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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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片思い中の彼

 5月の初め。


 俺と桐花が初めて出会った時に遭遇した、鬼辛赤ラーメンと拾った財布に関わる事件。


 その財布の持ち主こそ柔道部所属の1年生、石田だった。


 小柄でヒョロヒョロの体躯。


 頭皮が見えるほど短く刈り込んだ頭と、『〜っス!』なんて運動部の下っ端みたいな口調以外は柔道部らしさがまるでない奴だった。


「石田!? これ、石田か?」

「あれ? 石田くんのこと知ってるの?」

「知ってるっちゃ、知ってるが……」


 写真に映る男子が俺の知っている石田と同一人物か、まだ自信がない。


「石田って、柔道部の石田で合ってるか?」

「そうだよ」

「……まじかよ」


 まさかこんなところで石田が出てくるなんて思わなかった。


 写真の中の石田はさらさらヘアーで中性的な美少年といった様相であり、俺の知る石田とはまるで別人に見えた。


 流石の桐花も驚いた様子で目を見開いている。


「でも、確かに石田さんですよ。髪型のせいでかなり印象が変わっていますが」

「印象どころか、人相変わってんじゃねえか」


 いや、髪だけを指先で隠して見ると、確かに顔立ちは俺の記憶の中の石田と一緒だった。


 俺も一度頭を丸めたことがあるから知っているが、人は髪をバッサリ切ると桐花の言う通り印象が随分と変わる。


 頭を丸めてしばらくの間、鏡に映る自分自身に違和感を覚えたものだ。

 

 だがこの石田に関してはそんなレベルじゃなかった。


 現に記憶力に優れた桐花ですら写真の人物が石田だと気付かなかったほどだ。


「確かに、今にして思えば石田さんってかなり整った顔立ちしてましたよ。顔だけ見れば女の子みたいでしたもん」

「坊主頭のインパクトで気づかなかったってことか。あいつ丸刈りやめた方がいいんじゃねえか?」


 衝撃のあまりかなり失礼な発言をしてしまう。目の前には石田を好きだと公言している女子生徒がいると言うのに。


「北島さん的にはどうなんですか。その……石田さん高校生になってかなり髪型変わりましたけど」


 先ほど北島は、石田のことをサラサラ髪の王子様などと表現していた。

 

 今の石田はその王子様からだいぶ遠い存在になっているが、がっかりしていないだろうか?


 しかしそんな心配をよそに、北島はうっとりとした表情で目を瞑る。


「石田くん。短い髪型も良いよね。頭の形がいいから丸刈りもすごい似合ってる。もともと上品な可愛さがある顔だったのに、そこにワイルドなかっこよさが加わってもう無敵だよね」

「気づいてると思うけど。春香の目はかなり曇ってるから」


 染めた頬に手を当てる北島に、相川が冷めた視線を送る。


「ひ、ひとまず話はわかりました。北島さんは石田さんに告白したい。そのために我々相談部の力を借りたいと」

「力を借りるって、何すりゃいいんだよ」


 告白なんて結局は当人同士の問題だ。


 まさか『石田。北島がお前のこと好きなんだって。付き合っちゃえよ』なんて、小学生の茶々入れみたいな介入の仕方をするわけにもいくまい。

 

「実は石田くん、誕生日が近くて」

「ほうほう」

「ちょうど期末テストが終わる日なんだけど、その時に誕生日プレゼントを渡しながら告白したいと思ってるんだ」

「いいじゃないですか! 素敵です!!」


 まあ、ベタではあるが告白の仕方としては悪くない。


「でもね、その、どうやってプレゼント渡せばいいかな? って」

「どうって。そんなの普通にどっか適当なところに呼び出して、手渡しすればいいだろ?」

 

 それ以外に方法があるか?


 首を傾げる俺に、相川がため息をつきながら補足した。


「たとえば吉岡くんが同じクラスで毎日挨拶はするし、たまに会話したりするけど一緒に遊んだことはない女子から、いきなり呼び出されて誕生日プレゼントを渡されたら、結構戸惑わない?」

「あーなるほど。そう言うことか。それも告白つきで」


 まあ、俺にはクラスにそれくらいの仲の女子がいるかどうかすら微妙なところだが。


「いや、ちょっと待て。石田とは中学3年間クラスが一緒だったんだろ? それでずっと片思いしてたのに、まだその程度の距離感なのかよ!?」

「そうよ」

「トモちゃん!?」


 相川は言い切った。


「ここにいる北島春香は長年の間チャンスは山ほどあったのに、全くと言っていいほど関係を進展させることができなかったヘタレ女よ」

「トモちゃん! 本当のことを言われると傷つくからやめてよ!!」


 北島はなんとも情けない叫び声を上げた。


「と、ともかく! どうやてプレゼントを渡して告白すればいいのか考えて欲しいの。具体的には誕生日プレゼントを渡しても違和感がない関係性にステップアップしつつ、私が石田くんに告白できるよう、2人っきりのシチュエーションを作り出す方法を検討してください!」

「いや無茶だろ」


 石田の誕生日である期末テスト終了日まであと1週間しかない。


「中学の3年間で何も進展しなかったあんたを、たった1週間でどうやって石田との仲を深めさせりゃいいんだよ?」

「その通りよ春香。あんたにそんな甲斐性あるわけないでしょ」

「第一、何度も言うがテスト期間だぞ? 俺たちだけじゃなくて、石田もテスト勉強してるだろうに」

「人が必死に勉学に励んでるのに1人色ボケして。あんたそんなに成績良くないんだから大人しく勉強しな」

「トモちゃんはさっきからなんで私を刺してくるの!?」


 北島が涙目で抗議してきた。


「お願い! どうしても石田くんと夏休み前にお付き合いしたいの! 2人っきりで海とか、夏祭りとか、旅行とかに出かけたいの! 海で私の水着姿を誉めてもらいたいし、石田くんの裸も見てみたい! 夏祭りの花火ラストでファーストキスもしたいし、旅行では温泉宿でお泊まりもしてみたいの!」

「……なんか、こういう女子の赤裸々な欲望を聞くと、思ったよりきついな」

「ごめんね。普段からしてる妄想が弾けちゃってるみたい」


 俺と相川が2人でげんなりしていると、隣に座る桐花が立ち上がった。


「……素晴らしい」

 

 そう言って北島の手をとる。


「素晴らしいですよ北島さん! どこまでも自分本位な欲望、どんなことよりも優先される恋心! テストの成績なんてお構いなし。大事なのは自身の恋の行方! やはり恋する女の子はこうあるべきです!」

「き、桐花ちゃん! わかってくれるんだ!」

「……あれ誉めてないよね?」

「あいつの中じゃ最大級の賛辞だ」 


 桐花と北島はがっしりとお互いの手を握りしめる。


「必ずや私が北島さんの恋を成就させて見せます! ええ、その依頼相談部が引き受けます!!」

「……俺の夏休み終わった」


 こうなった桐花は止められない。これから1週間桐花はこの依頼にかかりきりになるだろう。


 と言う事はつまり、俺の勉強を見てくれる相手がいなくなり、俺の赤点が確定したということだ。


 そう思って肩を落とすが、桐花は俺に向き直って声をかけてきた。


「何言ってるんですか吉岡さん。私、相談部ですごす夏休みを諦めてませんよ」

「え?」


 桐花の言っていることが一瞬理解できず、間抜けな声をあげてしまった。


 そんな俺に対して、桐花はいつも通り不敵な笑顔を浮かべる。


「私の秘策をご覧にいれましょう」

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