願いを叶える猿の手
「こ、ここが晴嵐学園のオカルト研究部なのか」
俺たちは三浦が普段根城にしていオカ研の部室に訪れていた。
中学時代は三浦と同じオカ研だった百目鬼先輩がどこか懐かしそうな目で部屋を見渡している。
「なんか、思ってたより普通だな」
同じ部室練にあるだけあって、部屋の雰囲気は相談部のものとそう変わりはない。何となく壁が暗幕に覆われていたり、部屋の真ん中に怪しい水晶が乗った机があるようなイメージを持っていたのだが、思ったより普通だった。
……まあ、本棚に『黒魔術』なんてタイトルの本があったりするのだが。
「それで三浦さん。本当にあるの?」
神楽坂先輩がワクワクした表情で問いかける。
そう、今回の怪談はオカ研に関するものなのだ。
『願いを叶える猿の手』
元々はイギリスのホラー小説に出てくる怪異らしい。
「そ、その名の通り願いを叶えてくれる猿の手のミイラの話なんだ。で、でも願いを叶えるには代償が必要で、猿の手に願いを叶えてもらった夫婦は結局息子を失ってしまう」
「不幸を呼ぶ猿の手のミイラ。怪談としては結構メジャーな存在らしくてね、その小説が発表されて以降様々な形で物語に登場するの」
マスメディア部の二人がそんな話を教えてくれた。
そしてその猿の手をなんとオカ研が所有しているらしい。
「オカ研の三浦琴。彼女が放課後に行う恋占いがよく当たるのは、その猿の手から霊力を得ているから。そんな噂が立っているのよ」
元々今回の怪談調査では三浦にそのことを取材する予定だったらしく、三浦が調査に同行した時は神楽坂先輩からすれば棚からぼたもちといった心境だったそうだ。
「それでどうなの? 本当に猿の手があって、その力で占いをしているの?」
神楽坂先輩がグイグイ詰め寄る。
三浦の占いの評判は前に言った通り。マスメディア部からしても元から三浦は注目の的だったのだろう。
そんな三浦の力の正体が判明するかもしれないとなって、神楽坂先輩のジャーナリズムに火がついている。
熱を帯びた神楽坂先輩を半ば無視するように、三浦は無言のまま部屋の棚から箱のようなものを取り出す。
そして俺たちが囲う机の上に置いた。
「……私が入部した時、部室にこれがあった」
そう言って箱を開ける。
「これが噂されてる猿の手」
箱の中に手の形をした何かが。
黒く、干からびたそれは人のモノよりも少し小さい。指は異様に長く節くれだっている。
明らかに異形のものだとわかるそれに部屋にいた全員が息を呑む。
「ん?」
しかし俺はここで気づいた、場違いなものが存在することに。
「なんか……値札貼ってねえか?」
手の甲の部分に『¥1700』という赤いシールが貼ってある。
というか、よく見れば全体的に何か作り物っぽさがある。指と手の繋ぎ目に接着したような跡が見えるのは気のせいだろうか?
「これゴム製」
三浦の一言にみんな唖然としている中、桐花が躊躇することなく猿の手に触れる。
「……本当です。これゴムでできた作り物です」
「じゃ、じゃあ猿の手は偽物?」
「多分どこかのお土産物屋で売ってたジョークグッズ」
あっさりとした三浦の物言いに力が抜ける。
「私が入学する前の先輩が買ってきたものだと思う。芯の部分に金属が使われてて、捨て方がわかんないからそのまま置いてある」
「……捨てる気だったのかよ」
いやまあ、こんな悪趣味な物いらねえだろうけど。
「何だ。結局三浦さんの力の源が猿の手っていう噂は嘘だったのね」
「ということは三浦の占いの力、霊感だの霊力は自前ってことか」
「……何言ってるの?」
俺の言葉に三浦は不思議そうな表情を浮かべる。
「私、霊感なんて持ってないけど?」
「へ?」
またしても唖然とさせられる。
「占いなんて、結構適当に言ってる」
「い、いやでも、現に俺に女難の相が出てるって言い当てたじゃねえか」
「そんなの……」
チラリと桐花に視線を送る。
「あの桐花咲と一緒にいる時点で、女難に見舞われていないわけがない」
「た、確かに!」
「それどういう意味ですか!!」
文句一つつけられない正論だった。
「私、人を見る目には自信がある。少し喋れば性格とかが何となくわかる。それを踏まえた上でアドバイスをしてあげているだけ」
つまりオカルト的な力に頼らず、自前の観察力で相手の人となりを知って、その上で評判になるほど適切なアドバイスを行なったと?
「それ、普通に霊感があるよりすごくねえか?」
「……吉岡さんなんでこっち見るんですか?」
同じように観察力のある桐花じゃこうはいかない。さすが恋愛マイスターと呼ばれるだけある。
「最初はクラスの子にアドバイスしたことがきっかけ。別にそんなつもりはなかったけど、私がオカ研の部長だから気がついたら占いができるってことになってた」
小さくため息をつく。
「おかげで最近は恋愛相談が多くてうんざりしている」
「なんて贅沢なことをっ!!」
三浦の余計な一言に、案の定桐花が激怒した。
「私が、私がどれだけ恋愛相談を受けることを待ち望んでいると! それを独り占めしてよくそんなことが言えますね!!」
「いやだから、独り占めって表現はおかしいって」
お前はそもそも恋愛相談の選択肢として除外されているのだ。
「恋愛相談多くてうんざりですって! いいですか? 恋は人を幸せにするんです! つまり、恋愛相談を受けるということは幸せのお裾分けをーー」
「落ち着け」
「ぐええっ!」
桐花の襟元を後ろから掴んで引っ張る。
自重すると決めたばかりなのだが、これ以上効果的に桐花を止める手段が思いつかなかったので仕方がない。
喉を抑えてむせている桐花を横目に質問する。
「えーっと三浦。話を戻すが、霊感とかそう言ったものは一切持ち合わせてないと?」
「うん。幽霊なんて見たことがない」
「……それなのにオカルト好きなんだな?」
意外な気分だった。
「それを言ったら、世の中オカルト好きの数だけ霊感を持ってる人がいることになるけど?」
「いやまあ、それはそうなんだが」
「人は生まれながらにして知ることを欲する生き物。未知のものは恐怖。知らないということは怖い。だけどそれ以上に惹かれ、知りたいと思うのが人」
三浦は視線を百目鬼先輩に送る。
「私にとっての未知はオカルト。だから私はオカルトが知りたい」
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