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恋に恋せよ恋愛探偵!  作者: ツネ吉
第7章 永遠に続く日々の怪談を
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三つ目のマネキン

 2つ目の怪談は同じく旧校舎の被服室にあった。


 被服室は広く、大きな机がいくつも並んでおり、壁の棚には最新の電動ミシンから木と鉄でできた骨董品のようなミシンが何台も収められていた。


「職業訓練校だった頃の名残ね。今でこそ家庭科の実習か部活でしか使われていないけど、かつての晴嵐高校ではこの教室で多くの生徒が学んでいたそうよ」


 そんな被服室では被服部の部員たちがそれぞれ作業を行なっている。設備が充実しているせいか部員はかなり多い。


「えっと、マスメディア部と、そ、相談部ですよね? 被服部の部長やらせてもらってます」


 事前に神楽坂先輩から取材の申し込みがあったらしく、女子部員が3人オドオドしながら近づいてきた。


「はい。伝えていた通り、被服部の皆さんが遭遇した怪談についてお聞きしたいのですが」

「わかりました。こっちです」


 丁寧な口調で取材する神楽坂先輩を促すように、被服部の女子生徒は部屋から出た。


 被服部前の廊下には服を着せられたマネキンがいくつか並んでいた。


「私たちの作品です。部活で作った衣装を他の人にも見てもらいたくて、こうやって飾っているんです」


 問題の怪談はそのマネキンの一体。並んだマネキンの中に、一つだけ紛れるように異質なものがあった。


「なんだこれ、額に目ん玉?」


 白くのっぺりとしたマネキンの顔、その額に当たる部分に黒のマジックで目玉の模様が描かれていた。


「ずっと前からこうなんです。何度消しても、翌日の昼にここに来るともう描かれていて。キリがないから今はもうそういうデザインだって受け入れてるんです」


 被服部が作った衣装はかなり独特で間違っても日常的に着るものではない。それを考えればなるほど、確かに額の目も前衛的なデザインに見えなくもない。


「犯人はわからずじまいなんですか?」


 桐花が尋ねるが、女子生徒は首を横に振る。


「探すのもめんどくさくてね。午前中のどこかの時間を使って落書きしてるんだと思うんだけど。ほら、旧校舎の被服室(ここ)って教室から遠いじゃん?」


 それもそうだ。休み時間の度にここまできて張り込みをするのにどれだけ労力を割かれるのか。被害らしい被害もないのであれば本腰を入れて犯人探しなどしないだろう。


「私が入学した時からずっとこうでしたからね。慣れちゃいましたよ」


 女子生徒の一人が笑いながらそんなことを言う。


「でも、最近になって妙な話を聞くようになりましてね」


 少しだけ声をひそめ、囁くように顔を寄せる。


「額の目は通称第三の目って言われてるらしくてですね、普通の目では見えないものを見ることができるんだそうです」

「う、うん。サードアイってやつだね」


 百目鬼先輩が解説を挟む。


「マネキンって当然ですけど目がないじゃないですか。目がないから物を見ることができないマネキンが、それでも周囲の様子を見たいと願い続けた結果、この三つ目のマネキンになったんですって」

「三つ目のマネキン、ですか」

「例え目を消しても午前中に力を溜めてまた作り出す。このマネキンは私たちが部活をしている様子を、その第3の目を使ってじっと見てるらしいです。怖いですよね?」


 怖いですよね? なんて言いながらも、被服部の女子生徒が怪談を語る様子は興奮気味で、どこか熱に浮かされているように見えた。


「……その話って誰から聞いたんですか?」


 冷静な桐花の言葉に、女子生徒はキョトンとした表情を浮かべる。


「え、誰って?」

「やけに具体的な話ですよね。誰かに聞いたからこそ、こうやって話せるんじゃないんですか? 噂の出所が誰なのか知りたいんですけど」

「誰って……ええっと……」


 予想外の質問だったのか饒舌だった先ほどまでとは変わりしどろもどろとなる。


「確か、あーちゃん先輩から聞いたと思うんですけど……ほら、先週の部活中に」

「いや私は部長から聞いた話をそのまましただけだから」

「え、私? いや私は、えーと誰から聞いたんだっけ?」


 どうにも出所がはっきりしない。本気で誰が言い出した噂なのかわからないらしく、3人お互いを見ならが首を傾げている。


「変ですね。言い出しっぺが誰なのかわからないなんて」


 確かに。


 ここまで具体的な内容の怪談が広まっている以上、その怪談を語り始めた誰かがいるはずだ。


 一般的に考えて、被服部の部員の誰かがイタズラされ続けているマネキンを見てそのような怪談を考えついたと見るべきなのだろうが、その言い出しっぺがはっきりしない。


 神楽坂先輩も不思議そうに首を捻る。


「さっきのガイコツ先生に関しても、目撃情報だけでなくガイコツ先生が動いている理由まで噂として流れていたわね。そもそもあの骨格標本自体、存在を知っている人は限られているはずよ」


 となると、骨格標本の存在とバックストーリーを知っている人物が怪談を作り上げたということか?


 じゃあ誰が?

 

「や、やっぱり僕の推測は正しかった。このオカルトブームの裏にはーー」



「ーー意図的に噂を流した誰かがいる。でしょ、百目鬼先輩」



 やや興奮気味の百目鬼先輩が語り出そうとしたその時だった。


 聞き覚えのない女子生徒の声が静かに響いた。


「え?」


 気がつけば、俺たちの輪に混じって見覚えのない女子生徒が佇んでいた。


「ひっ! 座敷童!!」

「失礼ね」


 否定される。


 よく見れば同じ学校の制服を着ている生きた女子生徒だ。


 ただおかっぱのような髪型のせいで、髪の短い日本人形だと錯覚してしまった。


「み、三浦? な、なんでここに?」

「え、待って三浦? オカルト研究部の三浦さん?」


 百目鬼先輩の言葉に神楽坂先輩が反応を示す。


 それは俺たちもだった。なぜならオカルト研の三浦といえばちょっとした有名人だ。


 当然桐花もその存在を知っている。


「……あなたが()()三浦(こと)


 いや、それどころかある理由でその存在を一方的に敵視していた。


 忌々しそうな目で突然現れた彼女を睨んでいる。


 そんな桐花の視線を意に介さず、三浦は平坦な口調で百目鬼先輩に話しかけた。


「私もこの学園の怪談を調査してる。先輩もそうでしょ?」

「う、うん」

「え、百目鬼の知り合い?」

「ちゅ、中学の後輩なんだ」


 なぜかバツが悪そうに百目鬼先輩が答える。


「へーそうなんだ。ねえ三浦さん、あなたから見て今回のオカルトブームはどう思う?」


 記者魂が働いたのか、オカルト研の三浦に神楽坂先輩が取材を始めた。


「一言で言えば、変」

「変?」

「うん」


 あまり変わらない表情のまま、三浦はそう言い切った。


「やけに具体的な怪談が噂されてるのに、誰もその出所を知らないし、噂が回るスピードが早すぎる。このオカルトブームは人為的なもの」


 その説明はどういう偶然なのか百目鬼先輩が俺たちにしてくれたものと全く同じだった。


「さ、流石だね三浦。やっぱり気づいたんだ」

「当然。先輩も気づくだろうと思ってた」

「へー。オカルト好きならわかるものなのね」


 感心したように神楽坂先輩が頷く。


「だから私はこのオカルトブームを作った人物を探してる」

「み、三浦もなんだ。僕たちもなんだよ」

「先輩も……なるほど」


 そこで初めて三浦は俺と桐花に視線を向ける。


「……どうりで変なのがいると思った」

「変なのってなんですか!」


 あまりの物言いに案の定桐花が噛みついた。


「なんですか横から入ってきて偉そうに! だいたいですね! あなたには前々から言いたいことがーー」

「それで先輩、次はどの怪談を調査するの?」


 三浦は喚き続ける桐花を完全に無視して再度百目鬼先輩に問いかける。


「えっと、今日はもう終わり。あ、明日また再開する予定」

「そう」


 三浦はしばらく考え込み、ややあってこんなことを言い出した。



「明日からの調査、私も同行させて」

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