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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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桐花の秘策

「はあ、勉強会っすか?」


 放課後。1人図書館で勉強していた石田に俺は声をかけていた。


 ちなみにだが、石田が放課後の図書館で勉強しているという情報を持っていたのは北島だ。薄々勘づいていたが、あの女ストーカー気質があるらしい。


「ああ。お前、北島春香と相川智代って知ってるか?」

「え? そりゃ同じ中学だし、今は同じクラスだから当然知ってるっすけど」


 驚いたように石田は目を見開いた。


「というか、自分からすれば吉岡くんが2人のこと知ってる方が意外っすけど」

「前に学園中でオカルトめっちゃ流行った時期あっただろ。その時北島たちから心霊相談を受けて以来ちょっとな」


 という設定である。


「その2人と、俺と桐花でテスト期間の昼休みと放課後に勉強会を開く予定なんだ。お前も来ねえか?」

「えっと、なんで自分なんすか?」

「実は北島に勉強教えてやって欲しいんだよ。俺は桐花に教わる予定だから手が足りなくてな。俺たちと北島ら共通の知り合いがお前だったんだよ」

「なるほど……あれ、相川さんもいるんすよね。相川さん頭良かったはずっすけど」

「相川、なんか国数英理社の5教科は問題ないけど、それ以外の家庭科やら保体やらが自信ないらしくてな。そっちに集中したいから教えてる暇がないんだとよ」

「あー、期末って教科多いっすもんね」


 納得したように頷く。


「それで、勉強会参加してくれるか? それとも他の誰かと勉強する予定とかあるか?」

「いや。全然そんな予定はないっすね」

「柔道部の連中とやったりしねえの? タケルとか」

「剛力くんは、あれっす。九条さんと一緒に勉強してるっすから。邪魔しちゃ悪いっす」

「ああ、そりゃそうだよね」


 学園の小動物系アイドルと一緒に勉強会か。羨ましいやつだ。


 そう思っていると、石田は周りに聞こえないよう声を落とす。


「剛力くん、放課後九条さんの家に行って2人で勉強会してるらしいっすよ」

「え?」


 タケルが女子の家で2人きりで勉強会だと? しかも()()九条真弓と一緒に?


「お前! それ、あいつ本格的に喰われちまうんじゃねえか!?」


 九条真弓は超がつくほどの肉食系。そんな九条の家で2人きりなんて、自ら皿の上に身を委ねるようなものだ。


 あまりの展開に戦慄していると、石田は苦笑いしながら俺の考えを否定してきた。


「いやいや。いくらなんでも考えすぎっすよ」

「そ、そうか?」

「第一家には九条さんのお母さんがいるらしいっすから。完全に2人きりってわけじゃないんすよ」

「……家に母親がいんの?」


 あいつらまだ付き合ってねえよな? なのに母親とは顔合わせが済んでるって。

 

 いや、もしかして。テスト勉強をする場所を母親がいる家にしたのは、着実に外堀を埋めていくための九条の策略なのでは?


 背筋に冷たいものが走る。俺はそれ以上考えることをやめた。


「ま、まあいいや。それで勉強会だが参加してくれないか。頼む、勉強を教える側の参加者が足りてないんだ」

「そこまで言われたら、自分に断る理由はないっす」


 釣れた。


 完全に桐花の策略通り。


 石田に勉強会の話を持ちかけた時に想定されるやりとりや、疑問への回答なんか桐花のシミュレーション通りすぎて怖いくらいだった。




「勉強会を開きましょう」


 北島の依頼を引き受けた後、桐花はそんなことを言い出した。


「勉強会?」


 夏休みが補習に消えると肩を落としていた俺は、思わぬ言葉に疑問符を浮かべる。


「そうです。私、吉岡さん、北島さんに相川さん。そこに石田さんを加えて期末テスト対策の勉強会を開くんです」

「ああ、なるほどね」


 相川が何か納得したように頷いたが、俺はいまいちピンときていなかった。


「勉強会開くことと、北島の告白になんの関係があるんだよ」

「全く。何もわかっていませんね吉岡さんは。北島さんが告白に踏み切れていないのは、石田さんとの関係性がいまいち進展していないことが大きな原因なんです」

「うぐっ」


 予想外のタイミングで刺された北島が呻き声を上げる。


「さっきご自身で言っていたでしょう? 誕生日プレゼントを急に渡したら戸惑われる程度の関係性だと。3年以上時間はあったのに」

「き、桐花ちゃん! もっと手心をください!」

「そのためにお互いの関係性の進展は必須。でも石田さんの誕生日まで1週間ほどしかない上に、期末テストが迫っています」

「だから勉強会で呼び出して、北島と石田を仲良くさせるってか?」

「その通りです」


 桐花は得意げに胸を張った。


 話を聞いていた相川は感心したのか、少し前のめりになった。


「確かにそれなら自然な形で2人を接近させることができるね」

「北島さんの想い人が私たちの知る石田さんだというのも都合がいいです。我々と北島さんたち共通の知り合いである石田さんを勉強会に誘うのに不自然さはありませんから」


 今にして思えば、とんでもねえ偶然だよな。


「なら頭のいい石田くんに春香の教師役を頼もう。そうすればヘタレの春香も逃げられないでしょ」

「に、逃げないよ?」


 そう言う割に今までにやらかした覚えがあるのか、北島の目は泳いでいた。


「理想のシチュエーションですね。教師役の石田さんと教え子役の北島さん。勉強会という名目ですが、必然的にやりとりはお互いに集中します。石田さんの庇護欲を掻き立てる効果も見込めますし」

「ダメな子ほど可愛いってやつか」


 石田がダメな子に萌えるかどうかは知らんが。


「なるほど。つまり私はダメな子を演じればいいんだね」


 真剣な表情でフンスっ、と気合を入れ直す北島。


 そんな北島を相川が呆れた様子で止める。


「演じなくていい。いつも通りでいいから」

「え、でもダメな子の方がいいんでしょ?」

「あんたは最初っからダメな子だからそのままでいいんだよ」

「トモちゃん!?」


 ダメな子が友人に刺された。


「いい春香。ダメな子がダメな子を演じると、それは悲惨な子になるの」

「悲惨な子って何!?」

「あんたのダメっぷりは可愛気があるかどうか微妙なところなんだから、余計なことしないで」

「トモちゃんもしかして私のこと嫌いなの!?」


 仲良いなあの2人。そんな感想を持ちながら2人を見る。


「この勉強会のメリットはもう一つあります。それは北島さんと石田さんの仲を深めるミッションを進めつつ、この私がウチのダメな子(吉岡さん)の面倒を見れると言う点です」

「ついでとばかりに刺してくんな」

 

 だが桐花の言う通り。依頼を引き受けながら俺の赤点を回避するにはこの方法しかないだろう。


「さて、この作戦を早急に進めましょう。題して『ダメな子ほど可愛い? 憧れの彼に勉強を教えてもらいながら、庇護欲を掻き立てて一気に恋人までランクアップしちゃおう作戦!!』です」

「なっが」

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