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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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15.黒い商店で買い物

 同じ頃。


 空港前でタクシーに乗った秦たちは片言な英語で気さくに声を掛ける中年の男性運転手に慶太はメモを渡し、ここに行くようにと促す。

少し距離がある場所らしく、運転手は渋ったが、前金を弾んだら喜んで発進してくれた。


上機嫌な運転手の会話を適当に誤魔化し、陽が傾きかけた頃にはメモに書かれた郊外にある小さな商店の前で運んでくれた。

 降りる際、慶太は運転手が提示した金額の1.5倍の金額を支払った。

運転手の男は思わず目を丸くする。

 

「こんなにくれるのかい?日本人ってのは子供でも気前がいいんだね」


 少し黄ばんだ歯を見せ、嬉しそうに運転手はタクシーを走りだして行く。


 走り去っていくタクシーを見送った後、慶太は商店へと足を運んだ。商店はコンビニより一回り小さい建物で、白かった壁は少し黄ばみ、下の方は雨の跳ねっかえりで茶色く汚れていた。秦も慶太の背中を追う。

 慶太がすりガラスのドアを開ける。カウンターには人懐っこそうな顔した30代ほどの男の店員がこちらに笑顔を向けている。


「いらっしゃい、日本人のお客さんかい?何が欲しいんだ?」


 中には居ると色んな雑貨が置かれている。見た事もない缶詰やお菓子に思わず目が奪われそうになる。

 店員のいるレジカウンターに歩み寄り、慶太はいう。

 

「そうだ。“ノルおばさんの庭のバラが枯れ始めたんだ”」


 店員の笑顔が一瞬ひきつる。が、すぐに陽気な笑顔を作る。

 一瞬わからなかったが、どうやら何かの合言葉のようだ。店員がすぐに聞き返す。


「そうか“モハマドおじさんは庭の手入れに忙しいのかい?”」


「“おじさんは今日、葬式で南に行くみたい”だ」


 慶太の言葉を聞くなり、店員は「少し待ってな」と言い、バックヤードへと戻っていく。ここは本当はどんな店なのだろう?そう思考しているとすぐに店員が戻ってきた。


「オーナーがバラの種類を教えて欲しいそうだ。中に来てくれ」


 店員は周囲に目をやり、誰も見てない事を確認すると、顎でカウンターの奥の詰め所へ入る様に促した。

 店員を先頭に、詰め所を通り過ぎ、バックヤードの中へと入る。


様々な商品が積まれたバックヤードを進むと地下に繋がる階段を通された。階段を降り切るとそこには頑丈な鉄扉があり、その前には屈強な男が門番として立っている。


「そいつらは?」


「バラの注文を受けたお客さんだ」


 屈強な男は頷き、二人を交互に見遣る。


「話は聞いている。丁重に迎えろとな。通りな」


 ドアを三回ノックすると重々しいドアがギギ、と鈍い音を立てて開く。


男は顎をクイッと上げて入れ、と促す。中に入るとすぐにオイルと火薬の匂いが鼻に付いた。

壁にはメタルラックが設置されており、何丁もの高性能ライフルや重火器が引っ掛けられている。


 部屋の中央には木製の棚が置かれ、そこには小火器系の銃や爆薬が並べられている。他にも防弾ベストや光学サイト、軍服なども置かれている。まさにミリタリーバーゲンだ。

 部屋の奥から鼻の下に小さな髭を生やした中年の男が現れる。来ているポロシャツとカーキ色のワークズボンはガンオイルでひどく汚れていた。

 

「あんたがミスターAの依頼人か」


 慶太と秦を見比べ、鼻をフンと鳴らす店主。

 ミスターA?裕子の事だろうか?もしくは、英造か?秦は疑問に思う。


「子供を使いによこすとは、まるでタオのようだ」


「タオ?」


 秦が聞き返す。すると慌てて人差し指を立てる。


「おっと、今の話はなしだ。訊かなかった事にしてくれ」

 

 んん、と喉を鳴らす店主。

 

「それで、キャッシュはミスターA持ちだというが、何を受取りに来たんだ?」

 

「M4カービン、アメリカ製が欲しい。それとショットガンだ、弾も見せて欲しい」


「ならこいつがお薦めだ。シンガポール製だが、アメリカ製に比べても性能は申し分ない」


 ラックからM4カービン・ライフルを取り出す。丸みの帯びたハンドガードではなく、アルミ製のレールが装着可能な、スポーツタイプだ。慶太はそれを受取り、チャンバーを引いて動作を確認する。


「あぁ、確かに悪くない代物だ。サプレッサーはあるか?」


「あるよ。軍隊が使ってるやつだ。だからったって、音は映画みたいにそこまで消えないぞ。それにフラッシュライト、バーティカルグリップ、なんでもあるぜ」


「フラッシュライトか。そいつも貰おう」

 

 男は近くに居た小柄な男に指示し、パーツを持ってくるように指示する。

 

「それとショットガンは生憎在庫があまりなくてね。レミントンだ。弾はバックショットでトリプルオーって所か?」


「オートマチックはないのか?」


「それがオートマチックは人気でね。この間、中国のお客様が全部お買い上げしちまったのさ」

 

「わかった。それとフレシェット弾も欲しい。」


「あるよ。坊や、中々知ってるな。ならこいつもお薦めだ」

 

 引き出しをひっぱり、中からショットシェルの詰まった箱を二人の前に置く。


「ショットガン専用の榴弾、16mmグレネード。フレシェット弾なんかより強力だ。出所は聞くな」


 慶太は受け取り、興味津々に榴弾を見つめる。榴弾を見たが、ハンドメイドのようだ。

 そんな様子を横目に、店主は秦に目をやる。秦は壁に掛かったサブマシンガンをじっくりと眺めている。


「そこの坊やも買うのかい?」


「じゃあ俺はこいつだ」


 店主の問いかけに、秦が指差したのはHK UMP45サブマシンガンだ。


「坊や、お目が高いね。そいつは最近入荷したばかりのドイツ製でね。最近マレーシア海軍でも使用されているんだ」


 店主はカウンターから抜け、UMP45とラックを繋ぐ南京錠を外して秦に手渡す。


「弾丸は45.ACP弾。カタログスペックでは毎分600発。弾倉内には25発。重さは3キロもないから取り回し抜群だよ」


 店主の話もそこそこに、秦はUMP45を構えてチャンバーレバーを動かしたり、質感やその重量を確認していいる。

 

「気に入ったかい?」


 店主に振り返り、口角を少し上げる。


「悪くないね。こいつが欲しい。弾倉は10個もあれば十分だ」


「いいよ。ドイツ製は俺も大好きだからな。おまけに2個つけて12個にしてやる。サプレッサーも欲しいのかい?」


「わかってるじゃん。お願いするぜ」


 そういって秦は持っていたサブマシンガンを渡す。店主は受け取ると、そのままカウンターへ運んでいく。


「ここである程度のチューンアップするのかい?それともパーツだけかい?」


「いや、ここで全部お願いする。できれば、即急でお願いしたい」


 店主の問いかけに慶太が答える。

 店主は頷き、「なるほど」と応える。

 

 「追加料金を頂くが、構わないのか?」


 「もちろん支払う」


 「なら、少しばかり待っていてくれ。今日中には仕上げてやる」


 店主はニヤリと笑う。

 二人が選んだ銃を店主が運んでいる間、秦は商品が鎮座された奥に、布を掛けられた思わずそこまで歩き、布をそっとめくる。


 「こいつは……」


 「兄ちゃん、やっぱり目の付け所が違うね」


いつの間にか背後にいた店主はたまらないとばかりににんまり笑った。


― ― ― ―


 あらかたの商品を注文し買い物を終えると、慶太は店主と話し、荷物の届け先を記載した紙を渡した。


「ここに届ければいいんだな?」


「お願いしたい。後出来れば……」


 そこから慶太はボソボソと声のトーンを下げて店主に耳打ちする。秦は別に聞き耳を立てるつもりもなく、また周囲の銃器に目をやっていた。


「わかった。掛け合ってみるよ。それじゃあ、指定の場所に届けておくようにする」


 そう告げて、入り口の脇に立っていた男に顎で促す。

 男が頷き返すと、頑丈な扉に手を掛け、扉を開け放つ。二人は有無も言わずに開け放たれた扉の向こうへ歩く。


「いいお客さんだ。また何かあったらよろしく頼むよ」


 背後から店主の声。振り返るとニカリと笑って二人を見送っている。

 慶太と秦は頷き返すと、そのまま扉を後にした。


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