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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第8章 恋と友情とテスト勉強
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第8章プロローグ 吉岡アツシ、勉強中

 7月。


 暦の上ではすっかり夏である。


 晴嵐学園においては後2週間ほどで夏休みが始まる。


 友達と遊ぶ計画を立てる生徒。夏の大会に向けて一層練習に励む運動部。


 来たる夏休みを前に学園全体がにわかに活気づき、浮かれているように感じるのは気のせいではないだろう。


 しかし俺はそんな喧騒から遠く、高校生活初めての夏休みの訪れを楽しみに待つことなんてできていなかった。


 理由はいくつか。


 まず一つ。梅雨が終わっていないこと。

 

 6月の下旬から降り続けている雨は、月を跨いでも止むことはなかった。


 夏と言えば、雲一つなく晴れ渡る青空だろう。


 そう考えている俺にとって、部室の窓から見える灰色の空はどうやっても夏の訪れを感じさせてくれない。


 夏らしさはないのに上がり続ける気温と、雨による湿気が不快でしょうがなかった。


「予報では、後1週間もすれば止むそうですよ」

 

 スマホで天気予報でも調べたのだろう。桐花が下敷きで顔を仰ぎながらそう言った。


「1週間後か」


 1週間後には、梅雨が明けてこの蒸し暑さもマシになるのだろうか?


 しかし俺は梅雨への嫌悪感を持ちながらも、このまま梅雨が明けないでほしいとも思っていた。


 だってそうだろう?

 

 梅雨が明けるまで後1週間。


 夏休みまで後2週間。


 ちょうど梅雨が明けるころに訪れる高校生にとって重要なイベント。


 夏休みを前にこのまま時よ止まれ、と本気で俺が思うようになっている最大の原因。



 期末テストである。



「もう……勉強したくない」


 桐花と2人きりの部室で、俺は教科書を押しつぶすように突っ伏した。


 そんな俺を見て、桐花はため息をつきながら丸めたノートを使って人の頭をペシペシと叩く。


「泣き言なんかこぼしてないで、一個でも多く英単語覚えてください」

「だってよう桐花。覚えなきゃいけない英単語が、こんなにっ!」

「普段から覚える努力をしてればそこまで苦労しないんですよ」


 当然。覚えなきゃいけないのは英単語だけではない。


「しっかりしてくださいよ吉岡さん。一個でも赤点取ったら夏休みに補習が入るんでしょ?」


 中間テストでは赤点を取っても追試に合格することで補修を免れた。


 しかしどういうシステムなのか、期末テストで赤点を取った生徒は夏休みの間に補習をみっちり受けさせられ、その後追試に合格しなければならないのだ。


「相談部で夏休みの予定しっかり立てたんですから。補習で潰すようなことしないでくださいね」


 俺にとっては不思議なことに、今年の夏休みは忙しくなりそうだった。


 俺と桐花だけではなく、他の部員である樹や秋野たちとも遊ぶ予定を事前に組んである。


 遊ぶ予定を立てる時は楽しかった。みんなでどこに行こうか話し合っている時は夏休みが待ち遠しくて仕方がなかった。


 だが今は、どこまでもどんよりと落ち込んだ気分だった。

 

「もう無理だ。夏休みは俺抜きで楽しんでくれ」


 期末テストを目前に控えさすがの俺もテスト勉強を始めたのだが、全くわからなかった。


 何がわかっていないのか、それすらわからなかった。


 試しに桐花が作った小テストを受けてみたところ、散々たる結果だった。


「確かにこのままじゃ、補習一直線ですね」


 小テストの結果を険しい表情で眺めながら、桐花は残酷に告げる。


 しかしその後、ニヤリと笑ってこう言ったのだ。


「でもそれは吉岡さんが1人で勉強した場合の話。私が付きっきりで勉強を教えれば赤点を免れることも可能です」

「本当かっ!」


 なんとも頼もしい言葉。俺は桐花の顔を仰ぐ。


「ええもちろん。補習寸前の哀れな吉岡さんを救うために、私は存在するのですから」


 ……。


 言ってることはアレだが、頼もしいことには違いないだろう。


「ただし、私が勉強を教えても結構ギリギリです。期末テストまで勉強漬けの日々になることを覚悟してくださいね」

「ああ、わかった」

「よろしい。じゃあ放課後は部室に集合ということで。テスト期間中は部活禁止ですが、部室を使うことぐらいは問題ないでしょう」


 そんな話をした直後のこと。


 さて、勉強に取り掛かるかと、気合いを入れ直している最中にコンコンとノックの音が響く。


 俺と桐花は思わず顔を見合わせた。


「はい、どうぞ」


 中に入ってきたのは2人の女子生徒。

 

 1人はオドオドした様子の女子。毛先に緩やかなパーマがかかっていて、全体的にどこかフワフワした印象を与えてくる。


 もう1人はボーイッシュに思えるほど髪の短い女子。切れ長でクールな目元と合わさって、シュッとした印象だ。


 対照的に見える2人は、桐花に促されて俺たちの対面に座る。


「えっと、どういったご用件で」


 桐花がそう切り出すが、フワフワした印象の女子は言い辛そうな様子のまま口を開かない。


 それを見たシュッとした印象の女子が肘でつっつく。


「ほら春香。さっさとお願いしたら」

「で、でもトモちゃん」

「テスト勉強したいのに私まで巻き込んで。モタモタしてると私帰るからね」

「そんな! 私を一人にしないでよ!」


 何やら揉めているようだが、この様子だと俺たちに何か依頼があるようだ。


「おい、桐花」


 2人に聞こえないよう、声を落として桐花に話しかける。


「お前、頼むから断れよ」

「そうですねえ。流石にテスト期間中に依頼を受けるとなると、吉岡さんの勉強が間に合いそうにないです」


 同じく声を顰めた桐花が耳打ちしてくる。


 少し前の心霊現象騒ぎで、相談部の知名度は爆発的に上がった。(当然、桐花は不服そうだった)


 依頼人が増えることは歓迎すべきことかもしれないが、いくらなんでも時期が悪すぎる。


 ここで依頼なんて受けたら勉強どころではない。俺1人が勉強に集中したとしても、肝心の桐花の教えがなければテストは絶望的だ。


「よほど緊急の依頼でもない限りお断りしましょう。テストが終わってからということで」

「助かる」


 今までどんな依頼も受けてきた桐花だが、今回ばかりは俺を優先してくれるようだ。依頼に来たであろう2人には悪いがありがたい。


 そして、俺と桐花が話している間ずっと目の前で揉めていた2人もようやく落ち着いた。


「そ、相談部のお二人にお願いがあります」


 まっすぐ真剣な目でこちらを見つめてくる女子。


「はい。なんでしょう」


 少し心苦しそうな表情を浮かべて、桐花も姿勢を正す。


 その表情の理由は申し訳なさだろう。この女子生徒にとって重要かもしれない依頼を断らなければならないのだから。


 女子生徒は数回深呼吸。そして、覚悟を決めた表情で依頼を口にする。



「好きな男の子に告白したいので協力してください!」

「喜んでお手伝いしますともっ!!」

「桐花っ!!!!」

更新が遅くなり申し訳ありません。

第8章完結まで毎日更新します。

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