桜の舞い散る頃に
拙い文章ですがよろしくお願いします
春、暖かくて気持ちよくて何かが起きる予感。春野宮一花はこの季節が大好きだった。
「桜がキレー」
彼女は目的地である公園に向かう道すがら、あちこちに咲いている桜を見てそうつぶやく。慎ましやかに、ふんわりとした桜はとても美しい。
公園に着くと、先客がいた。遠目だからハッキリとは分からないが、どうやら中学生くらいの男子のようだ。
(あんな所で何をしているんだろう?)
彼は公園のど真ん中で空を見つめていた。その姿が無償に気になって、一花は彼に近づく。
近づくと、彼の姿がハッキリとは視認できた。彼は同じクラスの加山四季。いつものんびりとしていて、少し変わった男子だ。彼は普段は無表情なのだが、今日は何故かとても悲しそうな顔をしている。
「ねえ、どうしたの?」
一花は彼に話しかけていた。
「猫が死んだんだ」
ぽつりと四季は言う。猫、飼い猫のことだろうか?
「それは悲しいね。ご愁傷さま」
「春野宮さん」
四季は悲しみを称えた目を一花に向けた。
「死んだ魂はどこに行くと思う?」
とても哲学的な質問を投げかけられた彼女は少し考えた。
「やっぱり天国に行くと思う。でも完璧にこの世からは離れないと思う。完璧に離れたら幽霊なんて居ないもの」
一花はスケッチブックを取り出した。
「あなたの猫を呼び戻してあげる」
それから2人でベンチに座って猫を描いた。四季は事細かに猫について話した。それを聞いていた一花は、心が暖かくなった。彼の猫は幸せものだったと知って。
「出来た」
スケッチブックには気だるげな三毛猫が描かれている。
「あぁ、みーちゃんがいる」
四季の飼い猫、みーちゃんを見て彼は目を細める。
「みーちゃんを呼び戻してくれてありがとう」
「いえいえ」
一花はにっこりと笑って応えた。
「また、ここで会わない?」
四季の言葉に一花は少し驚いた。
それから、何度もふたりは公園に足を運び、会話を重ねた。ある時、四季は言った。
「僕は笑えないんだ」
一花はふうんと頷く。確かに四季は基本的に無表情だ。彼の表情を見たのは飼い猫のみーちゃんを描いた時だけである。
「僕は欠陥品なんだ」
「人間はみんな欠陥品よ」
「でもみんな笑えてる」
「笑える人だけが偉いの?」
四季は黙った。一花も黙る。桜は美しく舞い散る。最近緑の葉が見えてきた。季節は夏に近づいている。
「僕、引っ越すことになったんだ」
一花は目を見張った。その日は雲ひとつない晴天だった。
「.........そう」
彼女はただ一言それだけを言う。四季は俯く。やはり無表情だ。けれどその瞳には悲しみが宿ってると一花は知ってる。
四季が引っ越す日、彼は何気なく公園に向かっていた。
「桜、キレイ」
ほとんど花が落ちた桜の木には若葉が着いていて、その美しさに彼はついその言葉を発していた。
公園に着くと、先客がいた。遠目からだとはっきり分からないが、中学生くらいの女子だと思う。
彼女はひたすら空を見上げていた。その姿が気になって四季は近づく。
「待ってたよ」
一花は呟いた。空から目線を外して四季を見つめる。
「待っててくれたの?」
「うん。これを渡したくて」
一花はスケッチブックから1枚、紙を破った。四季はそれを受け取る。
「これはーー」
そこには満面の笑みを浮かべた四季がいた。
「絵には魂が宿るの」
一花は続ける。
「だから、ここには四季がいるの。これは四季が笑ってるの」
一花は泣いていた。初めて四季の前で泣いた。
「ありがとう」
四季は一花の顔を覗き込む。そして顔を歪めだした。
「ーまたね」
四季は笑った。
それから何年もたった。一花はあれ以来、四季に会っていない。彼はどうしているのだろうかと考えながら今日も絵を描いている。満面の桜の絵を。
お読みいただきありがとうございました。