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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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21.春風はただ吹いていて

 レッドを押さえつけている警官がレッドの身体を探り、他に武器がないか探っている。そんな様子を秦と慶太とあきは眺めていた。

 ズボンのポケットを探っている時、レッドが何か喚いている。


「なんだ?なんて言ってる?」


 押さえていた警官の一人がレッドの顔を覗き込む。

 その瞬間、レッドが渾身の力を込めて、腕を押さえていた警官を払いのけ、背に乗っていた警官を振り落とす。


 一瞬にして取り押さえていた三人の警官たちを剥がすなり、素早く立ち上がってまっしぐらに秦に向かう。


(しまった)


 対応が遅れた秦は反射的に胸に手を当てる。が、そこには拳銃はなかった。


 レッドの振り上げた拳が秦に振り下ろされる。が、それを慶太が先端が潰れたスローイングダガーを瞬時に投げて食い止める。


 ダガーは振り上げた右腕の二の腕に当たり、振り上げた拳がぶれる。秦はすぐに後方にステップし、僅かに遅れたパンチを回避すると、空ぶったレッドのこめかみに必殺キックを打ち込む。


 レッドはそのまま地面に倒れた。だが、気は失ってはいない。

 息を整え、倒れたレッドを見下ろし、すぐに慶太を見遣る。


「投げナイフなんて出来たのか?」


「練習はしていたが、本番は今日が初めてだ」


 レッドはそのまま警官たちに取り押さえられ、地面に顔を強く打ち付けている。目だけは秦と慶太を見据え、親の仇かのように睨みつけている。


― ― ―


 レッドとブルーは手錠と腰縄を掛けられ、屈強な身体を狭いパトカーに押し込まれて連行された。

 現場には野次馬に来た周囲の住人たちとあきと国原が残っていた。あきは秦にいう。


「一部、厄介なことが起きたけど、あなたたちのお陰でまた逮捕出来たわ。……でも、こんな危険なおとり捜査は気が乗らないけどね」


 あきが小さな溜息を吐き、パトカーに乗せられる容疑者を見ながらいった。秦もやれやれといった顔を浮かべる。


「俺だって気が乗らないぜ。なんせ、気持ちの悪い男の女装なんか見せられたんだからな」


 そういって慶太を指差す。その言葉に慶太は苛立ったが、それよりもロングスカートを履いて外にいる自分に羞恥心を覚えた。周囲の住人の関心も慶太に注がれている。


「なあ、あきさん。頼みがあるんだ」


「なにかしら?」


「今日の所はこれで終わりにして、明日に聴取を取りたいんだ。今日は用事があってさ」


 それに、と付け加える。


「あいつもあんなスカート履いたままで警察署に行くのは可哀そうだろ?お願いできないかな、あきさん」


 思わずギロリと秦を睨む。その頬が羞恥心で少し赤かった。

 あきは秦と慶太を交互に見るとクスリと笑った。


「調子がいいわね」

 

 そう言いながら、国原の顔を見る。隣で話を聞いていたであろう国原は笑顔をあきに返す。


「仕方ないわね。それじゃあ、明日に署に来なさい。こちらも通訳を呼んだりで忙しそうだし」


 そういって二人は近くに停めていた覆面パトカーへと向かう。


「ありがとう、あきさん。それに国原さんも」


「お礼なんていいの。それじゃあ明日署でね」


 どこか満足そうな顔を浮かべ、あきが運転する覆面パトカーはそのまま住宅街を後にする。覆面パトカーが消えていくと、周囲の住人も興味を失くしたのか、そのまま散り散りになっていく。


 あき達を見送った秦は慶太に向き直る。


「それじゃあ帰るか、お嬢様」


「黙れ」


 キリッと睨み返す慶太。



― ― ― ―



 あきが運転する覆面パトカーが桜陽島を出る。窓の外の景色をずっと眺めていた国原がボソリと囁く。


「しかし、妙だな」


 運転していたあきが横目で国原を見る。


「どうしました?」


「奴がお前に電話したことだよ」


「あの横山くんが、ですか?」


 あきが尋ねると国原は頷いた。あきが前を向きなおる。


「確かに驚きました。まさか彼の方から『不審者が動くので、逮捕に協力したい』という電話があるとは思いませんでした。ま、彼らもこうして私達の協力が必要だってことを理解してくれたのですから……」


「そうじゃあねえ」


 国原が顔を横に振る。さっきまで得意げだったあきは国原の意図が理解出来ず、もう一度、横目で国原の顔を見た。流れていくオレンジ色の街灯が国原の顔を点滅させている。


「あの横山とかいう子供。どうして相手が二人だけで動いてるって分かったんだ?」


 国原は助手席の窓から流れる景色を見ながらいう。あきは黙って国原の言葉に耳を傾ける。


「もしBGCってのがそれだけ優秀ならこの話はそれで終わるが、俺はどうもそうじゃあないと思ってる」


 その言葉にあきにも心に引っ掛かるものがあった。それは、確かに言葉に表すのは難しい。


「刑事の勘って奴ですか?」


「まあそんなとこだ」


 国原は「ま、深く考えても仕方ないか」と付け加え、小さな欠伸をした。


「今のは独り言だ。なしにしろ。聞こえないふりだ」


「はい、わかりました」


 あきはそのまま署に行く事だけに集中し、ハンドルを握る。隣でどこか思い耽る国原を横に乗せて。


― ― ― ―


 着替えを済ました後、二人は皆が待つ篠埼家へ向かった。

 二人はこの日に奴らが動いてくれたことを心から感謝した。お陰で後片付けも無駄な説明もなしだ。


「しかし、お前の女装姿なんて、誰が想像出来ただろうよ」


 歩きながら茶化すように秦がいう。慶太はそっぽを向いて聞こえないふりをした。


「せめて写真ぐらい撮っておけばよかったな」


 アハハハと笑う秦。その声が静まり返った家々の壁に反響する。


「撮ったら殺すからな」


 ぼそりと横で囁く。秦は空に浮かぶ少し欠けた月を見上げながら、笑みを浮かべている。


「正直、騙すのが得意になってきたかな?敵もわざわざハマってくれたしな」


「なんの話だ?」


「お前と対立しているように見せかけて、敵を油断させた作戦だよ」


 そう言われ、慶太は少し考えた後にフフ、と鼻で笑う。


「俺は本気でお前の事を嫌いだったがな」

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