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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第四章・アマレット
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1.寮の財政難

 モヒカン男の事件から一週間過ぎた土曜日の午前。さくらえんの寮のリビング。


「えーまず、お二人に大事な話があります」


 気難しい顔をした瑠璃がオホンと咳払いし、テーブルについた二人の前に開いたノートのページを見せる。

 目を通すとそれは家計簿で、秦と慶太が来た3月後半以降から、寮の貯蓄が急激に減っているのが分かる。


「あらまぁ…」


 右肩下がりの家計簿に思わず声を漏らす秦。


「毎月10日にお金が振り込まれてるけど、二人の分は入ってません」


 瑠璃が今月の10日の部分を指差す。確かに過去の月と同額の金額が支給されているのみだった。


「このままじゃあ赤字確定なのは間違いありませんっ! 二人がどれくらいの給料を貰っているか知らないけど、二人にもお金を入れて貰いますっ!」


 険しい顔した瑠璃がドッシリと構える。

 うーんと唸る秦。


「まあ……わかるけど。それで、いくら入れればいいの?」


 そう言われ、瑠璃は電卓をたたき出す。


「うーん、月5万も出せば大丈夫だね」


「えぇ、ちょっと多くない?」


 不満を漏らす秦に瑠璃は詰め寄る。


「多くないっ! 食費だけじゃない、水道代やガス代だってその分上がったし、おまけに取り付けた防犯用のブザーやライトやらで電気代はさらに上がったもんっ!」


 息を巻く瑠璃に秦は両手を上げ、まあまあを宥める。

 確かに、言われてみれば瑠璃の不満を漏らす部分は寮側に負担させているばかりだ。ただ月の給料が80万も貰っている事は伏せた。

 何も言わぬ二人に瑠璃は強い口調で告げる。


「そういうわけで、二人には最低限のお金は入れて貰いますっ! 以上、家長からの伝言でしたっ!」


 二人は「わかりました」と返事する。


「それで、お金はいつお渡しすればいいのでしょうか?」と慶太。


 先程の険しい顔を消し、瑠璃は「いつでもいいよ」といった。最近、慶太に甘い顔をするようになったなぁと秦は思う。自分の時は大概眉間に皺を寄せているの。


「わかりました」


 慶太はそういうとリビングを後にしようと立ち上がる。秦もそれに続こうと立ち上がる。


「それとじ・ん・く・ん」


 背を向けた秦にまた不機嫌な瑠璃の声が響く。


「外に置いてあるバイク、ちゃんと見えない所に移動してっ! この間、さくらえんの園長先生が驚いてたから」


 この間、アメリカから輸送して貰ったバイクだ。思わず「…はい」と返事をする。

 母親のいなかった秦は思う。まるで母親だ。世の母親を持つ子供は、みんなこんな母親なのだろうか?とも考える。

 秦は瑠璃が眉間に皺を寄せる原因の一つがそのバイクだという事に気付きもせず、うーんと思考を巡らせる。


「それじゃあ、玄関の中に……」


「玄関はダメっ! 狭くなるっ!」


 家長の怒声が響く。そうなれば、バイクカバーを買うしかない。


「じゃあ、明日にでもバイクカバーを買いに行くからさ、今日の所はなんとか見逃してくんない」


 顔のまで両手を合わせ、芸を覚えたての猿のようにヒョコヒョコと頭を下げる。

 瑠璃は「仕方ないなぁ」と不満はあるものの納得した。その時、慶太も足を止めてクルリと向き直る。


「それなら提案ですが、明日にでもホームセンターに行きませんか? 実をいうと、そろそろ私達もある程度の家具を揃えておきたいと思います」


「お、いいなそれ」


 珍しく意見する慶太に秦も同意した。

 瑠璃は人差し指を顎に考える素振りをする。


「うーん。それもそうね。……あ、明日ちょうど裕子さんが来るみたいだし、裕子さんにお願いしようかな?」


 これもまた珍しい。裕子とは初めて桜陽島に来た時以来、顔を合わせていなかったからだ。


「ちょっと電話してみるね」


 そう告げると瑠璃は二人に背を向けてケータイを取り出して裕子に電話を掛ける。

 隣にいた慶太にそっと肘で小突く。


「お前もいいこと言うじゃん」


「勘違いするなよ。いい加減、寝袋で寝るのも、段ボールで書き物をするのが嫌なだけだ」


 ぶっきらぼうに答える慶太。少しして瑠璃が電話を切ると「大丈夫だって」と答えた。

 ちょうどその時、二階から降りてきた美咲がリビングに入ってきた。


「ん? 三人ともなんの話してるの?」


「明日ホームセンターに行こうって話をしてたの」と瑠璃がいう。


「え、いいなぁ。ホムセンってことは街に行くんでしょ? 私も買い物行きたいっ!」


 美咲がはしゃぐ。瑠璃が秦と慶太の顔を伺う。二人は静かに頷く。


「大丈夫だけど、明日は家具とか買いに行くだけだよ」


「別にいいよ。私は隣の雑貨屋に行きたいから、その間に買い物しちゃいなよ」


 美咲はどこ吹く風というような感じで上機嫌で冷蔵庫からオレンジジュースを取り出している。


「可哀そうだから、健太も連れてくか」


 ボソリと秦が呟く。


「健太はダメだよ。明日は部活で大事な試合あるから」


 美咲がオレンジジュースをコップに注ぎながら答える。


「あいつ、レギュラーなのか?」


「まさか。あいつ一年生だもん。だけど、先輩が試合してるのに、一年生が休めるわけないじゃん」


 さすがは体育会系。まあ、学校の部活などそんなものだ。「じゃあ仕方ない」と呟き、秦はリビングを出ていく。それに続くように慶太もリビングを出た。


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