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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第7章 永遠に続く日々の怪談を
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男子更衣室から聞こえるエリーゼのために

『男子更衣室から聞こえるエリーゼのために』


 それが次に調査することになった怪談の名だ。


 内容としてはその名の通り、深夜の学校にて誰もいないはずの男子更衣室からエリーゼのためにが聞こえてくる。と言ったもの。


 男子更衣室の前に集まった俺たちはその怪談の詳細について説明を受けていた。


「エリーゼのためにってなんだ?」

「ピアノの曲ですね、ベートーベンが作曲した。なぜ数ある曲の中からそれが選ばれたのかは知りませんが」

「む、昔学校の怪談をテーマにしたアニメの中にそういう怪談があったんだ」

「見たことある。その曲を3回最後まで聴くと死んでしまうって内容」

「さすが……詳しいわね、二人とも」


 スマホでその曲を聴かせてもらったところ、なるほど怪談であるという前情報があるせいかかなり不気味な曲に聞こえた。


「アニメだと誰もいない音楽室から聞こえるって話だったけど、今回はなぜか男子更衣室」

 

 確かに男子更衣室からピアノの曲って意味不明だな。そう思っていると百目鬼先輩の解説が入った。


「む、昔。とてもピアノが得意な男子生徒がいたんだけど、体が弱いいじめられっ子だったらしくて、あ、ある日一晩中男子更衣室に閉じ込められて、その時発作か何かでそのまま死んじゃったんだって」

「つまり、その男子生徒がいじめっ子たちを憎んで呪いのエリーゼのためにを引いてると?」

「う、うん。そうらしいよ」


 かなり重い話に思わず唾気を飲み込んでしまう。

 

 だが、神楽坂先輩が軽い口調で補足した。


「先に言っておくけどこの話デマよ。学園の記録を片っ端から調べたけど、そんな事件なかったわ」

「な、なんだ……嘘っぱちかよ」


 ちなみに、晴嵐学園は学校自体が広い上、あらゆる部活動が乱立しているため男子更衣室といっても複数ある。


 その中で怪談の噂が流れている男子更衣室は授業で使われる体育館に一番近い更衣室。つまり俺も普段着替えのために使っている更衣室だった。


「……なぜこんな噂が流れたのでしょう? 深夜の学校なんて誰もいないはずなのに。大元となる死んだ男子生徒が嘘である以上、()()にこの更衣室から深夜エリーゼのためにが流れているのを聞いた人物がいなければ噂なんて流れません。一体誰が聞いたのでしょうか?」

「ああ、それに関しては確かな証言があるの」


 桐花の疑問に神楽坂先輩がなんて事のないように回答した。


「天文部よ。彼らは真夜中に活動してるから」

「……ああ、そんなのもいたな」


 懐かしい部活名だ。


「つまり天文部がその怪談に遭遇したと?」

「ええ。部活が終わってさあ帰ろう、って時に通りがかった更衣室の中からくぐもった音だったけど確かにエリーゼのためにが流れてたって」

「な、中には誰もいなかったそうだ」

「で、怖くなって逃げ帰ったそうよ」


 そう聞くと俄然この男子更衣室から怪しい雰囲気を感じるようになってきた。


「さて、吉岡さん。中を調べてください」

「また俺かよ!?」

「仕方ないでしょう? 男子更衣室なんだから」


 もっともらしい事を言ってくるが俺は騙されない。


「中には誰もいないんだから別にいいじゃねえか! というかお前なら中で男子が着替えてようが遠慮なしで入ってくるだろ!?」

「花も恥じらう乙女がそんなことするわけないでしょう?」

「そんなしおらしい女じゃねえだろ! さてはお前、俺に嫌がらせして楽しんでるな?」

「はて、なんのことでしょう?」


 わざとらしく首を傾げる。


「つーか、曲が流れるのは真夜中なんだろ? 放課後の今探しても無意味じゃねえか」

「何いってるんですか。本当に幽霊が曲を弾いてるとでも?」

「あ?」

「音源があるに決まってるじゃないですか」


 桐花の言う通りだった。


 探す、なんて大袈裟な表現を使うまでもなく更衣室の隅にあるロッカーの上、何やら汚らしいタオルに包まれて旧式のスマートホンが置かれているのを発見した。


 中を確認すれば夜8時にアラームが設定されていて、時間をずらしてアラームを起動したところエリーゼのためにが流れた。


「ふむ。SIMカードが抜かれています。お古のスマホを利用した感じですね。汚れたタオルは誰にも触られないようにするためと、音があまり通らないようにするための工夫みたいです」


 しかも電池切れを起こさないためにか、ご丁寧にモバイルバッテリーが繋がれていた。


「……ほぼ確定していいでしょう」


 スマホをじっくりと観察していた桐花がそう呟いた。


「ここまで念入りに怪談の()()()が仕込まれていて、尚且つ詳細な噂話が流れている。そうやってオカルトブームを意図的に作り上げた黒幕がいます」


 とうとう桐花が実在が不確かだった黒幕の存在を認めた。


 しかしーー


「怪談の噂は結構な数あるぞ。一つ二つならともかく、そんなにたくさんの噂話広められるか?」


 俺たち相談部が今までに解決してきた怪談と、これから調査予定のものを合わせるとかなりの数に登る。


 それだけの噂話をどうやって広めたというのだろうか?


 そんな俺の疑問に答えたのは三浦だった。


「先輩、中学の時怪談の広め方について話してくれたでしょ。フィクションとリアリティの話」

「あ、ああ。懐かしいな」

「フィクションとリアリティ?」

「う、うん」


 三浦から引き継いで百目鬼先輩が語り出す。


「あ、ある家について怪談を広めようとする。た、例えばだけど『住んだ人が死ぬ家』とか。でも、これだけじゃ噂は広がらない」

「なぜです?」

「お、面白くないから」


 桐花の疑問への返答は意外なものだった。


「か、怪談ってのは結局エンタメなんだよ。噂話として流れるのも、会話のネタとして最適だから。だ、だから怪談を広めるには面白くなきゃいけない。そのために必要なのがまずフィクション」


 百目鬼先輩の解説は続く。


「フィ、フィクションてのは要するにストーリー性のこと。さっきの『住んだ人が死ぬ家』の例だと、そ、そうだな『その家で昔強盗殺人があって、殺された一家がまだその家に執着しているため住んだ人を呪い殺している』こ、こんなストーリーを作れば、ちょっと面白いだろ?」


 確かに不謹慎だが興味を惹かれる内容ではある。


 現に桐花も人が死んだりするミステリー小説が好きなのだ。自分には無関係な対岸の火事でいられるうちはそんな悲劇もエンタメになるということだろう。それも作り話ならなおさら。


「で、でもこれだけだとまだ噂話として広がるには足りない。荒唐無稽すぎると『そんな話デタラメでしょ?』って萎えちゃうから」

「まあ確かに『その家ではすでに100人死んでる』なんて言われても笑っちゃいますね」

「だ、だろ? だからリアリティが必要なんだ」

「……ああ、なるほど」


 桐花が納得した表情を見せた。


「さ、さっきの家で実際に住んだ人が亡くなったとする。それは老衰だったり、ただの病気だったりで呪いなんかとは全く無関係でもいい。で、でもその家で人が死んだという事実があれば『住んだ人が死ぬ家』っていう怪談の現実味がます」

「それがリアリティ」

「そ、そう。怪談は面白いと同時に、現実味がないとダメなんだ。もしかしたら本当にあるのかもしれない。身近にいるかもしれない。そ、そんな怖さに人は惹かれるんだ」


 説得力のある話だった。


 実際に『三つ目のマネキン』を調査していた時、被服部の女子生徒は怖いと言いながらも興奮を隠せていなかった。それはやはり恐怖心を持ちながらも、その怪談を面白いと感じていたからに違いない。


「今回の『男子更衣室から聞こえるエリーゼのために』だと、死んだ男子生徒がエリーゼのためにを弾いているという『フィクション』と、曲が流れるような仕掛けの『リアリティ』がありましたね」


 他の怪談もそう。思い返せばどの怪談も『フィクション』と『リアリティ』があった。


 つまり黒幕はその二つを巧みに使いこなすことで、効率的に怪談を広めたということなのだろう。


「一体誰が? 何のために?」


 口に手を当てた桐花がそう呟いた。


 

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