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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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22.独房からの脱出

 同時刻。

 昼になり、またライフルを背負った男が瑠璃と美咲の独房に昼食を運んでくる。

 朝食の時と同じく、スープとパンと水だ。


 二人は男達がいなくなり、扉の鍵を閉める音が聞こえるとすぐにパンとスープを口に運んだ。

 パクパクとあっという間にパンとスープを喉に通すと、瑠璃はすぐに立ち上がる。



 瑠璃は決心していた。

 今のうちにここから逃げ出してみせる。二人を待っていたいが、猶予はないと踏んだ。


 食べ終えた瑠璃は美咲に頷き、午前中から静かに続けている部屋の中の調査を続行した。

 なんでもいい。抜け出せるような穴や道具さえ見つかれば。

 ベッドの下、椅子やテーブルの裏側。とにかくなんでもいい。


 しばらくして見回したが、やはり目ぼしいものはない。

 サイドテーブルの引き出しも開けたが、当然空っぽだった。


 その時、洗面所にいた美咲が顔を出し、瑠璃に手招きをする。


 美咲の手招きに導かれて向かうと、美咲はバスユニットの天井を指差した。そこには50センチ角の正方形の天井へ続く点検口の蓋が見えた。

 瑠璃は頷き、静かに出て、椅子を運んでくる。


 椅子の上で立ち上がり伸ばした手に力を込めて、ゆっくりと蓋を持ち上げる。蓋はギギっと小さな音を立てて上に動き始め、完全に上に落ち上がるとゆっくりと天井裏に置いた。


 しめた!そう思い、瑠璃と美咲は口角を上げて顔を見合わす。


 だが、すぐにある問題に気付いた。手を伸ばしてやっとの天井裏に、自分の体重を持ち上げて上がることができない。


 少し考え、瑠璃は椅子から降りると、美咲を指差して、次に開いた点検口を指差す。続いて持ち上げるジェスチャーをする。


 美咲は黙って頷き、椅子の上に登る。

 腰をぐっと落とした美咲が天井にジャンプして手を伸ばした瞬間、宙に浮いた美咲の足を持ち上げ、一気に上まであげる。


 一瞬バランスが崩れそうになったが、なんとか美咲は点検口の縁を掴み、瑠璃が持ち上げてくれた勢いで半身を天井裏まで運べた。


 やがて美咲の身体がすっぽりと天井裏に隠れるまでいった。

 やったっ!そう思ったのも束の間、天井板が大きく反って、ボンという鈍い音が周囲に響いた。二人は同時に血の気が引いたのを感じた。


 数秒の間が開いた後、扉の鍵をガチャガチャと外す音が聞こえ始めた。

瑠璃は慌ててそのまま美咲に隠れるように促し、自分は音を立てない様に素早くベッドへ向かう。


 扉が開かれる前に、ベッドの毛布を掴み、枕にしていたクッションなどを毛布の中に入れて自分も潜って誤魔化す。一方で、美咲は開いていた点検口の蓋をそっと戻した。


 扉が開き、見張りをしていた男がゆっくりと覗き込む。

 瑠璃は寝ているフリをして、薄目で通路奥の男を見つめる。


 男は数秒ほど瑠璃が眠るベッドを見つめた後、何もなかったように扉を閉めた。ほっとする瑠璃。


 だが次の瞬間、今度は扉を大きく開けて男が部屋に入ってきた。すぐにギュッと目を瞑る。


 男はそのまま瑠璃の眠るベッドまで歩くと、毛布を握って力任せにはぎ取る。すぐに美咲がいない事に気付き、知らない言葉を吐き捨てながら、部屋中を乱暴に見回す。

 ベッドの下を覗き込み、トイレやふろ場を覗き込む。すぐに風呂場に置かれた椅子と天井裏の点検口に

気付き、瑠璃に詰め寄る。


 男は近寄りながら、腰に差していた拳銃を抜き出す。瑠璃は上体を起こし、慌てて後退りする。

 男は瑠璃に銃口を突きつけ、何かを叫んでいる。


 しまったっ!


 そう思った瞬間、音を立てずに点検口から降りた美咲が、踏み台にしていた椅子を振り上げ、男の頭にお見舞いする。


 不意打ちを食らった男は、銃を握ったまま床に倒れると、さらに椅子をふり上げる。二度目の攻撃に、男もすぐには立ち上がれなかった。


 瑠璃は倒れた男の身体を飛び越え、部屋を飛び出す。それに続いて美咲も椅子を投げ捨てて追いかける。


 部屋を飛び出ると、すぐに美咲が扉を閉めて外側から鍵を掛ける。

 廊下を見渡すと、幸いにも他に人はいない。だが、胸を撫で下ろしている余裕はない。


「早くっ!」


 押し殺した声で美咲を呼び、瑠璃を先頭に廊下を駆けていく。


 無我夢中で突き当りへ向かって走り、曲がり角が見えたその瞬間、角から4人の男を従えた髭面の男が現れた。


 思わず心臓が跳ね上がりそうになり、慌てて立ち止まる二人。

 髭面の男は驚くわけでもなく、二人の前で腕を組み、堂々と立ち構える。


「威勢のいい小娘だ」


 ドスの効いた声を出す髭面の男の背後で、男達がライフルを構える。

 瑠璃と美咲はなすすべもなく、その場で両手を挙げる。


「そろそろ我慢の限界だ。連れて来い」


 髭面の男に命じられた2人の男が銃を降ろし、瑠璃と美咲を拘束する。背後に手を回し、がっしりと掴まれて髭面の前まで歩かせられる。

 拘束されながらも、瑠璃はずっと髭面の男を睨みつけていた。


「可愛い顔をしているな」


 髭面が瑠璃に近づき、平手で瑠璃の頬を力いっぱい打った。


「お姉ちゃんっ!」


 美咲が叫ぶ。瑠璃は頬を赤く腫らしながらも、また髭面を睨み付ける。


「強情な女だ。だが、いつまでそれが続くかな?」


 瑠璃の睨みをどこか愉快そうに見つめながら髭面はいう。


「連れていけ!」


 髭面の命令により、瑠璃と美咲はそのまま引きずられるように廊下を歩いて行く。髭面は独房に行き、閉じ込められた見張りの男の為に、扉の鍵を開けた。




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