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0.悪夢
その夢は壊れた映写機のように、瞬間だけを映す。
優しく微笑む少女。その後ろに広がる故郷の田舎町。
掌についた真っ赤な血。赤橙。
暗闇。
土と汗。「走れ」という怒鳴り声。
砂と硝煙の匂い。機関銃の音。
暗闇。
足元に広がる海。ヘリコプターのローター音。
銃声。切り刻まれる身体。
暗闇。
白い天井。ガラス張りの向こうの白衣。
鼻につくエタノールの匂い。
暗闇。
苦しそうに睨む見知らぬ少年。
鏡を粉々に割る自分の拳。
血の匂い。
暗闇。
狭い白い部屋。たくさんの機械。
汗の匂い。
暗闇。
白い硝煙。
痺れる手。
血の匂い。
そこで飛び起きるように目が覚める。
暗闇の中、隣に寝ている秦に目をやる。小さないびきを掻いてすやすやと眠っている。
ケータイを開く。時刻はまだ4時。
寝汗で濡れた寝間着をうっとおしく思いながら、ゆっくりと立ち上がる。
うんざりだ。
慶太は音を立てずにそっと部屋を出た。