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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第7章 永遠に続く日々の怪談を
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怪談まとめ

 あれから数日かけてこの学園に流れている怪談の噂を調べ尽くした。


「ひとまず、まとめましょうか」


 そして俺たちは相談部の部室に集まり、これまで集めた情報の整理をしていた。


 百目鬼先輩が部室に置かれているホワイトボードに集めた怪談の情報をまとめる。


『ガイコツ先生』

 旧理科準備室のガイコツが昼休みに授業の準備をしている。


『三つ目のマネキン』

 被服室のマネキンが午前中に力を貯め、額に第3の目を出現させている。


『隙間女』 

 亡くなった司書が図書室の本の隙間から午後の授業をサボっている生徒を監視している。


『男子更衣室から聞こえるエリーゼのために』

 男子更衣室で亡くなった少年が深夜エリーゼのためにを弾いている。


『願いを叶える猿の手』

 オカ研の三浦が放課後行っている占いは、この猿の手から力を借りたものである。


『涙を流す石膏像』

 美術室にある石膏像は朝、喪った恋人を思い涙を流す。


『禁制品リスト』

 校則がゆるく、持ち込みに制限がないこの学園に絶対持ってきてはいけない物品をまとめたリストを職員室が管理している。

 持ち込んでいけない理由は、放課後まで所持していると不幸を呼ぶためである。


『赤く染まる水』

 放課後の旧校舎の蛇口から流れる水は赤い。貯水タンクの中で死んだ人間が流す血が混じっているからである。


『廊下を彷徨う人魂』

 深夜。誰もいないはずの学校の廊下を人魂が照らしている。かつて墓場だった土地に学校が建てられたため、魂が彷徨っている。


『幻の教室』

 昼休みにだけ現れる幻の教室が存在する。それは次元の重なりによって発生する現象である。



「……多いな」


 全部で10個か。これだけの怪談を調査するのには骨が折れた。


「ふむ。実際に調べてみるとその正体はどれもこれも種があるものでしたね」


 やはりと言うべきか、本物の怪異なんて存在せずその正体はなんて事のないものばかりだった。


「……桐花さんがズバズバ正体を暴いてくものだから、記事が書きづらいったらないわ」

「か、怪談の正体を知ってるのに、そ、その恐ろしさを伝えるって結構大変なんだぞ?」

「いやまあ、こいつを連れて歩く時点でこうなることは覚悟してたでしょう?」


 そもそも彼らの真の目的は単に怪談の記事を書くことだけじゃないはずだ。


「調査を進める中で確信しましした。怪談の噂を広め、意図的にこの学園でオカルトブームを作り出した黒幕は存在します」


 この黒幕の正体を知ることこそが、マスメディア部の本懐なのだ。


「今回の調査で調べた怪談、つまり噂話として多くの生徒に広まっている怪談は全て何かしらの種がありました。百目鬼先輩の提唱した百目鬼メソッドでいう『リアリティ』の部分ですね」

「ど、百目鬼メソッドって……」


 噂話に信憑性を持たせるための『リアリティ』が全ての怪談に備わっていた。


「このリアリティですが大きく分けて2種類あります。元から存在するタイプのリアリティと、トリックによるリアリティ」


 例えば元から存在するリアリティの場合、『ガイコツ先生』や『願いを叶える猿の手』などがそれに該当する。


 要するに昼休みに旧理科準備室で食事をとる先生や、卒業した先輩から引き継いだゴム製の猿の手なんかに尾鰭がつきまくって怪談となってしまったパターンだ。


 そしてもう一つのリアリティは、誰かが怪談を広めるためにトリックを仕込んだパターンである。


「注目すべきはトリックが仕込まれたパターンですね。『三つ目のマネキン』『隙間女』『男子更衣室から聞こえるエリーゼのために』なんかは間違いなくそのパターンでしょう」

 

 油性ペンを使った落書き、本の隙間の鏡、アラームで曲が流れるようになっていたスマホなど。明らかに誰かの手が加わっている怪談が存在した。そして、その誰かこそがこの学園でオカルトブームを広めた黒幕ということになるのだろう。


「黒幕はこの2種類のリアリティを使い分け、それぞれストーリー性……百目鬼メソッドの『フィクション』を追加することで怪談を広めたわけです」

「よくもまあこれだけの怪談を広められたよな。しかも噂の発信源だとわからないように」


 今回調査した怪談の全て、その発信源がわからなかった。


 噂話を聞いたことがある生徒に聞き込みを行ったが、みんな口を揃えて『誰かから聞いたんだけど、その誰かがわからない』と答えたのだ。

 

 黒幕はよほど上手く立ち回って噂話を広めていったのだろう。


「そこが問題なのよね。怪談を調査していけば黒幕の正体がわかると踏んでいたのに、その尻尾すら掴ませないなんてやるわね」


 神楽坂先輩は悔しそうな表情で黒幕を称賛している。


 実際黒幕の正体に繋がるような情報は何もなかった。現に桐花ですら難しい顔で悩んでいる。


 すると、ここまで無言でホワイトボードを見つめていた三浦がポツリと呟いた。

 

「幻の教室……これ先輩っぽくない」

「へ?」

「これだけちょっとSFっぽい。百目鬼先輩の好みじゃない」


 三浦のよくわからない発言に疑問符を浮かべていると、神楽坂先輩が驚いたような声を上げた。


「すごい三浦さん、よくわかったわね! そうなの、実はそれ私が選んだものなの」

「選んだ?」

「学園で流れている怪談はこれだけじゃなくて、全部調査するには時間がないからいくつか絞って選別したの。ほとんどは百目鬼が選んだ怪談だけど、いくつかは私が選んだのよ」

「……ちなみにどれを選んだんですか?」

「これとこれよ」


 そう言って神楽坂先輩はホワイトボードに印をつける。


『願いを叶える猿の手』

『涙を流す石膏像』

『赤く染まる水』

『廊下を彷徨う人魂』

『幻の教室』


「百目鬼ったらひどいのよ? 私が選んだものをセンスがないなんて言って却下しようとしてきたのよ」

「ど、どれもこれもありきたりだ。目新しさのない怪談なんて、お、面白くない」


 百目鬼先輩がバツの悪そうな顔でそんな発言をする。


「でも記事にするにはある程度の数がなきゃ。実際百目鬼が最初に選んだ怪談はいくつかボツになったでしょう?」

「ん? ボツになった怪談があるんすか?」


 なんでボツになったんだ?


 そんな疑問を浮かべると、少し恨みがましい目を百目鬼先輩に向けられる。


「き、君たちが受けた心霊相談で正体が分かった怪談だよ」

「あー、なるほど」


 正体がわかれば怪談の噂は沈静化する。


 そうなれば記事を書いても白けるだけになってしまうということなんだろう。


「一応、私たちが解決した怪談も書いておきますか。黒幕が広めたことには変わりないでしょうし」


『鬼門から聞こえる唸り声』

 放課後、北東から唸り声が聞こえてくる。その唸り声は責苦を受けている地獄の亡者の悲鳴である。


『水面に映る幻影』

 午後の授業中、教室の窓から見える学園のプールの水面に奇妙な幻影が映っていたのを目撃した生徒が多発。それはあの世の光景とされている。


『すみっこの妖精』

 教室にはは妖精が住んでいて、視界のはしでたまに影が映る。妖精はいたずら好きなため、午後の睡魔に負けて居眠りをするといたずらされる。


『兄弟机』

 放課後、誰もいない教室に置かれているとある机に落書きをすると、学園のどこかの机に同じ落書きが浮かび上がる。その二つの机は同じ木で作られた兄弟机である。


「こんなところですね」


 正体を解き明かした桐花が胸を張りながら披露する。


 実際の正体はどれも大したことのない偶然の産物か、明らかに誰かの悪ふざけであった。


 だが今になって思えば、それも黒幕が仕込んだことなのだろう。


「これらが元々百目鬼先輩が記事にしようと選んだものだと?」

「そうそう。だけど相談部が謎を解き明かしたものだから、慌てて別の怪談を持ってきたのよ。で、新しく選んだ怪談もまた正体を暴かれて……何回かそんなことを繰り返したものだから相談部に依頼するのもちょっと遅れたわ」

「……そうですか」

 

 そう言って桐花は口元に手を当てて考え込む。


 そうやってホワイトボードを真剣な表情で睨んでいたため、俺たちも自然と口を閉ざして沈黙を守った。


 しばらくすると、三浦が思い出したように声を上げる。


「先輩、マスメディア部にも怪談があるって聞いたけど」

「え、え? なんで知ってるの?」

「マスメディア部にもクライアントはいるから」


 百目鬼先輩が狼狽える。


「マスメディア部の怪談ってなんですか?」

「え、えっと。うちの部に代々伝わる怪談なんだけど……」

「『奇怪日誌』ね。あるマスメディア部の部員が朝早く部室に訪れた時に見つけたもので、これまで学園で起きた怪談と()()()()起きる怪談が書かれていたって。見つけた生徒はその日誌を使って怪談を調査したって話よ」


 なるほど。マスメディア部らしい怪談だ。


「まさか……その日誌を?」

「それこそまさかよ。ちょっと探してみたんだけどそんなものなかったわ」

「う、うちの部だけに知られている怪談で、学園全体に広まっているわけでもないから候補から外したんだ」


 その瞬間だった。


 桐花がガバリと立ち上がり、ホワイトボードを凝視した。


「……え?」


 目を見開いて驚愕の声を上げる。


 視線がホワイトボードに書かれた怪談を何回も行き来する。


「……は?」


 そしてなぜか、眉間に皺を寄せて不機嫌そうな声を出した。


 不可解な反応だった。


 だが、それなりの付き合いの俺には、桐花が真相を悟ったのだと分かった。


 そして神楽坂先輩も桐花の反応を見逃さなかった。


「桐花さん。何かわかったの?」

「え、いや……その」

「黒幕がわかったのね!」


 興奮気味に桐花に詰め寄る。


 桐花は目を輝かせる神楽坂先輩から視線を逸らし、観念したように呟いた。


「……わかりましたよ。黒幕の正体が」

皆様にお願いがあります。

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ご検討いただきますよう、お願いします。

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