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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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25.ヤクタフ、突入

 太陽が沈み、薄い雲が月を遮る夜。


 周囲は小高い丘に、背の低い草原が続いていた。その先には鉄線と木材で出来た大きな門。左右には物見櫓が設けられ、それに連なる有刺鉄線のフェンス。

 ヤクタフの三人の隊員たちはギリースーツに身を包み、草原の中を匍匐前進で進んでいく。


「こちらワインドアップ。門の前に歩哨を確認。距離350」


 消音器(サプレッサー)を銃口に嵌め迷彩を施したレミントンM24ボルトアクションライフルのレシーバーに備え付けたスターライトスコープを覗くワインドアップと呼ばれる隊員が無線で言った。


「こちらラナウェイ、確認した。横風はなし。穏やかだ」


 ワインドアップの隣にいた観測機器を手に持ったラナウェイが返す。


「こちらカントリークラブ。物見櫓の歩哨も確認。いつでもいけます」


 ワインドアップを挟んだ隣のカントリークラブも同じ装備のM24ライフルを構えて無線を入れる。

 スコープの十字に敵兵士を捕らえる。敵はこちらに気付きもせず、気ままに煙草を吹かしている。


『こちらジャンピングガール。開始せよ』


 エルの声だ。その声にワインドアップもカントリークラブも合図もなしに同時に引金を引いた。

 発射された弾丸は見事に命中し、二人の歩哨は同時に絶命した。


「グッドキル、グッドキル」


 ラナウェイがいう。


「こちらカントリークラブ。別荘の周囲に敵は確認できません。妙です」


 カントリークラブと同様に他の二人の隊員も柵の向こうに見える別荘を見渡す。サーチライトなどは灯っているが、敵の姿は見えない。


『作戦は継続だ。すぐに配置につけ』


「了解」


 三人の狙撃隊員たちは腰を上げ、なるべく小さく身体を丸めて草原を駆けていく。


『後30秒で突入する。備えろ』


 小走りで走る三人の斜め背後から車のエンジン音が響き渡り、フロントライトをハイビームにしたトラックが砂利道を駆けていく。

 トラックはカーゴと一体型の冷凍車だ。もちろん、後ろのカーゴの中には肉や野菜のなどの商品ではなく、武装したヤクタフの隊員がぎっしりと詰まっている。


『残り15秒っ!』


 トラックを運転する隊員が無線を通してがなる。

 加速したトラックは木材と鉄線で作られた門扉を突き破り、別荘の敷地内に入って行く。


 別荘の2階のバルコニーに居た兵士が驚き、慌てて肩に掛けていたAK-74アサルトライフルを構えようとするが、すでに狙いを付けていたワインドアップに射殺されてしまう。


 別荘の入り口近くにトラックは停車し、エル率いるヤクタフの隊員は即座にカーゴの扉を開け、周囲に展開していく。


『こちらワインドアップ。バルコニーの脅威を排除。周囲に敵はなし』


「了解。第三ポイントへ移動」


『了解』


 無線のやり取りを終えたエルは、即座に庭の掃き出し窓に銃を構えながら、脇に着く。別荘の中は真っ暗だ。

 他の隊員も人が入れそうな窓や扉の脇に着き、ヘルメットの上部に備えられたナイトスコープを降ろし、突入の準備を行う。


 エルの反対側で窓を覗く隊員が、エルに顔を向けて言う。


「内部に人の姿は見えません」


「そのまま継続。バンを投擲っ!」


 隊員たちは一斉に格子状の掃き出し窓をたたき割り、フラッシュグレネードを投げ込んでいく。室内で破裂音が響くと、すぐさま隊員たちは突入した。

 それを合図に今度は扉に張っていた隊員たちがショットガンで鍵穴と蝶番を吹き飛ばし、ドアを蹴破って突入する。


「A-1クリアっ!」


『A-2、クリアっ!』


『B-1、クリアっ!』


 突入した隊員たちから無線が飛んでいく。


「中に入るぞ。誤射に気を付けろ」


 エルの無線に各員が「了解」と返事する。

 ナイトスコープを頼りに、室内を警戒する。

 リビング、客室と次々と踏み込み、クリアリングを行っていく。だが、瑠璃や美咲はおろか、敵の姿もない。


『こちらレインメーカー。敵の姿なし。標的の姿もなし』


「了解。ブラックマーク、二階は?」


『こちらブラックマーク。人っ子ひとりいません』


 エルの中で焦りが生じる。


「アウトサイダー、地下はどうだ?」


『こちらアウトサイダー! 居ませんっ! もぬけの殻ですっ!』


 これで別荘に突入した全ての班からの報告が上がった。エルは焦燥感に駆られ、苛立ち混じりに銃を降ろす。


「各員A-2に集合っ!」


 エルの命令に各班が一階のリビングに駆け付ける。

 リビングには武装した隊員16人が集まった。


 エルは室内を見回す。少なくとも一か月は人が生活した形跡はない。隊員たちは浮かない顔をエルに向ける。


「ワインドアップ。外の状況は?」


『こちらワインドアップ。建物の周囲には何もありません』


 ワインドアップの報告を受け、エルはワナワナと肩を震わせる。


「ハメられたっ!」


 苛立ったエルが近くにあった椅子を蹴飛ばす。それを見た他の隊員たちもどこかやるせなさを滲ませている。

 エルはマスクとヘルメットを脱ぎ、さきほど蹴飛ばした椅子を直し、そこに腰掛ける。


「どういう事? 情報通りに、命令通りにこなして、これなの?」


 怒り任せの言葉を吐くエルだが、他の隊員たちは何も答えられずにいた。その時だった。


『こちらワインドアップ。ヘリを確認。待て……』


 報告の無線と同時にバリバリと遠くからローター音が響く。周囲の隊員たちが警戒し、すぐに窓側の壁に張り付き、そっと窓から顔を覗かせて確認する


『ワインドアップ。ヘリは“スポンサー”のものと確認』


 ワインドアップの報告に隊員たちは警戒を解く。一方で、エルは立ち上がり、勇み足で外へと向かう。

 外に出ると、広々とした中庭に一機のMH-60ブラックホークヘリが着陸体勢に入っていた。

 エルは一階のバルコニーからヘリを睨み付ける。


「一体どういうつもりなのか、確かめてみる必要があるわね」


 着陸したブラックホークヘリの後部座席から降りるその人物を、エルはずっと睨み続けていた。


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