ガイア示現流なる流派の師範代役を頼まれた結果、ヒーローの先生になりました。
SF物は初めてです。
SWに出てくるグリ○ヴァス将軍のようなサイボーグや、アンドロイドなどは出したいなぁとは思います。
銀河英雄伝説のように、完全な異星人は出さないかもです。(連載時)
汎銀河歴2066年8月。
オリュンポス星系、惑星ケルベロス。
俺は今、この星の密林の中で遭遇戦を繰り広げていた。
「こちらアルファ!ブラボー、損害報告!!」
バイザーについている通信機を操作して、連絡をする。
降下ポッドでの降下は成功したが、狙い澄ましたかの様に周囲から、ビームの弾幕が降り注ぐ。
ポッドから出るだけで部下が五人、倒れ伏している。
キラリと光った方へ向けて、構えたビームカービンを放つ。
青い光線が飛んだと思うと、ドサリと音がして何者かが倒れた。
こちらが1発撃つと3〜5発返ってくる。敵の方が人数も多いようだ。
『こち…ブ…ボー!損害……中30!応……求む!』
ジャミングか。
聞こえる限りでは、定員50名中30名やられたか。
綺麗にやられていることから、対空火器にてポッドが撃墜されたのだろう。
ポッドには窓がない。周りを見ることができないため、あくまでも予測になる。
そう考えていると、副隊長が近寄ってきた。
「隊長!降下時点での損害、20!二個分隊が全滅!」
「……降下地点への重点砲火。……クソ!先手を取られたか!副隊長、まずは陣地を構築しろ!」
「し、しかし!」
「降下ポッドや周囲の木々を切り倒してでも、まずは橋頭堡を作るんだ!周囲からビームマシンガンで蜂の巣にされるぞ!撤退するためにも、まずは生き残れ!」
「い、イエッサー!」
副隊長が各分隊へ通信機にて指示を出していく。
俺は、周りを牽制するようにビームカービンを向けて下がる。
その時!
爆音と共に爆風が吹き荒れた。
爆風に巻き込まれて、俺の身体が浮くのが分かる。
ああ、ポッドに携帯ランチャーが撃ち込まれたのか。
火の車の様に破壊をまき散らしながら、ポッドが倒れていく。
その爆発の中から、鋭利な刃物のようになった破片が、とてもゆっくりとした速度で飛んできた。
それは俺の持っていたビームカービンを半ばから断ち割っていく。
そして……俺は背中から地面に叩きつけられて……意識を失った。
◇◇◇
惑星ケルベロス。
開発途上の惑星で、オリュンポス同盟という星間国家に所属している。
そこに、合成麻薬の一大製造施設が存在していた。
人類は愚かな事に、地球という一惑星を離れても、麻薬という悪魔の誘惑を絶つことができなかった。
複数の星間国家で、相互平和条約を結んだ際に、麻薬に関する禁止条約も結んだ。
しかし、禁止されれば法の目を掻い潜って利益を得ようとする者たちがいる。
そう言った無法者どもが跋扈するのを防ぐために、各国は一つの組織を立ち上げた。
銀河刑事警察機構……GCPOというものがそれだ。
各国に支局を置き、星間国家、銀河を跨いだ犯罪もGCPOと各国警察組織が協力し、取り締まる。
それが理念だ。
宙賊と呼ばれる者や、闇商人、そして犯罪組織を取り締まる為に、艦隊と軍隊並みに鍛え上げた部隊を擁している。
俺は、GCPOのオリュンポス支局 第二艦隊 第一強襲制圧隊 アルファ小隊の隊長をしていた。
強襲制圧隊は、敵艦や敵地へ乗り込み制圧するのが仕事だ。そして、個人用重兵装を着用し、ビームカービンを始めとした重火器を使ったり、フォトンブレードやクリスタルアクスなどを使っての白兵戦で戦うのだ。
敵の懐に飛び込むという役割から、GCPOの中でも最精鋭と言われる奴らが揃っている。
今回の任務は、ステルス性能を強化した強襲揚陸母艦二隻と、護衛の航宙イージス艦三隻にて惑星ケルベロスの密林区域に存在する合成麻薬の製造施設へ強襲。施設を接収し、証拠とするのが目的だった。
しかし……。
『降下点へ到達。ポッドの投下を開始する。総員、大気圏突入に備えよ!』
強襲揚陸母艦”ワスプXX”の中には三個小隊、15個の降下ポッドが格納されている。
その中の一番ポッドに俺の率いる分隊が搭乗していた。
「よし、お前ら!今まで訓練してきた通りだ!
それができれば問題ない!お前たちは、GCPOの中でも一番厳しい訓練をしてきた猛者だ!
その成果を見せてやれ!」
「『「『「『「『「サー!イエッサー!」』」』」』」』」
俺の言葉に通信も介して、アルファ小隊の全員が返事をする。
男もいれば、女もいる。皆が、厳しい訓練、実戦をくぐり抜けてきた猛者達だ。
降下ポッド内の自席に座り、突入前の最終チェックを各自が行っている。
強化装甲服……通称バトルドレスの気密チェック、ビームカービンの動作チェック、フォトンブレードやクリスタルアクスの装備などなど。
バイザーを介し、隊員全員の表情を確認する。……良い表情だ。これなら……。
『降下ポッド切り離し!各員の健闘を祈る!』
その放送と共に、重力制御装置が切れ、無重力となる。
しかし、すぐに大気圏へ突入したことにより、重力がかかり始めた。
この時点で出来ることは少ない。突入に耐え、降下し切るまでは……。
その時、急にアラートが鳴り響く。この時点でのアラートとは!!
「小隊長!レーザー照準です!狙われてます!」
「……!!アルファ小隊、各機緊急回避行動を取れ!!」
「『「『「『「『「サー!イエッサー!」』」』」』」』」
『こちら、第五分隊!対艦ミサイル接近中!チャ、チャフが間に合わ…』ブツン
『だ、第三分隊です!ミ、ミサイルを振り切れな……』ガガッ
降下時点で二分隊の壊滅……か!!
ブラボー小隊、チャーリー小隊がどれぐらいの被害を受けているか……。
それに……降下後がこれで済むはずがない。
隠密性の高い強襲揚陸母艦とイージス艦で編成された艦隊だ。
最新鋭の隠密システムを使ってるため、察知をされる可能性は低い。
しかも、この艦隊については、偽装出撃計画も用意した上での強襲だ。
それだけ準備をしていたという可能性もあり得るが……それにしては、迎撃が正確過ぎる。
(……漏洩していた……可能性が高いか。)
「小隊長!着陸します!!」
「総員、衝撃に備えろ!着陸次第、ポッドから出撃せよ!」
「『「『「『「『「サー!イエッサー!」』」』」』」』」
衝撃に身体が揺れる。その衝撃はバトルドレスが吸収した。
俺はバンドをワンタッチで外し、立ち上がる。
「お前ら、行くぞ!!」
◇◇◇
目の前がぼやける。
左に、右に、上に、下に……。
霞がかかったようにぼやけている。
俺は……なにを……。
俺の……名……は……。
トウゴウ……。
シゲタダ・G・トウゴウだ!
GCPOのオリュンポス支局 第二艦隊 第一強襲制圧隊 アルファ小隊 隊長だ!
くそ、意識が飛んでたのか?
バトルドレスのバイザーに情報が表示される。
肋骨の三本にひびが入っているのか。手と、足は……問題なし!
ポッドの爆発に巻き込まれたのに肋骨のひびだけで済んだのは僥倖だ。
まずは、第一分隊の被害を確認せねば……!
「第一分隊!点呼!」
俺が分隊員に通信を送ると、各員が通信を一瞬行う。
副隊長と他二名反応が返ってこない。
『副隊長は重傷!二名は爆発に巻き込まれて即死!』
「ポッドの残骸や、周囲の樹木を盾に陣地を構築!メディックは副隊長の応急処置!急げ!!」
そう叫ぶと共に、駆け出す。
ビームカービンはさっきの爆発で壊れた。
フォトンブレードは用意しているが、敵はそう簡単に近づいてはこない。
副隊長、もしくは殉職した隊員のビームカービンが無事であれば、それを手にしなければ。
部下と合流し、残骸を盾に対峙する。
ビームカービンを撃てば、撃った所に弾幕が降り注ぐ。
撃たなくとも弾幕が降り注ぐ。
くそ……!
他の分隊、小隊は離れすぎてるのと、ジャミングによるものだろうが、通信が繋がらない。
最悪、他は壊滅した可能性がある。
副隊長が使っていたビームカービンを手に取り、撃ち尽くしたエネルギーパックを入れ替えていると、弾幕が途切れた。
空気を焼く音などがしなくなり、急に静寂が支配した。
ガサリッ。
その静寂を打ち破るように、一人立ち上がった者がいた。
重装甲の、顔を覆い隠すタイプのバトルドレスを着ているのがわかる。
ただ、性別まではわからない。
ブオンッ。
空気を焼くような音を響かせて、フォトンブレードの刃が伸びる。
そして、とてつもない殺気が飛んできた。俺でさえも、身体が一瞬強張り、唾を飲み込んだ程だ。
……あいつは……もしや……。
「う……うああああああああ!?」
「……!撃つんじゃない!!」
部下の一人が、奴の飛ばす殺気に耐えきれずビームカービンの引き金を引いてしまった。
止めようとしたが、錯乱しているのか引き金を引き続ける。
照準がぶれにぶれてるのがわかる。これでは当たらない。
だが、一発がたまたま奴の額を貫く軌跡を描いた!
ブオンッ チュイン!!
……やっぱり、ビームを撃ち返しやがった!
これだけで、奴……ヴィランの腕が分かる。
……綺麗に部下の頭を撃ち抜いてやがる……。
このまま、ここに居ても斬り殺される。
撃っても撃ち返される。
どちらにしても死ぬなら……俺のフォトンブレードがどこまで通用するか試そう。
「……俺が死んだら、降伏または自決しろ。」
「ど、どうするんですか!?」
俺は残骸から離れ、身体を晒す。
そして、腰に下げたフォトンブレードの柄を取り、握る。
……十年来の相棒よ。これが最後かもしれんが、頼りにしてるぞ。
スイッチを入れ、ブレードを出す。
「……俺は、あいつと死合いをしてくる。」
ブレードの柄を両手で握り、中段に構える。
その動きだけで、フォトンブレードの特徴である音が響く。
俺の動きを見て、奴は構えを変えた。両手で柄を持ち、下段に構える。
少しずつ、互いに近づいて行く。牽制するようにブレードの先を揺らすと、それに併せて音が響く。
ブオンッ ブオオンッ
息を大きく吸う。そして、吸うのを止めると共に一歩踏み込み、斬りかかる。
バチィィィッ
奴がブレードを振り上げ、受ける。フォトンブレード同士が撃ち合った際に響く独特の鍔競り音が響き渡る。
渾身の力を込めているはずなのに、こいつは苦にもなってない。少しずつ、少しずつ押し返して来やがる。
強く押し上げ、下がる。息を吸い直すと共に、踏み込んで斬りかかる。
袈裟、逆袈裟、小手、突き……奴の強さに押しつぶされないように雄叫びを上げながら斬り続ける。
しかし、それを全て難なく捌ききられた。
そして、一瞬、ふっと嘲笑われた気がした。それに合わせて、フォトンブレードを弾き飛ばされる。
そのまま切られる……と思ったが、胴へ蹴りを入れられた。
俺も奴もバトルドレスを着ているため、吹き飛ばされはしたが、衝撃を少しだけ抑えられた。
「……グハッ!」
口から血を吐いた。肋骨を二本持ってかれたか……。
バイザーにはアラームが鳴り響いている。
くそ……ここまでか……。
奴は、ゆっくりと近づいてくる。
俺に十分に絶望を抱かせた上で、止めをさそうって魂胆だろう。
ははは……。ヴィランらしいと言えば、らしいか……。
諦めるように瞼を閉じる。
その時、俺に何かが語りかけてきた。
<もう諦める?>
(諦める……?もう、俺には勝ち目がない……。)
<勝ち目があるなら、立ち上がる?>
(……勝ち目があるなら……俺は……。)
ドスンッ
何かが突き刺さる音が聞こえた。
<さぁ、目を開けてそのフォトンブレードを手にするんだ!>
目を開いた。音がした方へ目を向ける。
そこにはフォトンブレードの柄が突き立っていた。
それは俺が持っていたブレードよりも柄が少し長かった。
手を伸ばし、柄を握る。手に力は……入る!
<さぁ、立って!>
背中を押されるように、立ち上がろうとする。
吹き飛ばされた衝撃で、膝がガクガクと震え、崩折れてしまいそうになる。
それでも、歯を食いしばり立ち上がる。
<右手を上に目一杯伸ばすように構えて!>
声の指示に従って腕を伸ばす。
上段の構えよりも極端な構えだ……。
しかし、今まで使ってきたどの構えよりもしっくりと来る。
満身創痍の俺が立ち上がり、構えを取るのを見た奴も上段の構えを取る。
俺が振り下ろすよりも先に、斬り殺そうという考えだろう。
<あなたの全てを持って、振り抜いて!!>
「いいいいいいいやあああああああああああああ!!!!」
俺は、ただ、ただ、俺の全てを持って、無心に振り下ろした。
スバァァンッ
ズルリッ……ドサッ
奴の身体が、斜めに落ちる。
息が荒い。鼓動が早い。ああ……勝てた……のか!
身体の力が抜ける。手がダラリと垂れて、足がゆっくりと折れていく。
膝を突くと共に、フォトンブレードの刃が消えた。
ああ、くそ……!
まだ、他にも敵がいるのに……!
周りを見回すと、敵が周囲から身体を見せて、ビームマシンガンをこちらに向けているのがわかる。
だれかが引き金を引いたら、蜂の巣になって死ぬだろう。
「流石に……ゲームオーバー……だな。」
「よく頑張った!!!」
俺が諦めた瞬間に、女の声が響き渡った。
そして、ドスンッという音と共に、俺の目の前に女が降り立っていた。
漆黒の髪をたなびかせた姿は、凜々しかった。
降り立った女は立ち上がると俺の方に向き直る。
「君……名前は?」
「……シゲタダ……シゲタダ・G・トウゴウだ。」
「へぇ……ボクの流派の始祖さんと同じ名前か!」
流派の始祖?
俺の名前が何かの流派の創設者の名前と同じってことか?
というか、この女はなんなんだ?
身長は160cm程、意志の強さを感じさせる黒い瞳に眉。
ピッタリと張り付くようなバトルドレスを着ており、鍛えられた肉体は、野生のネコ科の動物の様にしなやかそうだ。
急に現れた女に驚いていた敵も、俺と彼女のやりとりの間に、流石に立ち直ったみたいだ。
しかし、撃ち殺せ!殺すな!生かして犯せ!など、統制が取れていない。
「……まぁ、もう大丈夫。大船に乗った気持ちで待ってて。」
「あ……あなたは?」
「……ボク?」
周囲からビームマシンガンの発射音が聞こえてくる。
一瞬で届くから、本来なら聞こえるはずがない。
だが、聞こえる。
光線がゆっくりと伸びて、彼女を貫こうとしている。
ブオンッ
フォトンブレードの刃が伸びる。
それに合わせて、彼女はくるりと振り返った。
「ボクの名前は、アイリ。アイリ・J・スターク。」
チュチュチュチュイン!!チュチュチュイン!!
あの独特な音が響き渡った。
ドサッ ドサドサドサッ
撃ってきたビームが全て弾き返されて、撃ってきた奴らが全員倒れた。
彼女……アイリは無傷でそのまま立っている。
ブレードのスイッチを切って、こっちに向き直ると、笑顔を見せる。
「ヒーローだよ。」
※※※
惑星ケルベロスの強襲作戦から一年後……。
俺は、GCPOオリュンポス支局第二艦隊から転属となり、強襲作戦で生き残った直属分隊の五名と共に……GCPOオリュンポス支局の人事部採用課で仕事をしていた。
採用課という部署は、必要がありそうで仕事がない……言うならば閑職だ。
何故ならば……中途採用のみを扱う部署だからだ。
中途から所属する人材は存在する。
しかし、そう言った人材の殆どは各部署が行うヘッドハンティングで入ってくる。
……そう、採用課を通さないのだ。
その為、殆ど応募というのが存在しない。
なら、何をすればいいか。
ただ、応募者が来るのを待つのだ。
正直苦痛だ。
しかし、辞令をもって転属となった以上、するしかない。
一緒に転属となった部下には、気を紛らわす為に交代で息抜きをするように指示を出している。
俺は、仕事の合間に……この部署への転属となった、あの作戦で出会ったヒーロー……アイリとの事を思い出していた。
◇◇◇
あの作戦はヒーローであるアイリが参加した事により、形勢逆転した。
正面をアイリが制圧する間に、ブラボー小隊とチャーリー小隊の合流を果たし再編成。
ワスプXXの僚艦から降下した第二強襲制圧隊も、半壊状態ではあったものの何とか持ち堪え、俺たち第一強襲制圧隊と合流に成功。アイリの援護の下、施設を制圧することに成功した。
制圧後、ケルベロスの政庁へ通信にて連絡。ケルベロスの警察機構の応援を得た上で、GCPOの本隊が到着するのを待つ。
ケルベロスの警察機構へ全てを任すことはしない。あくまでも、俺の考えだが……今回の作戦内容は漏洩していた。そうなると、どこから漏洩していたかになるが……GCPOとケルベロスの警察機構のどちらかの一部か……もしくは両方か。
証拠隠滅をされては困るので、強襲揚陸母艦には連絡を入れ降下をしてもらった。
その後、一週間後にGCPOオリュンポス支局第二艦隊が合流。到着した部隊へ引き継ぎ、俺たちは支局へ帰還することになった。
その一週間は俺にとって、刺激的な一週間であった。
生き残った隊員全員にアイリが訓練をつけてくれたのだ。
ヒーローの殆どは謎多き人物だ。こうやって、いきなり戦闘に参加し、悪党どもにその剣を振るう。
そして、戦闘が終わると颯爽と去って行く。
戦闘中にやりとりをすることはあれども、その後に個人的な話をすることはまずない。
それが今回、白兵戦に限ってはしまうが、彼女が直々に見てくれるのだ。
筋が良い者は勿論褒めて、技量が未熟な者についてはどこが癖になってしまっているかを的確に指摘し、どうなってるかを見せてみせる。
本当の達人……という存在を、俺はこの時に知った。
そんな彼女が、この期間の間、色々と話を振ってくるのだ。
「トウゴウ、君は筋が良いな!」
「トウゴウ、君の一族に伝わる剣術などはないか?」
「トウゴウ、君の先祖について教えてくれないか?」
「トウゴウ、君は剣術に興味はないか?」
正直、他のメンバーよりも俺に興味を持ってくれてるらしいと言うのは見て取れる。
37歳独身のおっさんに声をかけてくるのが、玉の輿狙いとかではなく、ただ純粋な好奇心からだと言うのがわかる。
それ故に、なんでここまで絡んでくるのかがわからない。
「……スタークさん。」
「アイリで。」
「……アイリさん。」
「アイリ。」
「……アイリ。こんな四十路間近のおっさんに絡んで楽しいか?」
「そうだねぇ……ボクは楽しいよ。君が探してた人かも知れないからね!」
探してた?
どういうことだと思っていると、彼女が説明してくれた。
ヒーローは、どうやってヒーローになるのか。
簡単である。
ヒーローが、素質のある弟子を探し、その弟子を育て、ヒーローとするのだ。
その技術は門外不出とされ、ヒーローは最大片手で数えられる人数までを弟子に取り育てるらしい。
「素質のある人っていうのは、存外いるんだ。勿論、その素質の高さに差は存在する。そうなると、素質の高い人材だけが弟子になるわけだね。」
「確かに……。
そうなると、ヴィランが減らないってのは……?」
「……トウゴウ、君が考えてる通りだよ。漏れた人材がヴィランに拾われて……成るんだ。」
ヴィランはどんなに捕まえても、次から次に湧いて出てくるように現れる。
ああ……やっと理解ができた。
煮込んだ煮汁の”上澄み”だけを使うのがヒーロー。
”残った全て”を使うのがヴィラン。
……それなら、消えるはずがない。
質は悪くても、数打ちゃ当たるで繰り出していき、どれかがジャイアントキリングでもすれば……万々歳か。
「……ボクと、師匠はヒーローの中でも異端でね。ヒーローが師匠として弟子の全てを見て、育てるという仕組みは時代遅れだと提言したんだ。幾人かのヒーローは賛同してくれたんだけどね……。過半数がまだ否定的なわけなんだ。」
「……それが俺にどう関わるんだ?」
「……ボクが素質ある人材を弟子にして、ボクの下で師範代として、弟子を育てて欲しいと考えているんだ。
……今更だけど、良くある道場の仕組みだね。
その師範代として、君を招きたいってわけなのさ。」
「俺に、その……素質がある……って事なのか?」
俺の言葉に、彼女は強く頷いて見せる。
そして、俺の手を取り、口にした。
「ボクは幾人かと関わってきたけど……君はとびっきりだ。
……なにより、ボクの流派に関わりがある名前なんて、多分、運命だよ。」
「……その流派を聞いても?」
「……示現流。ガイア示現流さ。」
ガイア星系に所属するガイアという星の、一部地域で興隆した剣術が始まりとなるらしい。
ヒーローとはガイアの地球から発祥した剣術と、理力と名付けられた力を組み合わせ、進化した武術を使う者ということらしい。
……初めてしったわ。
アイリ曰く、多分、政府やGCPOの高官でないと知らないだろうとの話だ。
……俺が知って良いのかよ。
「君は、ボクの弟子予定だからね。それくらいは知ってて良いのさ。」
「……それは、有り難い話だが……。
そういや、その……俺の名前が、どう関わるんだ?
たしか……始祖の名前って言ってたと思ったが……。」
「そう!ガイア示現流は、ガイア星系内惑星ガイアのジャポンという地域の、キューシュ地方、サツマという国で、チューイと呼ばれることもあるんだけど……シゲカタ・T・トウゴウが始祖なんだ。」
「……もしかして、チューイってのは”重位”って書くのか?」
「!!……そう!そうなんだよ!もしかして、トウゴウも?」
「あ、ああ……俺はE形式の生まれだから、古い文字で”東郷重位”と書く時がある。」
俺の言葉に、彼女は俺の肩を掴んでガクガクと揺すってくる。
しかも、満面の笑みを浮かべてだ。……俺のルーツがアイリの学んだ剣術の始祖かも知れない……か。
ヒーローに出会うことが万に一つの可能性……そして……自身の流派に関わる名前を持つ弟子候補と来たら。
「多分、この出会いは、運命だよ!
……まだ、師範代の話はGCPOと各国上層部とヒーロー連で打ち合わせ中で、確定ではないんだ。
でも、纏まったら、東郷……君をボクの弟子として迎えたい。纏まったら受けてくれないかな?」
「……俺は、GCPOの隊員だ。
GCPO内に部署が作られるというなら、正式な手続きを踏んでくれれば断ることはない。
GCPO外で作るなら……内容次第だが、退職も視野に入れねばならない。
その際は、先に相談をして欲しいな。」
俺の言葉に、ニッカリと笑みを浮かべる。
俺自身は、あくまでもGCPOの職員であるので、組織内であれば転属が可能だ。
しかし、今回の話は、ヒーローの師範代だ。
そうなると、GCPOと提携はしても、GCPOの組織外となる可能性もある。
そうなれば、出向という手段が有効であれば良いが……無理なら退職をせねばならない。
相談……とは言ったが、もしも、アイリがスカウトに来たら……受けようとは思っていた。
「……そうだ。俺の部下はどうだ?……素質はあるか?」
「……正直に言うよ。
君たち第一、第二強襲制圧隊……だったっけ?
その中では、君だけだよ。」
「……その素質ってのは、どれくらいの確率なんだ?」
「厳密に調べたわけではないから、概算になるけど……1億人に1人ってボクたちは考えてる。」
「……微妙な数字だな。」
「そうだね。このオリュンポス星系には幾つか惑星があって、オリュンポス同盟全人口で200億。そこから考えれば200。
ヒーローは……あ、これは秘密にしてね……この星系に5人いる。5人が5人とも弟子に取ったとして、25。
残りは……?」
「……175は手つかずってことか。全てではないけれども、ヴィランに成る……わけか。」
「そう言うこと。……ボクと、君が教えて行くのであれば、20人は教えられると思う。
そして、教えた弟子の中で師範代を任せられる奴が出れば……少しずつ増えるはずさ。」
……俺がヒーロー見習いになって、未来のヒーローを育てる……。
何とも、数奇な話だ。フォロムービーにもない話だろう。
バトルドレスのポケットから、合成煙草とジッポを取り出す。
一本取り出して、口に咥えた。ジッポの蓋を開けて火を点ける。
スゥー……ハァー……
ふと、目をアイリへ移すと煙草をジーッと見ていた。勧めるように一本出すと、嬉々として口に咥えた。
そして、ジッポで火を点けてやる。
スゥー……ゲホッゲホッ
「うへぇ……良くこんなの吸うね。身体に悪くないの?」
「昔はタールとかが含まれていたけれども、今は無害な代替物質になってるのさ。
……って、アイリ、君、初めて吸ったのか?」
「えへへ……。」
顔を赤らめて照れ笑いを浮かべるアイリ。
その笑顔を見て、俺も微笑を浮かべた。
そしてその後、本隊が来た為、俺達はアイリと別れ……GCPOオリュンポス支局へ帰還した。
帰還後、今回の作戦の報告書を提出すると、長期休暇を指示された。
休暇中にニュースが流れる。GCPOとオリュンポス同盟の高官が失脚。
……失脚した高官が、調査の結果情報を漏らしたと言うことだろう。
だが、漏洩などの話は出ていない。
となると……まだ他にあるということだろう。
その答えは、休暇後に示された俺への辞令で分かった。
GCPOオリュンポス支局人事部採用課への転属。
……そう。
……俺が……俺たちが犠牲の羊ってことだった。
◇◇◇
あの時の、アイリとのやりとりは、今もはっきりと覚えている。
自分を求めてくれた純粋な想い。
正直に言って、冥利に尽きるというものだろう。
だが、あれから一年が経った。
……出来なかったか、俺よりも良い人材が見つかったということだろうな。
俺は、毎日提出をせねばならない書類を纏め、残業が発生しないように時計を確認する。
16:59……退勤しようと席を立った。
コンコンッ
採用課の扉をノックする音が響いた。
……転属後、一度も聞いた事がない音だ。
部下もこちらを見てくる。同じ思いなのだろう。
コンコンコンッ
出るべきだろう。
その判断が今更ながら出た。
俺が、扉を開けようと近づくと……。
「トウゴウ!!ここにいるかい!!!」
バタンッと扉が開けられ、漆黒の髪をたなびかせ、GCPOの制服を着込んだ美女が入ってくる。
……ああ、何度も思い返した顔だ。
「すまないね……纏まるのに時間がかかってしまったんだ。
やっっっっっっと、話が纏まって、GCPOの各支局にヒーロー部を置くことになったんだ!
ヒーロー部の中に、各ヒーローの課があって、課単位で運用していくって感じなんだ!
是非とも、シゲタダ・G・トウゴウ以下、採用課のメンバー全員にボクの課に来て貰いたいんだけど……どうかな?」
ああ、覚えてくれていたのだ。
そして、成ったから、俺を探してくれたのだ。
しかも、俺の部下の進退も一緒に。
これを断る理由など、存在しないだろう。
採用課に一緒に転属した部下を見回す。皆がやる気を見せて頷いてくる。
ああ、わかっているとも。
「シゲタタ・G・トウゴウ他5名。転属の辞令を拝命致します!」
「うん!ありがとう!!では、早速だけど、ボクの課で君と一緒に教える子達を紹介するよ!」
そう言うと、早く早く!とでも言うように、俺たちを先導して歩いて行く。
採用課が入っているビルを出て、エアカーに乗って移動をする。
エアカーの向かった先には真新しいビルとドームが、その存在を誇示していた。
そして、ビルの前に止まると、降車して、アイリがビルの中へ入っていく。
俺たちはそれを追いかけて、入っていった。
受付で、受付嬢へアイリが何か話した後、手招きしてくる。
「みんな、IDカードを出してね。ここで入場権限を付けて貰うから!」
受付嬢へ、俺を含めた全員がIDカードを提出すると、ものの数分で返却された。
これでセキュリティ権限が更新されたということだ。
それを見たアイリが、こっちだよと先に歩く。
エレベーターホールから、エレベーターで5階へ。
降りると、正面には”ヒーロー部ライトニング課”と記載のある看板が見えた。
「ボクのヒーロー名が”ライトニング”になってね。ライトニングの課だから、ライトニング課ってわけなんだ。
他だと、”ダブルエッジ”とか、”ランサー”っていうのもあるよ。」
「……なるほど。得物や戦い方で付けたわけか。……あくまでも、便宜上ってことでいいのか?」
「トウゴウ、その口調のままで宜しくね。上官になるけど、ボク以外に上官がいない時は、今のままで。
……今までの様に、ヒーローが参加したとしても名乗ったりするわけじゃないし、メディアへ露出するわけじゃない。
でも、本名で通すと何かあったときに……ね?
個人情報で確認できる家族などにはGCPOから定期的に巡察する形で守られる予定だよ。」
そう言うと、課の中へ入っていく。
中は、例えるならばハイスクールの教室の様だった。
机が等間隔に並び、教卓があり、黒板がある。
机は20。横に5個並び、縦に4列。
そこには、既に人が座っていた。
しかも、全員少女だった。
アイリの方を見ると、目を逸らしながら頬を掻いている。
「えーっと……。
男の子もいたことはいたんだけど……今回は別の課に配属になってね?
暫くは……女の子だけなんだ。」
「……暫くって、どれくらいなんだ?」
「……ざっと……5年?」
席に座る少女達を見る。
下は12歳ぐらいから、上は18歳くらいまでだろうか。
この20人に、俺とアイリで教えて行くのか。
そう考えていると、最年長の少女が立ち上がった。
「総員、起立!」
ザザザッ
「ヒーロー”ライトニング”と師範代へ敬礼!!」
ビシッ!!
それは、見事な敬礼だった。
この歳で、綺麗に揃えてやれるように訓練をしたのだろう。
彼女達を見回す。
誰しもが、緊張と不安を抱いているのがわかる。
しかし、瞳には意志の火が灯っているのが見てわかった。
……ああ、俺も同感だ。
俺も、彼女達の敬礼へ返礼する。
「着席!!」
アイリがそれを見て、口にする。
その言葉に従い、少女達が席に着いた。
アイリは、踵をコツンッコツンッと鳴らしながら、教壇に上がり、俺へ向き直った。
そして、満面の笑顔でこう言った。
「ようこそ、GCPOオリュンポス支局ヒーロー部ライトニング課へ!」
連載にしたら、20名の少女を考えねばならないため、もしかしたら、アンケートするかも。