とあんたの仲を進展させるためだろうが、喋れや」


 口調が辛辣になっているが仕方ないだろう。それほど昨日の勉強会はこの女のヘタレっぷりにイラつかされたのだ。


「うう、トモちゃん! やっぱりこの人怖いよ!」

「いや、この件に関してはあんたが100パー悪いから」


 涙目の北島が相川に泣きつくが、冷たくあしらわれる。


「だって、だって仕方ないじゃん! 石田くんがあんな近くにいたんだよ! そんなの緊張して喋れるわけないじゃん!」

「緊張すんのはわかるけどさあ……」

「石田くんの顔が私のすぐ近くに。すごく……すごくいい匂いがした!」

「石田の匂いの感想なんて聞きたくなかったな」

「シトラス系のシャンプー使ってるのかな? その匂いと夏場の汗の匂いが混ざって、私はパニックだったよ!」

「そんな感想聞かされるこっちの方がパニックだよ!」


 余裕あんじゃねえか。


「まあまあ、吉岡さん落ちついてください。女の子として想い人の接近にドキドキするのは仕方ないじゃないですか」

「そんな可愛い感じじゃなかっただろ」


 俺の中では北島は恋する女の子ではなく、匂いフェチの変態だ。

 

「しかし会話もままならないとなると、流石に問題ですね」

「で、でも何話せばいいのかな?」

「そりゃあ……」


 そう言われると難しいな。


 勉強会という名前はほとんど建前だが、一応真面目に勉強しているのだ。


 勉強会の空気感の中、2人だけで何か話せというのも難易度が高い。


「仕方ありませんね。では私が話題を振りましょう」

「桐花ちゃんが?」

「はい。うまくボールを渡すので、あとは2人で会話のキャッチボールができるよう頑張ってください」

「う、うん! 頑張る!」


 気合を入れ治す北島を見ながら、相川が不穏な呟きを残す。


「……そんな簡単にいくといいけど」



 昼休み。


 俺たちは昼食をとってまた部室に集まり、昨日と同じように勉強を進めていた。


 昼休みは1時間もない。桐花は早速北島と石田に話題を振った。


「そういえば北島さん。中学の修学旅行ってどこでした?」

「へ? お、大阪だったけど」

「やっぱり。この辺りの中学ってだいたい修学旅行大阪ですよね」

 

 勉強をしている最中の話題としてはかなり強引に思える。だが北島と石田は同じ中学、共通の思い出は会話のとっかかりとしてはいい塩梅だろう。


「どこに行きました?」

「確か水族館に行ったかな、名前なんだったけ?」

「ああいえ、わかりますよ。有名ですもんね」


 まずはウォーミングアップ。


 桐花と北島の間でボールを回し、本番に備える。


「私の中学は万博公園でしたから、水族館も行ってみたかったですね。どうでした、よかったですか?」


 そして、ボールが北島の手に渡る。


「うん、よかったよ。見るとこいっぱいで時間足りなかったくらい。ね、()()()()()

「え! あ、うん……そだね」


 ……この女。ボールを石田じゃなくて相川に投げやがった!


「そ、そうですか! 大阪に行く機会があれば行ってみたいところですね。大阪って食べるものも美味しいですし、たこ焼きとか。石田さんは大阪で美味しかったものってありますか?」


 引き攣った笑みを浮かべる桐花が、今度は石田にボールを回した。


「自分はそうっすね、駅で食べた豚まんが美味しかったっすね。コンビニとは比較にならないボリュームで食べ応えがあったっす。確か北島さんのグループも買ってなかった?」


 桐花の思惑通り、石田が北島へボールを渡した。


「え! 豚まん買うとこ見てたの!? ち、違うよ。私はもっとおしゃれなパン買いたいって言ったのに、トモちゃんが豚まん買いたいって言うから! ねえ、トモちゃん!」

「いや、あんたも気に入って3つくらい買ってたじゃん」


 なんでまた相川に回してんだこの女!!


 結局この昼休みは石田とのキャッチボールが成立することなく終わった。



「喋れや!」

「ヒッ!」


 放課後。


 石田が部室に訪れる前に、俺は北島に詰め寄っていた。


「喋れっつったよな! うまい具合に話題があったんだから、石田と喋れや!」

「で、でも石田くんからのボールは受け取ったよ?」

「投げ返さなきゃ意味ねえんだよ! なんでことごとく相川にボール回してんだよ!」

「そ、それは……いつもの癖で」


 どう言う癖だよ。


 呆れ果てていると、相川が心底後悔するような口調で語り出した。


「もうさ、ほとんど私の責任だよね」

「と、トモちゃん?」

「長年にわたって春香を甘やかし続けたせいで、この子はこんなダメで、ヘタレで、頭の悪い子に……!」

「ダメとヘタレはともかく、頭の悪さは今回関係ないよ!!」

 

 頭の悪さとヘタレの関係性について、どっか偉い学者さんが研究してくれねえかな。


「そ、そもそもだよ。石田くんと喋れって、2人でいちゃつけってことだよね?」

「会話だけでいちゃつくとまでは言わねえよ」

「私からすればほとんどおんなじ意味なの!」


 いちゃつくハードルって、随分と下がったものだな。


「人前でいちゃつくなんて、私そんなはしたない女の子じゃないからね」

「はあ?」

「つまり春香。私たちの存在が邪魔って言いたいわけ?」


 とんでもねえこと言い出したぞこの女。


「テスト期間だってのにあんたの恋愛ボケに付き合わされてる私たちが邪魔? あんたが石田くんと仲良くおしゃべりできるように色々考えてる私たちが邪魔? 3年間ずっとあんたの恋愛相談に乗ってきた私が邪魔?」


 相川が北島にジリジリと詰め寄る。


 俺の位置から相川の表情は伺えないが、涙目でぶるぶる震える北島を見るに、鬼のような表情を浮かべているのかもしれない。


「じゃ、邪魔とまでは言わないけど、誰かがいるところで石田くんとおしゃべりするなんて、結構恥ずかしい」

「……こいつの羞恥心、どうなってんだ?」


 これまで醜態を臆面なく晒しておいて今更。


「いや、北島さんの言ってることもわかりますよ。好きな人と会話する時の自分って、普段友達に見せている自分とは違うってよく言いますからね」

「そう……かな?」


 桐花の言葉に、相川が微妙な反応を見せる。


「じゃあなんだ? 北島と石田2人っきりで勉強させるか?」

「そこまでやると不自然ですよ。でもそうですね、一度自然な形で2人きりにしてみましょうか」

 



 と、言ったところで石田がやってきて放課後の勉強会開始。


 しばらく集中して勉強していたところ、桐花が急に伸びをしだしてこう言い出した。


「ちょっと疲れましたね。甘いものでも買いに行ってきます」


 そう言って俺に目配せ。


「あー、じゃあ俺も購買行くわ。喉乾いた」

 

 相川も続く。


「私も買いに行こっかな」


 そう言って立ち上がると、北島に念押しする。


「春香は……いらないよね。最近ちょっと太ったって言ってたし」

「ふ、太ってない! 石田くん私太ってないからね!!」

「石田くん春香の勉強見といて。その代わり、なんか買ってくるから」

「わ、わかった。じゃあ紅茶を買ってきてくれる?」

「紅茶ね、うん了解」


 そう言い残して、俺たちは部室を出る。

 

 そして購買には行かず、時間を潰すために誰もいない教室を見つけて入る。


「あいつら、会話できてると思うか?」


 適当な椅子に腰掛けながらそう愚痴る。


「できてなかったら怒るって。私も普通に勉強したいのに追い出されたわけだし」

「だよなあ」


 俺だって勉強しなければならない身だ。


「相川は()()に中学の時から振り回されてるわけか」

「正確には5歳くらいの時からよ。幼馴染だから」

「10年か。すげえな」


 俺なんてほんのわずかな時間で辟易としているのに。


「私としてもいい加減くっつくなりで落ち着いて欲しいのよ。何かあるたび『トモちゃん、トモちゃん』って」

「トモちゃんさん、いいお友達ですね」

「どうかな? 流石にめんどくさくなってきただけかも」


 少しだけ照れたように笑う。


「なんだかんだで3年間。あの子が本気で石田くんのことが好きなのはそばで見てきたしね。これを機にあの子の恋が成就するといいんだけど」

「……微妙なとこだな」


 現状北島と石田の進展具合は亀の歩みだ。


「ご安心くださいトモちゃんさん。この私が必ずやあの2人を恋人同士にして見せますよ!」

「実績なんてまるでないくせに、この自信はどこからくるんだろうな」


 不思議なもんだ。


「それにしても、好きな人と会話する自分はいつもと違う、か。北島も石田と会話する時はキャラ変わってんのか?」

「確かめてみますか?」

「へ?」


 桐花の予想外の言葉に固まっていると、桐花が何やらスマホを操作し出した。


「部室の会話聞けるんですよ。実は部室にマイクを置いてきましてね」

「マイクって……それ盗聴器じゃねえか!」

「失礼ですね、マイクですよ。小型で、集音性が高くて、一見するとただの小物にしか見えないマイクですよ」

「盗聴器じゃねえか!!」


 何やってんだこの女。なんでそんな物を持ってんだ?


「全くうるさいですね。仮に盗聴器だとして、相談部の部長である私が、相談部の部室の様子を知ろうとすることの何が問題なんですか?」

「中にいるのが部員じゃねえことだよ!!」

「じゃあ、吉岡さんは聞かないでおきます?」

「……聞くけどよ」


 なんやかんや言いつつも、結局気にはなる。


 3人で桐花のスマホから流れてくる音を聞き漏らさないように集中する。


 集音性が高いと言う桐花の弁は本当だったようで、スマホからはカリカリとノートにペンを走らせる音まで聞こえてくる。


 カリカリ


 カリカリ


 カリカリ


 カリカリ


 カリカリ


 ずっと聞こえてくる。


「……」

「……」

「……」


 3人とも息を押し殺して耳を澄ませるが、それ以外何も聞こえてこなかった。


「……相川。北島呼び出してくんねえか」

「うん……ちょっと、本気で怒っていいから」


 相川がスマホで北島を呼び出した。



「喋れやっ!!!!」

「ヒィィっ!!

 

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