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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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14.彼らはどこに行った?

日本・桜陽島


 時刻は夕暮れ。既に青海学園の生徒たちの下校時間を過ぎている。

 事件発生から一日が経った今、何の有力な情報も得ないあきと国原は晴れない気持ちを抱えたまま覆面パトカーを運転し、さくらえんの寮へと向かう。


 捜査はやはり県警本部の指揮へと移され、所轄であるあき達は付近の聞き込みとパトロールを中心になった。当然、本部から情報は降りてこない上に、予想した通り箝口令が敷かれ、マスコミにも発表はなかった。


 不甲斐ない気持ちを噛み締め、あきの運転する車はさくらえんの寮の前に辿り着く。

 車を停め、エンジンを停止させると隣の国原がいう。


「あき。強い気持ちでいけ。まだ望みは消えたわけじゃない」


 あきは「はい」とどこか力のない返事をし、運転席のドアを開けて降りる。続いて国原も降りる。

 門を通り、インターホンを押す。いつになく緊張するあき。数秒の後、インターホンのマイクから声が響く。


「…はい」


 かなり幼い男の子の声だ。


「こんにちは、新潟新中央署の者です。少しお話をしたいのですが」


 あきの返事の後、インターホンからは何も聞こえなくなった。替わりに玄関の鍵を開ける音が聞こえ、ドアが開いた。


「はい…なんでしょうか?」


 出てきたのは元気がなく、目の下に隈が薄っすらと滲む幼い少年だった。報告書で見かけた、同棲している萩原健太であろう。


「こんにちは。私は新中央署の相沢あきです。あなた、萩原健太くん、かしら?」


 職業上の癖で相手の名前を確認する。少年は俯きガチに頭を縦に下げる。


「そう。それで、波喜名くんと横山くんにお話しをしたいのだけど、今いるかしら?」


 健太は力なく首を横に振る。


「慶太くんと…秦くんは……帰っちゃいました」


 帰った。思わずその言葉に国原と顔を見合わせるあき。すぐに聞き返す。


「帰ったってどういうことかしら?」


「……僕も、正直なところはわかりません。なんだか、会社に呼び戻されたとかで……」


 つまり、雇い主に戻って来いと言われたのだろう。不可解な思いを感じ、あきは健太に詰め寄る。


「ねぇ、その呼び出されたって話、誰から聞いたの?」


 詰め寄ったあきにビクつき、健太はドアを盾にするようにあきの顔を覗く。


「そ、その……。いつも顔を出してくれる裕子さんにです。八木、裕子っていいます」


 八木裕子。すぐに思い出す。以前に電話を掛けた時に冷たくあしらった女だ。今回の事件の誘拐された二人を乗せた運転手であり、彼女もまた怪我をしている被害者だ。

 あきは少し考え、国原の元に戻って耳打ちをする。


「国原さん。これってどう思います?」


 国原は小さく顔を横に振り、「とりあえず、出直すぞ」と返す。

 あきは健太に振り返り、一礼する。


「それじゃあ、ごめんなさい。私達は一度出直すわ」


 あき達はパトカーへ戻ろうとすると、すぐに健太から声が掛かる。


「あ、あの。お姉ちゃんたちはどうなんですか?見つかりそうですか?」


 その言葉に胸がズキッと痛む。立ち止まり、少し力みがちに健太に振り返る。

 慶太や秦とは違い、純粋で無垢すぎる健太の瞳はあきの心をかき乱す。


「まだ捜査中だから、詳しいことは教えられないわ。また、有力な情報があれば、すぐに伝えるわ」


 冷静な口調でなんとか伝える。正直に言えば、新たな進展がないとは言えない。そう思うだけであきは悔しかった。


「そうですか……。朝来た刑事さんも、そんなこと言ってました……」


 健太が俯く。あきはすぐに反応し、健太の顔を覗き込むように聞き返す。


「どんな人が来たの?」


「眼鏡を掛けて、若くて、ピッとした姿勢のスーツの人です」


 あきの言葉にドアから手を離し、身振り手振りを交えていう健太。すぐにピンときた。恐らく日下部だろう。

 自称県警の人間がわざわざここまで来たのは何の為だ?振り返ると、国原もどこか怪訝な顔を浮かべている。


 あきは一瞬思考を巡らせたが、気を取り直して健太に振り返る。


「そう。その人はうちの署の者よ。心配だから、訪問したのでしょう」


 咄嗟についた嘘だ。


「それじゃあ、私達はこれで失礼するわね。戸締りなどはしっかりするようにね」


「はい」


 返事を聞くと、二人はパトカーに乗り込み、エンジンを掛ける。健太は中に入り、扉を閉める。

 健太が中に入った事を確認するとあきはアクセルを踏み、さくらえんを後にした。車をそのまま大通りまで出すと、あきは口を開いた。


「突然の帰国に、自称県警の男の捜査……。なんだか納得できません」


「当然だろう。俺だって理解不可能だ」


 車は青信号の下を通り過ぎ、橋の向こうの本島へと向かう。

 傾いた陽射しを睨み付けるように国原はいう。


「とりあえず、署に戻ったら八木裕子に電話をしろ。俺は、自称県警の男を探る」


あきは頷き、ハンドルを強く握りしめる。


 その頭の中でこの二日の出来事を考える。誘拐された大企業の社長の隠し子。いなくなった護衛二人。そして彼らの担当の八木裕子という女。自称県警で、恐らく公安だと思われる日下部。これらを繋ぐものは一体……。


 運転に集中しながらも、あきの頭の中ではバラバラのパズルピースを必死に組み込んでいた。


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