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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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勉強会

 勉強会の参加を了承した石田を連れ、俺は相談部の部室へと向かった。


 今回の勉強会の目的は勉強ではなく、石田と北島の仲を進展させること。となれば当然、図書室や放課後の教室などの人目のつく場所で勉強会なんてできるわけがない。必然的に外部の目が届かない相談部の部室が使われることになった。


「そういえば、相談部が結成されてから部室にお邪魔するのは初めてっすね」

「あれ、そうだっけか?」

「はい。前に行った時は、確かボランティア部の部室だったっすよね」

「ああ、タケルの時か」


 そんな話をしているうちに部室にたどり着く。部室には桐花、そして北島と相川の3人が待機していた。


「ようこそ相談部へ。お久しぶりですね、石田さん」

「桐花さん、お久しぶりっす」


 まず、桐花が出迎える。


「噂は聞いてるっすよ。桐花さんと吉岡くん、色々と活躍してるみたいっすね」


 噂されている()()の部分は、どうせ碌なことじゃなさそうだ。


「石田さんこそ、柔道部の練習はどうです? ちょっと逞しくなったんじゃないですか」

「お、わかるっすか。我ながら結構筋肉ついてきたと思うんすよね」


 石田は誇らしげに力瘤を作るポーズを見せる。しかし夏服から除く白い腕にはそれらしい隆起が全くなく、俺は思わず笑ってしまった。


「お前なあ、その小枝みたいな腕のどこに筋肉があんだよ。桐花よりも細えじゃねえか」


 直後、桐花が俺の脛に蹴りをかましてきた。


「男子の腕の太さの比較に、女子の私を出さないでください!!」


 桐花の足から逃げている俺を見て、石田は苦笑いを浮かべた。


「石田くん、今日はよろしく」


 相川が涼しい顔で挨拶する。


「よ、よろしくお願いしますっ!」


 そんな相川の背に隠れるように北島が上擦った声を出す。


 初っ端からそんな緊張していて大丈夫なのか? いくら意中の相手だとは言え、3年以上同じクラスなんだから流石に慣れろよ。


 そんなことを思っていると、石田が笑顔で挨拶を返す。


「うん。相川さんも、北島さんもよろしくね」

「!?」


 爽やかな笑みと共に返された言葉。その言葉使いがあまりにも自然で、俺は一瞬存在しないサラサラヘアーを幻視した。


「おい、石田。なんだその喋り方は?」

「喋り方? なんのことっすか?」


 石田はいつも通りの喋り方に戻った。


「とぼけんな。なんで俺と北島らで喋り方が変わるんだよ?」

「何言ってるんすか。自分の喋り方はいつもこんな感じっすよ」


 そう言いながら、石田は決して俺と目を合わせようとしなかった。


「お前、さてはあれだな? 普段のすっす、すっす喋りはキャラ作りだな?」

「キャラ作りとはなんすか! 気合いと言って欲しいっす!」

「その気合いが中学の同級生の前で抜け落ちてんじゃねえか! 高校入ってから作ったキャラだから、以前のお前を知る奴らの前だと恥ずかしくなってんだろ!」

「そんなわけないっす! ていうか、自分の喋り方なんてどうでもいいじゃないっすか! 勉強するっすよ、勉強! 吉岡くんの面倒は桐花さんが見るんすよね!」

「は、はい。そのつもりです」


 石田は桐花の返答に頷くと、北島に向き直る。


「それで僕は北島さんの勉強を見ればいいんだね? 微力ながら力になるよ」

「お前……なんて器用な喋り方しやがる」

 

 戦慄する俺をよそに、北島が『ギャップ萌え……!』とか言って悶えていた。

 

 

 かくして勉強会がスタートした。

 

 席順は俺の隣に桐花。その向かいに石田、北島、相川の順で並ぶ。


「ほら吉岡さん、その単語スペルが間違ってますよ。というか、もう少し丁寧に書いてください」

「お、おう」

 

 丸めたノートで頭をペチペチ叩かれながら、ひたすら英語の文章の書き取り。


「書きながら声に出して読んでくださいね。手と口を同時に使うことで記憶を定着させるんです」

「シ、シーハド、アル……アルレア……桐花、これなんて読むの?」

「already! こんなの中学で習う単語ですよ!!」


 一際強く頭を叩かれる。やめろよ、衝撃で覚えたことが抜け落ちたらどうすんだ。


 こんな感じで俺の方の勉強は進んでいる。桐花に大義名分を与えたせいで普段以上に強い当たり方をされているが、まあ順調と言えるだろう。


 向かいに座る連中はというとーー


「北島さん、数学の展開は公式を覚えてなくても計算はできるけど、多分テストじゃ公式を使わないと時間が足りないと思う。だからまず1学期の範囲の公式を全部覚えようか」


 まず、石田。いつもと違うやたらと爽やかな喋り方が鼻につくが、北島への教え方は丁寧で、教師役としては全く問題がない。


 そして相川。北島と石田のやりとりには我関せず。2人の隣で黙々と勉強している。


 問題はこいつ。北島だ。


「連立方程式はまず、xを含んだyの式を算出した後、もう一つの式にyを代入してーー」


 丁寧に北島のノートに書き込みを行う石田。教師役に集中しているのか、北島との距離がかなり近くなっていることにあいつは気づいていない。視線は手元のノートに注がれている。

 

 一方で北島。その視線はノートではなく、近くにある石田の顔に集中している。石田の言葉なぞまるで聞こえちゃいないだろう。


 頬を赤らめ、うっとりとした表情を浮かべている。口元がだらしなく半開きになってさえいなければ、恋する乙女の表情なのに。


 そこはまあ別にいい。


 石田は教師役に熱中しているため、北島の惚けた表情には気づいていない。


 北島は明らかに勉強に集中できていないが、こいつのテストの成績なんて知ったこっちゃないのでそれもいい。


 問題なのはーー


「ーーということなんだけど、北島さん、わかった?」

「うん」

「じゃあテキストの問題を解いてみようか。わからなかったらまた聞いて」

「はい」


 この女、こっちがせっかくお膳立てしてやってるのに、石田との会話が薄いのだ。


 なんのために勉強会を開いたと思ってるんだ? せっかく石田と至近距離で会話する機会を作ったのに『うん』とか『はい』なんかの生返事ばかりだ。


 先ほどから俺に勉強を教えながら2人をチラチラ見る桐花も、あからさまに不満そうな表情を浮かべている。

 

 相川なんて、こちらに聞こえる大きさの舌打ちを数回鳴らしている。


「これは……ちょっとテコ入れが必要ですね」


 桐花が不穏な呟きを残しつつ、その日の勉強会は終わった。


 

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