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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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21.レイブン前哨基地へ

 港に着くと、秦と慶太は男達の指示で窮屈な木箱の中に隠れた。


 木箱の中は蒸し暑く、コーヒー豆の独特な匂いがひどく立ち込めていた。思わず服の襟を口元に当てて、咳き込まないように我慢する。

 木箱の外では聞き慣れない言語が飛び交っている。


 しばらくすると二人が入った木箱が持ち上がり、どこかへと運ばれて行く。

 ゆさゆさと揺さぶられた後、ドンと乱暴に置かれた。周囲を確認しようと覗こうにも、覗ける隙間などはない。


 息苦しさと暑さに意識が鈍り出した頃、ドルルンというエンジンが始動する音と共に木箱が揺れた。どうやらトラックか何かの荷台のようだ。


 トラックが走り始め、十数分ほど走らせるとまた停車した。木箱の向こうで荷台の扉が開く音が聞こえ、木箱を開けられる。


 開いた木箱の向こうには先程の船の男が立っており、親指を立てて、「安全だ」というサインを送ってくれた。秦と慶太はプファ、と息を漏らし、新鮮な空気を思い切り吸い込む。


「どうも。次からは一人一つの木箱にしてくれよ」


 小言を漏らす秦に男は笑顔を浮かべ、そのままコンテナの外に出て行く。


 出ていく途中にコンテナの隅っこを指差し、水を飲むジェスチャーを二人に見せてコンテナを出て、扉を閉めた。

 どうやら喉が渇いたらそこに飲み物があるから飲め、という事だ。気の利く密輸入業者だ。


 二人はそのまま蒸し返すコンテナの中に三時間近く、揺られて走り続けた。



― ― ― ― ―



 男が用意してくれたタイティーの水筒もそろそろ尽き始めた頃、トラックが停車した。

 荷台の扉が開き、男が降りるように促す。


 荷台から降りると、まず目に飛び込んできたのはのどかな田園風景だった。水が張った田んぼに、澄み渡った青い空。腕時計を見ると、短針が昼を回ろうとしている。


 ふと気配に気付き、田園風景とは反対側を見ると、鬱蒼とした森の前に6人の男が並んでいた。思わずギョッとする秦。


 男達の中で、秦より少し年上ほどの青いスポーツメーカーのロゴが入ったTシャツを着た青年が笑顔で歩み寄ってくる。


「私、ワンチャイ。今、英語の勉強してる。日本語の勉強も、たくさんしてる。あなたたち、案内する」


 爽やかな顔のワンチャイに慶太と秦は握手し、頭を下げる。どうやら彼らも慶太が手配したのだろう。

すぐにワンチャイは広く切り開かれた森の入り口を指差す。


「この先。兵隊いっぱい。近づいたら、バンバン」


 ワンチャイが指で鉄砲を作り、二回ほど跳ね上げさせる。ワンチャイの話からして、この先にレイブンの別荘があるらしい。

 すぐに後ろに並んでいる五人の男たちを指差す。


「この人たち、ここに昔から住んでた。だから、森の中、道、わかる」


 男達は胸の前で合掌し、頭を下げる。秦と慶太も同じように挨拶する。どうやら、日本人に対してはこういう挨拶をするようにワンチャイが教えたらしい。


 男達はお辞儀を終えると、ゾロゾロとトラックの荷台に上がり、二人が購入した荷物を降ろし始める。


「ここ、精霊いる森だった。でも昔、無理矢理土地を買った。白人。この人たち騙した。今、もっとひどい事してる」


 切り開かれた森を指差して、ワンチャイが身振り手振りを交えていう。

 すぐに「いく。来て。ついてきなさい」と告げ、荷物を持った男達を先頭に歩き出す。


 背後でトラックのエンジンが掛かり、振り返るとトラックがアクセルを踏んで走り出して行く。

 秦は運転席の男達に小さく手を挙げる。男達もこちらを無表情で見つめた後、小さく手を振って去って行った。


― ― ― ―


 鬱蒼とし、歩きづらい森の中を、男達は重い荷物を抱えてひょいひょいと進んでいく。

 少しして、先頭を歩いた男が立ち止まった。すぐにワンチャイが茂みの中を指差す。


「地雷、ある。いっぱい。土、見て。注意しない。ボン」


 手を胸の前にして、花が開くように手を広げる。見ると、確かに低い草むらの中に旧式の対人地雷が埋められている。

 二人は頷き、ワンチャイに言われた通りに忠実に彼らの後ろを歩いて行く。

 30分ほど森を歩き、小高い丘を登る。登りきると、そこから有刺鉄線のフェンスに囲まれた大きな洋館が見えた。

 ワンチャイが指を指す。


「あれ。悪い人。前から、たくさん、兵隊連れてきた」


 二人は洋館を見る。飛行機の中で見た写真のように、森と洋館を繋ぐ道には見張り櫓が立てられ、門扉は鉄線と木材で硬く閉じられている。

 洋館の元は庭であろう場所にはテントと木箱の群れが出来て、近くには大きなトラックとジープが5、6台見える。


 洋館はかなり大きな作り、本館と別館が二棟繋がるような作りになっている。元の持ち主は大層な富裕層の人間だったのだろう。

 フェンスの周りには鬱蒼とした森が広がっている。別荘というよりはまさに前哨基地だ。


(このどこかに、瑠璃ちゃんと美咲がいるっ!)


 秦は茂みの向こうからじっと基地となった洋館を睨み付ける。

 慶太は男達が降ろした荷物の中から双眼鏡を取り出し、基地の周囲を見回す。


 じっと睨んでいた秦の肩をワンチャイが叩いた。


「これ、あそこの周りの地雷の場所。みんな、森入って見つけた」


 ワンチャイの手から一枚の紙を受取る。開くと、洋館の周囲にある地雷を記した地図だ。


「あなたたち。大好き。あいつら追い出してくれたら、みんなラッキー。成功するよう、お祈り、捧げるて」


 荷物を運んでいた男達が整列し、一斉に合掌して頭を下げる。


「ありがとう。俺達も成功させるよ」


 秦も同じように合掌してお辞儀を返す。


「ありがとう。私、このお金でもっと勉強する。日本行く。そして、いい仕事する」


 屈託のない笑みを秦と慶太に向けるワンチャイ。秦も笑顔を返し、「そうだな。日本はいいとこだぜ」と肩を叩く。


「ありがとう。頑張って、日本の人」


 ワンチャイがそういうと、男達と一緒に来た道をぞろぞろと歩いて行く。

 彼らの姿を見えなくなるまで見送った後、秦は慶太に目を向けた。


「さて、これはマジで頑張らないとだな」


 茶化すように秦がいうと、双眼鏡から目を離した慶太が力強く頷き返した。

 すぐに二人は運んでくれた荷物の荷ほどきに取り掛かった。


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