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ショートショート3月~

おすそわけ

作者: たかさば
掲載日:2021/03/19

「はい、これ、おすそ分け。」

「ありがとう!」


・・・ここはどこだろう。

私は・・・誰だったかな。


ぼんやり立ち尽くす私の耳に、楽しそうな声が聞こえる。


「ねえねえ、これ、欲しい人―!」

「はーい!」

「はーい!」


何かを、分けあっているみたいだ。


「誰か、おすそ分けしてくれない?」


私の何かが、ぼんやり・・・灯る。


これは、分けることが、出来るのだろうか?

分けて、みようか。


「・・・どうぞ。」

「ありがとう!」


何かが、少し、欠けた。


「あたしももらっていい?」

「・・・どうぞ。」


何かが、少し、欠けた。


「くださいな!」

「・・・どうぞ。」


何かが、少し、欠けた。


どんどん、自分の何かが…なくなっていく。


「ちょうだい!」


少し図々しい物言いに、戸惑った。

私の、何かが、光を、失う。


「なんだ、くれないのか、残念。」


何も、欠けなかった。


「もらってやろうか?」


上から目線の言葉に、戸惑った。

私の何かは、光を失ったままだ。


「ああ、持ってくのか、わかったよ。」


何も、欠けなかった。


「もらってほしい人、もらうよー!」

「どんどんもってこーい!」

「だれか、おすそ分けしてー!」


騒がしい声が、聞こえる。

私は、騒がしいのは…好きじゃ、ない。

あまり、人のいない端っこに、移動?する。


「君は、もういいの?」


誰かが、私に声をかけた。


「よく、わからない…。」


どうしてここにいるのか、わからない。

何を分け合っているのか、わからない。

何のために分けあっているのか、わからない。

分けあって、何を目的とするのか、わからない。


わからないことだらけだ。


・・・何も考えずに、分けてしまった。


分けたらまずいものだったのかも、知れない。

・・・取り返した方が、いいだろうか。


「分けたいと思ったら分ければいいんだよ。もういいと思ったら、行けばいいんだよ。」


もう、いいかな?

わからないな。


行って、しまおうか。


「じゃ、お先に。」


誰かが、行ってしまった。


私も、行ってしまって、良いのだろうか?


私は、納得していない。

何もわからないまま、行くことなど。

でも、このまま、ここにいてもいいものか。


・・・動けない。


周りを、ただ…観察する。


分けあうものが、たくさんいる。

もらってばかりの人が、わりといる。

差し出すばかりの人が、少しいる。


だんだん、人が減ってきた。


「おい、お前たくさん持ってるじゃないか、よこせよ。」


乱暴な声が、聞こえた。


こんな人には、渡したくないな、そう思った。

私の何かは、光っていない。


「見せびらかすだけなら、早く行けよ!!!」


誰かに、はじかれた。

・・・気分が、悪い。


「あなた、分けるつもりがないなら、早く行った方がいいですよ。」


誰かの、声が、する。


「ここには、もう、分けてもらうのを望んでいる人しか、残っていません。」


誰かの、声がする。


「次にここに来るときは、同じことをしないようにすると、いいですよ。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「はい、これ、おすそ分け。」

「ありがとう!」


ここはどこだろう、私は・・・誰だったかな。


ぼんやり立ち尽くす私の耳に、楽しそうな声が聞こえる。


「ねえねえ、これ、欲しい人―!」

「はーい!」

「はーい!」


何かを、分けあっているみたいだ。


ああ、そうだ、ここは…。


「誰か、おすそ分けしてくれない?」


私の何かが、ぼんやり・・・灯る。


これは、分けることが、出来るのだ。


私は、前にここに来た時、分け与えたのだ。


私が、分け与えたもの。


…恵み。


私は、自分の恵みを、誰かに…分け与えてしまった。

私にもたらされるはずだった恵みが、減ってしまったのだ。


・・・それなりの毎日を送ることはできたけど。

縁がなく、感情も薄い、無気力な人生を送る事になってしまった。


あの時、分けることをしなければ、私はもっと。


・・・分け与えてなど、なるものか。


私は、何一つ分けることなく、行くことに、した。


「もう行くのですか。」


「ええ。」


誰かが、私に…声を、かけた。


「・・・次にここに来るときは、同じことをしないようにするといいですよ。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「はい、これ、おすそ分け。」

「ありがとう!」


ああ、私は…また、ここに、来たのか。


ぼんやり立ち尽くす私の耳に、いつもの様に、楽しそうな声が聞こえる。


「ねえねえ、これ、欲しい人―!」

「はーい!」

「はーい!」


・・・無邪気に、分けあっている。


「誰か、おすそ分けしてくれない?」


私の何かが、ぼんやり・・・灯る。


「・・・・・・。」


これは、分けることが、出来るのだ。


私は、前に来た時、分け与えなかったのだ。

私は、前の前にここに来た時、分け与えたのだ。


私が、分け与えなかったもの。


…怒り。


私は、怒りを、誰にも分け与えなかった。

誰かに分け与えることができた怒りを、独占してしまったのだ。


・・・戦いの多い毎日だった。

怒りをまき散らし、勝利を得るために奔走するだけの人生を送る事になってしまった。

怒りに満ち溢れる、恵みの無い、孤独でつまらない人生だった。


・・・なるほど、ね。


ここにいる人たちは、皆…何かを、持っているのだ。

何を持っているのかは、生まれてみないと、人生を終えてみないと、わからない。


いいものを持っているのだとしたら、それを独り占めしておきたい。

悪いものを持っているのだとしたら、それをすべて手放したい。


誰かの分けてくれた何かが、私の人生に彩を与える。

誰かに与えた私の何かが、誰かの人生に彩を与える。


何を持っているのかわからない以上、いいものを持っているかもしれない誰かに声をかけて、分けてもらうのが、望ましい。


・・・自分の持っているものだけで勝負をするのは、危険すぎる。

いいものであればいいが、悪いものであった場合が、恐ろしすぎる。


もし自分のものが悪いものであったと仮定して。

それと同じ量の何かを持っていたのならば…おそらくバランスは、取れるはず。


もし自分のものがいいものであったと仮定して。

それと同じ量の何かを持って行けば…多少の悪いものは、いいものがカバーしてくれるはず。


・・・そもそも、自分の持っているものだけでは、足りない。

豊かな人生を送るためには、豊かな何かが必要なのだ。


・・・もらえばもらうだけ、見返りが多くなるはず。


つまり、いいものも悪いものも、いろんな種類を集めておけば、それなりに活用できるという事。


もらえるだけ、もらっていこう。

もらえるだけ、もらわなければ。


「あの、分けてもらっても、いい?」

「はい、どうぞ!」


「あの、分けてもらっても、いい?」

「いいよー!」


「あの、分けてもらっても、いい?」

「はーい。」


「あの、分けてもらっても、いい?」

「うーん・・・。」


もらい続けていたら、渋る人が出てきた。


「あの、分けてもらっても、いい?」

「交換しようよ!」


「あの、分けてもらっても、いい?」

「どれだけ取り換えっこする?」


おすそ分けしたら、おすそ分けをされて当然と思う人が割といる。


「あの、分けてもらっても、いい?」

「してやってもいいけど、倍返しな!」


「あの、分けてもらっても、いい?」

「分けるつもりはないんだ、もらってやるよ!」


分けないくせに、もらおうとする人もいる。

・・・なんだ、同じこと考える人、いるんだな。


私は、何一つ分けることなく、もらえるものはすべてもらって…行くことに、した。


「行くのですね。」


「ええ。」


誰かが、私に…声を、かけた。


「・・・次にここに来るときは、同じことをしないようにするといいですよ。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「はい、これ、おすそ分け。」

「ありがとう!」


・・・ここに、来たのは、何度目だろう。


ぼんやり立ち尽くす私の耳に、いつもの様に、楽しそうな声が聞こえる。


「ねえねえ、これ、欲しい人―!」

「はーい!」

「はーい!」


・・・無邪気に、分けあっている。


「誰か、おすそ分けしてくれない?」


私の何かが、いつもの様に、ぼんやり・・・灯る。


「はい、・・・どうぞ。」

「ありがとう!」


分けることができるのであれば。

・・・分け与えた方が、いい。


私は、ずいぶん、分け与えなかった。

私は、ずいぶん、分け与えてもらった。


自分のものを分け与えずに、人からたくさんおすそ分けしてもらった。


いろいろと持っていた私は、ずいぶん満たされた人生を送り続けた。


誰にもおすそ分けしなかった、優しさ。

誰にもおすそ分けしなかった、好奇心。

誰にもおすそ分けしなかった、才能。

誰にもおすそ分けしなかった、真面目さ。

誰にもおすそ分けしなかった、疑い。

誰にもおすそ分けしなかった、力。

誰にもおすそ分けしなかった、執着。

誰にもおすそ分けしなかった、卑屈。


いつだって、分け与えなかったものが、暴走した。

いつだって、分け与えなかったものが、邪魔をした。

いつだって、分け与えなかったものが、押しつぶした。


いつだって、もらえなかった何かが足りなかった。

いつだって、もらえなかった何かが欲しくなった。

いつだって、もらえなかった何かに取り憑かれた。


ここにいる人たちは、皆…何かを、持っている。

何を持っているのかは、生まれてみないと、人生を終えてみないと、わからない。


いいものを持っているのだとしたら、それを独り占めしておきたい。

たくさんおすそ分けをしてもらえば、悪いものだったとしても何とかなるはず。

交換じゃないと分けてもらえないものなんか、大したものじゃないよね。

どうせ分けてもらったところで、悪いものに違いない。


・・・浅はかだった。


悪いものを持っているのだとしたら、それをすべて手放したい。

だが、もしそれがいいものだったら。


自分の持つものがいいものである可能性があるので、全てを手放すことなど、出来ない。


次こそはいいものを持っているに違いない。

次こそは悪いものを抑え込めるはず。

次こそは欲しいものがそろっているはず。

次こそはいらないものに邪魔はされないはず。

次こそは、次こそは、次こそは、次こそは。


・・・ようやく、わかった、気がする。


何を持っているのかわからない以上、分けあってバランスをよくした方がいい。

いいものも、悪いものも、お互い少しづつ分けあったら・・・暴走することは、ない、はず。


おそらく。

持つものには、限度のようなものが、あるのだ。


自分のものを手放さずに、人のものを分けてもらう事で…自身の器に納まりきらないものが、あふれ出すのだ。


過大なものは、やがて暴走し、器を破壊し…自滅する。


今まで、何度自身を手放してしまった事だろう。

今まで、何度道を踏み外した事だろう。

今まで、何度ゴールにたどり着けなかったことだろう。


自分の持つものをなくさないよう加減しながら、おすそ分けをしてもらうのが、良いのだ、おそらく。


「誰か、もらってください…。」

「じゃあ、私のと交換しよう。」


「交換しませんか!」

「お願いします!」


「誰かもらってー!」

「私のも、もらって?」


いろんな人に声をかけ、いろんな人から声をかけられ。


私は、ほどほどのものを、手に入れることが、出来た。


声をかけても、分けてくれない人が、たくさんいた。

声をかけても、もらってくれない人が、たくさんいた。


分けてもらえなかったものに、いいものがあったのかもしれない。


私のものはいいものかもしれない。

私のものは悪いものかもしれない。


でも、私はできる事を、したんだから。


・・・きっと、これで。


今度こそ、私。


・・・満足のできる、人生を。


今度こそ、実りのある人生を歩めるはず。

今度こそ、悲しみの少ない人生を歩めるはず。

今度こそ、バランスが取れているはず。


悪いものも、いいものも…分け合ったから、大丈夫。


悪いものはみんなに拡散できたはず。

一人一人の被害は、小さなものになるはず。


私のものが、いいものだったとしても。

大丈夫、減った分だけ、いいものもちゃんと増えている、はず。


「それで、いいですか?」


誰かが、私に…声を、かけた。


「ええ。」


「いいものも、悪いものも、分け合えるようになれると、いいですね・・・。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「自分の持つ幸せを、皆で分け合いたいと願えるようになれたら、いいですね・・・。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「だれかの持つ苦難を、皆で分け合いたいと願えるようになれたら、いいですね・・・。」


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。




「分け合うことの意味が、理解できると、いいですね・・・。


その声を聞いた私は。

気が、遠くなって。


…光が、私を、包み込んで…。


…光が、私を、包み込んで…。



…光が、私を、包み込んで…。




…光が、私を、包み込んで…。

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― 新着の感想 ―
[一言] 分け合うって大事ですね。 田舎はお裾分けの文化があったんですが、都会になると、ないですね。田舎は良かった。
[良い点] とても興味深く拝読しました! 「分け合うことの意味」難しいですー!! 私はまだうまく分け合えていないです。 難しいことを文章で表現されていてすごいと思いました。 考えさせてくれる作品を拝読…
[良い点] キャー! 潰し合うのか。持ちすぎると……それはそれは恐ろしいことです。 [気になる点] これ組み合わせ次第で大変なことになりますね。ゲームみたい [一言] おらおら持ってけ〜(胸のドア全開…
2021/03/19 20:15 退会済み
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