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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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21.篠埼家の応接間で

 篠埼家は青海学園の更に北にあり、二人は鬱蒼とした暗い道を抜け、学校の横を通り過ぎていく。


 寮から歩いて20分ほど、辿り着いたそこには、大きな塀に囲まれた広い屋敷が見えた。塀は時代劇に出てくるような棟屋根のついた立派なもので、大きな門には篠埼家の名前が彫られている。

 門の奥に見える家も立派だ。家と言うよりはまるで武家屋敷みたいだ。


 二人は思わず門の前で立ち止まり、その大きな門と屋敷に目を奪われた。


「……神社が儲かってんのか、配送会社が儲かってんのか、わからねぇな……」


 二人は門を通りぬけ、これまた大きな石畳を進む。石畳の両脇はきちんと手入れされた木々が並んでいる。

 二人は周囲の景色に目を奪われ、不謹慎に見回しながら玄関まで進む。


 玄関の前まで着くと、カメラ付きのインターホンを押すとすぐに「はーい」と返事が聞こえた。


「波喜名です。えーっとうちの者がお邪魔になっているという事で……」


 秦が告げると、「あら、ちょっとお待ちください」と返した後、玄関に向かう足音が聞こえる。

 玄関扉が開くと、そこには女性が立っていた。上品な和服に身を包み、少したるんだ目元をこちらに向けている。30代後半だろうか?


「あら、あなたが噂の波喜名くんと横山くんかしら?」


「はい、そうですが?」


「この度はうちの雛乃を助けて頂き、ありがとうございました」


 女性は深々と頭を下げる。秦と慶太も釣られて頭を下げる。頭を上げると女性はにこやかな表情を浮かべた。

 『うちの』という言葉にどこか引っ掛かり、ジロジロと女性の顔を覗く。


「紹介が遅れました。私、紗香の母親で篠埼由香里(しのさきゆかり)と申します。」


 その言葉にドキッとする秦と慶太。確かにいわれてみればどことなく目元や輪郭は紗香たちに似ている。だが、三女を持つ母親にしてはあまりにも若く見える。


「ささ、外は寒いですから中へどうぞ」


 秦は彼女がいったい何歳なのか聞きたかったが、不躾な質問はさすがに出来なかった。由香里に案内されるまま、玄関の中へ案内される。


 広く、立派なつくりの玄関だ。奥へ続く廊下も広く、天井は綺麗な板張りが延々と続いて行く。

 

 二人は由香里の後ろを付いて行き、広い応接間に通された。

 ふすまを開けると、12畳ほどの広さがあり、その部屋の中心では大きなちゃぶ台があり、それを囲う様に瑠璃や美咲、そして紗香たちが座っていた。


「あ、おそーい二人とも」

 

 瑠璃が微笑む。ちゃぶ台の上には様々な料理が置かれていた。サラダや春巻きにフライドチキン。刺身の盛り合わせなどの、豪華な食卓に驚いた秦が問い掛ける。


「これは……誰かの誕生日とか?」


「違うよ。今日はね、歓迎会なの?」


「歓迎会?」


「秦くんと慶太くんのだよ。ほら、なんだか色々ゴタゴタしてて、ちゃんとした歓迎会が出来てなかったから」


 瑠璃が告げると、今度は紗香がいう。


「そこで、私達もお礼と兼ねて私の家で行なおうと思って、声を掛けましたの。準備もあったので、内緒にしてもらっておいたのですが、どうやら要らぬ心配をかけたようで」


 瑠璃や美咲たちの態度がどことなく変だったのはそれが理由だったようだ。すぐに秦はハハハと笑みを浮かべる。


「なんだーそんな事でしたかー。いやぁ、そんな事なら別に気を使わなくてもいいんですよぉ」


 そういいながらさりげなく紗香の横に座ろうとする秦。すかさず瑠璃と風音が秦の襟首を掴んで阻止する。

 そんな様子を立ったまま眺めている慶太に、雛乃がゆっくりと近づく。


「あ、あの……。こちらへ……どうぞ…」


 視線を逸らしながら、慶太を上座の方に促す雛乃。その頬は熟した林檎のように赤く染まっていた。


「あ、ありがとうございます」


 慶太はぺこりとお辞儀し、雛乃に案内された場所に座る。一方で二人に引き摺られた秦も慶太の横に座った。


「それじゃあ、二人の歓迎を祝して……」


 乾杯っ!と全員が発声し、グラスをぶつけ合う。

 皆はそのままグラスの飲み物を飲み、思い思いのまま食事にありつく。


― ― ― ―


「もー。二人が仲直りしてくれないと、この会がおじゃんになるところだったんだからっ!」


 会が始まって一時間ほど。瑠璃が秦に悪態を吐く。


「いやーごめんごめん。でもあれは慶太だって悪いんだぜ?」


 その言葉に慶太がピクリと反応し、春巻きを挟んだ箸の動きを止める。隣にいた雛乃もそんな慶太に気付き、ビクリと肩を震わせる。慌てて美咲が二人の間に入る。

 

「ほらーっ!そういう余計なこと言わないのっ!この馬鹿兄っ!」


「バッ!?てめぇ美咲、年上に向かってなんて言い方しやがるっ!」


 一方で、慶太は風音に睨まれる。


「あんた、ここで喧嘩したら投げ飛ばすからね」


 思わぬ言葉に慶太はギョッとした。風音の目が恐ろしいほど鋭い。勝てないわけではないが、無傷では済まなそうだ。


「ふふ。でもお二人の仲が戻って安心です。それも谷田凪さんの頑張ったお陰ですね」


紗香が微笑む。瑠璃はまんざらでもない顔で返す。


「そんなことないですよ、紗香先輩」


「いえいえ、ご謙遜なさらなくても。ホントに心配しておりました。特に、雛乃は慶太くんにぜひ来てほしいみたいでしたし」


 紗香の言葉に雛乃はビクリとし、頬をさらに真っ赤にした顔を慌てて近くに余ってた座布団で顔を隠す。

 慶太が顔を覗くと雛乃は慌てて、目を逸らす。少ししてまた目を合わす。

 

「その……違います……。助けて頂いたお礼……それが…したくって……。紗香お姉ちゃんに、そう言っただけ……ですので」


「そうですか」


 なぜ雛乃が顔を赤く染めているのか分からない慶太はあっさりという。一方で秦と瑠璃は雛乃の心の内を見抜いていた。

 そんな流れの中で風音がオホンと咳払いする。


「ま、ちょっと私も間違えちゃったけど、あんた達には感謝してるのよ」


 ぶっきらぼうにいう風音も、どこか頬を赤く染めていた。そんな様子を見ていた紗香が更にクスリと笑う。


「あらあら、風音が素直に言うなんて、どこか変ね」


「ち、違うわよ。あの時はきちんと謝ってなかってから……」


 紗香の突っ込みに風音が慌てる。そんな三姉妹の様子を見ていた皆がクスクスと笑う。


― ― ― ―


 食事もほとんど平らげ、歓迎会もそろそろ終わりを迎える頃だ。

 秦の隣にいた瑠璃がオレンジジュースの入ったグラスを持ちながらそっと問う。


「そういえば、秦くん。ちょっとここで訊くのも悪いんだけど、昨日、夜中に電話してる事があったよね?あれ、誰と電話していたの?」


 秦は紗香の手作りのチョコ菓子を頬張りながら瑠璃を見る。


「ん?あぁ。あれはね、おじさんにだよ」


「おじさんって、前に話していた秦くんのお父さんにあたる人の?」


 秦は口の中のチョコを飲み込みながら頷く。


「そうそう。実は、送ってほしいものがあったからそれを頼んでいたんだ」


「へぇー。何をお願いしたの?」


 そう問い掛けられるのを待っていたかのような秦は不敵な笑みを向ける。


「ふふふ、見てびっくりするぜ」


 そう告げると秦はケータイを取り出し、瑠璃に見えないように操作する。少しいじった後、ケータイを胸の前に持っていき、ニヤつかせる。


「それじゃあ行くよ………じゃーんっ!」


 ケータイの画面を瑠璃に見せつける。ケータイの画面にはオートバイとそれに跨る秦が居た。秦はサングラスを付け、こちらに向けて笑顔でピースサインを向けている。


「え、これってバイク?」


「そうっ!っていっても125ccの日本製のネイキッド系なんだけどね。本当はもっと大きいバイクに乗れるM1まで取りたかったんだけど、21歳以上まで待たないといけないからさぁ……」


 誇らしい笑みを止めない秦。横で話を聞いていた美咲が慶太に問い掛ける。


「ねえ、M1ってなに?お笑いのやつ?」


「アメリカでのバイク免許はM1、M2と種類があるんです。秦が持っているのはM2といって、150cc以下のバイクにしか乗れないのです」


 慶太の説明に「へぇ~」と頷く美咲。一方で紗香や風音も秦のケータイに映る写真をまじまじと見つめている。


「昔から愛着のあるバイクだから、おじさんに送ってもらうようにお願いしたんだ。ま、輸送代とかは自分で払えって怒られちまったけど……」


「そうなんだぁ。それで、輸送代っていくらなの?」


 えーと、と思い出すように頭をひねる秦。


「ざっくりだけど、26万ほど。とりあえず給料から分割して支払うように組んでもらったんだ」


 26万。瑠璃の頭に衝撃が走る。ニカリと笑う秦がどこか遠くなる。

 瑠璃は気を取り直して、取り繕った笑いを浮かべた後、秦に見えないように顔を背けてボソリと呟いた。


「に、にじゅうろくまんっ!?」


「そんなお金あるなら、寮にもちょっと入れてほしいな……」


 瑠璃の苦悩など尻目に秦は皆に写真を見せ周りながら豪快に笑っている。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アクションシーンが結構良い [気になる点] ボディーガードの描写がイマイチ。 瑠璃もなんか勘違いしてる気がして、ちょっと苦手になってきたw そもそもボディーガードのためにきてるのに寮に…
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