顛末
あれから何週間がたった。俺は無断欠勤を繰り返し会社を首になった。
少女に暴行してから俺はここ数日不眠が続き、とてもじゃないが仕事にいく気力などなくなっていたのである。
なぜなら俺は今まで女性を殴った事がなかった。喧嘩をうったり売られた喧嘩は逃げた事がなく、それも不良同士の喧嘩でも俺はそこらへんの不良よりもツッパっていた。まあ、俺自身喧嘩が強かったわけでわなかったが、集団でいきがっているような連中なんかにはなりたくなかった。俺は弱い者に手を出したことがなかったのが唯一の誇りでもあった。
しかしそんな自分の掟をやぶってしまったことが、自分を苦しめると同時に、眼鏡を掛けた少女が警察に通報して俺を逮捕しにくるのではないかと不安感を抱いていた。
やるせない暗暗とした気分と、少女を殴ったことの罪悪感が俺を酒を飲む理由えと駆り立てていった。
俺は朝からビールを三杯飲んでいい気分になっていた。
酒を飲んで忘れる事ができるならそうしたい。だが、現実はそう甘くはない。時計を見る度にあの少女達が警察に通報していないかという疑念が強まってくる。
「ああああああ。俺はなんてことをしてしまったんだ」
仕事はミスしたり仕事自体やめたりバックレたりしてもやりなおしがきくが、少女を殴ってしまった事実はやり直しがきかない。それだけに揺るぎのない事実が俺を責め苦。
家で酒を飲んでいると時間がたつのが早く感じられた。一般の社会人なら働いている時間帯なのに、俺はのんびりと酒を飲んでいる。いや、酒を飲んで不安を消したい自分がいるのだ。
時間過ぎていくにつれ、酔いが酷くなり、頭痛がしてくる。俺は立ち上がり千鳥足になんりながらスーパーで酒を買うことにした。
フラフラになりながらペンキ付きの作業ズボンを履き、ヨレヨレのTシャツを着て帽子かぶった。自分の顔を鏡でみると老けていて、顔が真っ赤になっていた。まるでアル中のおっさんそのももの風体だと我乍そう思った。
「俺はいつのまにこんなに老けたんだ」
つくづく自分に落胆した。子供のころ描いていた大人の像がアル中のおっさんとは、笑えるにも笑えない。もうやり直しの利かない歳だなと自覚して俯いたが、逆にやり直しの利かないならそのまま行けばいいと、俺は変な開き直りをして家を出た。
家から出て三十分くらいでスーパーについた。俺は早く酒が飲みたいので迷わず酒が売っている陳列棚を探した。歩いて直ぐに見つかると俺の口から涎がたれだす。ウイスキーやワイン又焼酎などと俺は酒を見ているうちに我慢ができなくなってくるのである。
今すぐにでも酒の蓋を開けて早く酒をのみたいという衝動に刈られた。口元からたらたらと涎がとまらない。頭の理性が崩壊しようとしていた。
「駄目だ。早く買って飲まないと頭がおかしくなる」
俺は急いでビールを二本手に持ち、レジに会計しに持っていった。
レジには人が五人くらい並んでいて、なかなか前に進まない。俺の手は酒を飲みたい欲求不満から手の震えがとまらなかった。次第に体も震えだし寒気がしだす。
「早く飲まないと俺が俺じゃなくなる」
一人ずつ会計が終わっていくと、漸く俺の会計の番になった。レジにビールを二本置くと、小柄な身長の低い十代くらいの女性がロボットみたいに「いらしゃいませ」とビールのバーコードを読みとった。俺は震える手で小銭を取り出した。
「360円になります。4番の会計機でお支払い下さい」
会計機に500円入れると140円が下の受け取り口から出される。
俺は慌ててビールのスチールの蓋を開けると、店の中で勢いよく飲んだ。小銭をとるとレシートをそのまんま放置して、ショッピングモールを出た。俺はあの身長の高い少女を殴った公園まで、酔った足で歩いていくのであった。
五分くらいで公園につくと俺はもう既に一本のビールを飲み干していた。
飲み過ぎたせいかだんだん眠たくなってくる。既に辺りは夜ともあり、公園の街灯が俺を優しく照らしてくれている。次第に眠気に勝てず寝てしまった。
意識が無くなり急に映像が流れてきた。それは美女に囲まれて金を沢山もっている俺であった。普段自分ができないことを夢の中で味わう為の架空の願望が寝ている時にだけ実現するのである。しかし一度目を覚ませばアル中で無為徒食の生活をしている、だらしない俺がいるのだ。
豪勢な自宅で美女達と一緒に俺は酒を飲んでいて、美女の体に抱きついたり、豪華な食事をしては俺ははしゃいでいた。
大型のソファーに座っていた俺は美女二人をはべらかせて、二人の肩に手をまわしていやらしい社長気取りをしていた。
「最高だ。生きているてサイコー」俺は調子に乗っていた。
美女二人はニコニコしていてこっちまで楽しい気分にさせてくれる。こんな時間がいつまでも続けばいいと俺は思った。
すると二人の美女はなにやら後ろに手をまわしもぞもぞしている。美女達はなにやら俺にプレゼントをくれるのかなと、変な期待をしていた。
「なにかくれるのかい」
美女達はなにも答えず、ただニコニコしながら後ろの手をすっと引いた。手にはなにかを持っている。それは包丁であった。
一瞬顔が青ざめて立ち上がろうとした。が、その時には遅かった。美女二人の手に持った包丁は何度も俺の腹をさして、痛さで俺は逃げることができなかった。美女二人は何度も笑顔で俺の腹に包丁を刺す手を辞めなかった。
俺は目が覚めた。腹には包丁二本が刺さっていた。あまりの痛さに声を出す事ができない。ただ俺の視界に映ったのは身長の高い少女と、身長の低い眼鏡を掛けた少女二人であった。
二人とも返り血を浴びていて、身長の高い少女は笑顔で俺を笑っていた。笑った口元から前歯が無かった。きっと俺が殴った時に歯が折れてしまったのだろう。
腹に手をあてると大量の血が俺の手に附着していた。彼女達が笑顔を向けてくるので、こっちまでなんだか笑顔になってくるのである。
俺は笑顔で「ありがとな」と言った。
だんだん息が苦しくなっていき、目の前が暗くなっていった。