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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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13.レイブンの別荘

 マレーシアに降り立った二人に容赦ない熱射と気温が襲う。

 日本の四月とは違い、マレーシアの気候は暖かく、気温は30度を軽く超えていた。

機内で裕子が用意してくれたサマージャケットに半そでシャツを着ていたが、ひどく汗ばんだ。


 二人は裕子に見送られながら滑走路を歩き、空港へ向かう。恐らく買収されたであろう職員に案内され、窓口で簡単な手続きを終えて、一般搭乗口へと案内された。

 搭乗口にはツアー団体などの客で賑わっていた。秦と慶太は彼らに混ざってそのまま出口へと向かう。


 空港を出ると、滑走路の時と同様に熱い日差しが降り注ぐ。入り口の前では客を取ろうと必死に声を掛ける現地の男たちの声が喧騒を作っている。


 「それで、これからどうするんだ?」


 横にいる慶太に問い掛ける。


 「行く先は決まってる。適当なタクシーを捕まえるぞ」


 慶太は周囲を見回し、適当なタクシーを見定めている。



― ― ― ― ― ―



 一方でレイブンに囚われた瑠璃と美咲は猿ぐつわに手錠をされ、檻ごと船から降ろされた。クレーンで檻ごと吊り上げらた後、そのまま大きなトラックの荷台に乗せられていく。一日以上の長旅の上に、途中で手渡された硬いパンはあまり身体が受け付けず、檻の角に残したままだ。


 むせかえるような熱気と嗅ぎ慣れない匂いにここが日本ではないとすぐに悟った。

 幌が掛けられたトラックの荷台には二人の銃を持った男が乗っている。アロハシャツにワークズボンをはいた男たちは瑠璃と美咲をまるで犬か猫のように見ている。


 船の中で受け取ったペットボトルの水を既に空にしてしまった美咲が猿ぐつわの向こうでボソリという。

 

「お姉ちゃん、喉乾いた……」


 昨日からたった一リットルの水しか貰ってない。瑠璃は頷き、男達の元まで近寄り、唸った。


「水!水をくださいっ!」


 猿ぐつわをされているせいでひどく声がくぐもる。男達は互いに見つめ合い、お手上げのポーズを見せる。

 それを見た瑠璃は苛立ち、鉄格子に顔を挟むように唸る。


 猿ぐつわ越しでも必死の瑠璃の顔を悟ったのか、また互いに顔を見合して、瑠璃にゆっくり近づいた。

 鉄格子の向こうの瑠璃の猿ぐつわに手を伸ばした時、トラックが停車した。外そうとしていた手を止める。

 すぐに荷台の後ろのアオリが開き、別の男と一緒にレイブンが降りてくる。瑠璃を見たレイブンが、どこか意外そうな顔で見つめる。


「これはこれは。長旅で申し訳ないね。何かお困りだったのかな?」


 嘲わらうかのようにいう。レイブンは猿ぐつわを外そうとしていた男に促し、猿ぐつわを外させる。

 男は猿ぐつわをゆっくりと外すと、すぐに指を引っ込めた。


「私もこの子も喉が渇いたの。人質なら、もっと大切に扱ってもいいんじゃないかしら?」


 瑠璃の開口一番の強気な台詞にまた含み笑いを浮かべるレイブン。


「これは失礼。ですが、ご安心ください。食事の準備が出来てます。そこでちょっとお話でもしながらやりましょう」


 ニタニタと笑うレイブンが、隣にいた男に促し、檻の鍵を指差す。

 促された男はポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。別の男達は瑠璃達に銃を構える。


 瑠璃と美咲が恐る恐る出てくると、一人の男が手を出すように促す。銃を向けられた瑠璃達は黙って従い、両手を出すと二人に手錠を掛ける。

 男達に促されてトラックから降りると、まず眩しい太陽の光に目がくらむ。続いて周囲に広がる鬱蒼と熱帯雨林と周囲に広がるテント、そして奥に洋館のような建物が視界に飛び込んでくる。


 周囲のテントの群れと積まれた木箱やジープ、そして動き回るミリタリーズボンを履いて物騒なライフルを持つ男達の姿は、まるで戦争映画から飛び出してきた風景だ。

 瑠璃達は男達に囲まれ、レイブンの後ろを歩く。周囲を見回しながら進んでいると、レイブンが肩越しに一瞥してきた。


「ここは私の別荘なのだが、なにぶん人手が必要でね。彼らは快く強力してくれて私の力になってくれる者たちなんだ。ちょっと物騒な恰好をしているが、いい友人だ」


 どこか誇らしくいうレイブンに瑠璃は嫌気が差すが、その兵隊たちの数に冷や汗が出る。これほどの力を持つ者が何をしようというのか?嫌な予感ばかり過ぎる。


 テントの群れを通り越し、使われなくなった古い噴水の前を通る。かつて、ここを建てた頃には綺麗な庭だったのであろう。噴水を囲むように敷かれた石畳はひび割れ、周囲の土は硬くなっている。レイブンたちは噴水の周りを歩き、洋館の入り口を目指す。


 間近で見る洋館は古く、壁に貼られた木材はくすんでいた。エントランスの軒天を支える丸みを帯びた柱もどこかヒビが走っている。開け放たれた大きな扉を通り過ぎ、中へと入る。


 洋館の玄関にあたる大広間はとてつもなく大きかった。以前に父の英造の住む家もそうだったが、それ以上に大きい。当時はパーティーなどが出来るような作りだったのだろう。今はその広間に武器やらなんかのコンテナが積まれ、簡易テーブルなどが並べられている。


「いい屋敷でしょう。今は散らかっていますが、いずれは綺麗にしてお客人をもてなすつもりなんですよ」


 不動産屋の営業マンよろしく、レイブンが両手を広げてみせる。ククク、と笑った後、奥に続く廊下へと案内する。


「では、広間に行きましょう。すぐにお待ちかねの食事と飲み物を用意しておりますので」


 嫌味な笑みをいつまでも消さないレイブン。そんな彼を瑠璃はキッと睨み付けた。


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