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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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16.レイブンとの食事

 瑠璃と美咲は、レイブンに案内された広間に通された。

 ずっと付けられていた手錠外され、解放された手を揉む二人。


 部屋の真ん中に白いテーブルクロスが掛けられた大きなテーブルがあり、その上にはディナーのフルコースが並べられている。サラダにスープ。メインディッシュであろうヒレステーキが綺麗に盛り付けられている。


 おまけに紙ナプキンの周りに燭台に刺さったろうそくに火が灯り、豪勢さを増している。素敵な風景に見えるが、部屋の周囲にいる銃を持った兵士たちが雰囲気を台無しにしている。


「さあ、遠慮しないで座ってください。長旅でしたからねぇ」


 レイブンがテーブルを挟むように瑠璃たちの反対側に座る。

 レイブンの隣には、サングラスを掛け、屈強な身体に髭を生やしたゴリラのような男が立っている。風貌からして、恐らくこの兵士たちを統括している男なのだろう。


 男はサングラス越しに瑠璃と美咲を見つめており、その視線がとても不快だった。

 二人は促されるまま、椅子に腰かける。すかさず近くにいた兵士が逆さまになったグラスをひっくり返し、ピッチャーに入った水をグラスに注ぐ。注がれた水を受取ると、二人はすぐに飲み干した。


「今日はシェフに頼んだ特別な料理なのだ。ぜひ、味わってみてください」


 そういうなりレイブンはがっつくように目の前に並べられた料理を口に運んでいく。

 瑠璃と美咲のグラスに新たな水が注がれ、二人は口に運ぶ。

 レイブンは食前酒を喉に流し、ステーキを口に運ぶ。


「うーん中々うまい。どうですか?お口にあえばいいんですがね」


 レイブンの貪りつく様はまさに野獣だ。その気味の悪い姿に美咲は出された食事をあまり手につけなかった。

 瑠璃は食事もそこそこに、レイブンに尋ねた。


「あなたの目的を聞いてない。一体、私達をこんな所に連れてきて、何が目的なの?」


 レイブンはナプキンで口を拭うと瑠璃を見た。


「単刀直入に申し上げます。あなたの御父上が隠し持っている隠し財産600億がほしいのです」


「600億?」


 とてもつない数字に瑠璃は内心驚いた。レイブンは続ける。


「600億はドル換算だ。君たちは日本人の円に換算すれば6兆5千億という金額になる。天文学的な数字だよ。君のお父さんは、国家規模の金を自由に使えるように隠して持っている」


 父の企業は国際大企業だ。稼げない金額ではない。だが、それでも現実味がない話だ。


「私はこのお金が欲しいだけなのです。素直に話せば、すぐに帰国させてあげます。もちろん、あなただけでなく、お隣の妹さんも含めて」


 瑠璃は短い数秒の中で必死に思考を巡らせる。恐らく、知らないと言えば間違いなく殺されるだろう。

 腹を決めた瑠璃は、水の入ったグラスに口を付けると切り出す。


「そんなこと、すぐに言えるわけないでしょう?」


 瑠璃は見栄を張った。当然だが、600億の隠し財産など今初めて聞いた。

 一瞬で考えた事だが、恐らくこの男は財産の事を話さなければ危害は加えないだろうという安易な考えに賭けた。


「そうかね。では、やはり鍵が君だという事で間違いはなさそうだ」


 レイブンが納得したかのように頷く。


「私が死ねば、その財産は取れなくなるわ。なぜなら、私しか知らない方法でしか開けられないもの」


 必死に頭を回転させ、それらしい言葉を捻りだす。緊張から冷や汗が流れるが、それを必死に隠した。


「それで、どこにあるんだね?こちらとしては調べがついているんだがね……」


 瑠璃は考える。この発言は恐らくカマを掛けているのだろう。


「あら、それはどうかしら?それなら、そこに私達を運んでいるはずでしょ?だけど、こんな所に案内するのは、そこにあると自信がないから。違うかしら?」


 強気で攻めていく瑠璃。自分でも慣れない演技だが、今はそんな事も気にしていられない。


「ふふ、完敗だよミス・瑠璃。ティーンエイジャーだと思って侮っていた私の負けだ。では、こちらも別の考え方をしなければならない」


 隣にいた男がレイブンに耳打ちをする。レイブンは頷き、ニヤリと笑う。


「ひとまず食事を楽しもう。また、今日の夕方にお話しをしましょうか」


 さあ、と手ぶりをするレイブン。心配そうに見ている美咲に無言で頷き、黙って食事を続けた。

 少しすると扉がノックされ、一人の兵士が入ってきた。


「レイブン様、失礼します」


「今は食事中なんだがね、まあいい」


 兵士は駆け寄り、レイブンの耳元でひそひそと話をしている。話を聞き終えたレイブンは何か言い返すと、兵士は頷いて部屋を後にした。


「なに?何か問題でもあったのかしら?」


 瑠璃は横柄な態度で尋ねる。気分は悪役令嬢だ。

 レイブンはデザートの林檎のタルトを喉に流し込むとまたナプキンで口を拭う。


「あなたのお友達ふたりが近くまで来られているそうだ」


 瑠璃はピクリと反応した。恐らく秦と慶太だろう。その言葉に胸が高鳴る。

 一瞬の反応を見逃さなかったのか、レイブンは口の端を吊り上げる。


「ですが、残念ながらここまでは辿り着けないでしょう。彼らはきっとお土産でも買って帰るぐらいしかできませんよ」


 ニヤニヤと笑うレイブン。瑠璃は悟られぬように、また食事を続けた。二人の話を聞いたせいか、幾分か食事に味がした気がする。

 この瞬間、瑠璃の方針は決まった。とにかく、時間を稼ぐ。


 何故かは知らないが、あの二人なら絶対にこの場所を見つけられる。そんな気がしたからだ。



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