表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
65/146

19.仲直り?

 その日も授業を終え、瑠璃と慶太と共に帰宅する。

 当然だが、慶太とも会話はない。


 見兼ねた瑠璃がケータイを開き、「後7時間くらいで今日の夜も終わっちゃうなぁー」と囃し立てる。

 二人はチラチラと目を合わせるが、すぐに逸らす。

 

― ― ―

 

 寮に戻り、秦は自室で窓から差し込む夕日の中で胡坐をかき、思考する。

 それは慶太のことだけじゃない。以前の誘拐犯の『600億』や『鍵』という言葉だ。こちらに関してはなんの有力な情報は得られていない。


 胡坐をかくのを止め、フローリングに寝転がる。夕暮れが差し込む天井を見上げるが、何も思い浮かばない。

 今後、どのような敵が来るのかにも加え、慶太の件や今朝の瑠璃の件もある。考えれば、考えるだけ思考がこんがらがる。

 

「めんどくせーな」

 

 思わず漏れた言葉。そんな事をぼやいたって何も出て来ないのは知っている。

 ガチャリとドアが開く音が聞こえ、思わず顔を上げる。


 そこにいたのは慶太だった。どこか真剣な顔で秦を見つめている。

 

「秦、話がある」

 

 思いつめたかのようにいう慶太。こういう時の慶太に冗談は通じない。

 秦は身体をゆっくりと起こす。

 

 

― ― ―

 

 

 リビングにいた瑠璃と美咲の耳に届いたのは二階から秦と慶太が怒鳴り合う声だった。

 思わずいじっていたケータイを止め、リビングの扉を開けて廊下に顔を出す。思わず深いため息が出る。


 瑠璃はそのままドスドスと二階に上がり、二人の部屋を勢いよく開ける。

 部屋の真ん中で互いに胸倉を掴み、睨み合いを行う秦と慶太。

 

「何があったの?」と低く、鋭い声を出す瑠璃。

 

「いいから気にしないでくださいっ!今仲良くなろうと思ってたとこですからっ!」

 

 珍しく慶太が口調を荒げる。

 

「そうだっ!こいつが素直に謝らねえから、俺が先に言おうと思ったら、減らず口ばっかいいやがるから―――」

 

「家長の命令はどうしたのっ?」

 

 二人の言葉を遮るように苛立った口調で問う。

 

「いや、瑠璃ちゃん、そんな事より悪いのは―――」

 

「残り時間少ないんだよっ!言われた通りにしないと、本当に実行するからねっ!もう知らないっ!」

 

 そう言い切ると瑠璃は勢いよくドアを閉めた。

 そのまま苛立った足取りでリビングに戻り、ソファに腰掛ける。テーブルで宿題の書き写しをしていた美咲が尋ねる。

 

「またあの馬鹿たち、喧嘩してたの?」

 

 あきれた顔を浮かべる美咲。瑠璃は頬を膨らませ、ソファにもたれる。

 

「だからさっき怒ってきた」


 頬を膨らませて瑠璃はいう。


「もう放っておいていいんじゃないの?めんどーだし」

 

 美咲の言葉に、瑠璃は何度目かの溜息を吐き、眉間に皺を寄せる。

 

「本当は、そうした方がいいのかも。でも、放って置くわけにはいかないでしょ?」

 

 家長なんだから、という言葉が続けて出そうになったが、言い留めた。

 瑠璃は気を取り直し、ケータイを開いて操作しだす。

 

― ― ―

 

 夕食。

 そこにはぎこちなく取り繕った笑顔を見せる秦がいた。

 

「ケイタクン、キョウノゴハンハオイシイデスネ」

 

 抑揚のない声で秦がいう。その光景に美咲も健太も少しひきつった顔を浮かべる。

 

「ソウデスネ。タイヘンオイシイデスネ」

 

 慶太も笑顔はないが、ぎこちなくいう。二人は更に顔を引きつらせた。


「よかったわねー、仲直りできて」


 台所で洗い物をする深雪が晴れやかな笑顔を浮かべる。


「エエ、ボクタチ、ナカガイインデスヨ」


 秦が慶太の肩を抱き、ぎこちない笑顔を深雪に浮かべる。


「ソウデス、ワタシタチ、ケンカヤメマシタ」


 慶太はまるでエセ外国人のような口調で言い、パクパクとご飯を箸ですくって口元に運ぶ。

 美咲と健太は恐る恐る瑠璃の顔色を伺う。瑠璃もどこか満足そうに二人の様子を見ている。


「美咲姉、あれ見てどう思う?」


 健太が耳打ちする。


「もって、明日の夜ぐらいまでね」


 胡散臭い会話を進めながら二人は夕飯を進ませる。


― ― ―


 夜、風呂をすませた瑠璃は自室のベッドの上で寝転がって美緒に電話を掛けていた。

 世間話から始まり、そして今日の二人の件を美緒に報告する。


『それでー?作戦は順調なの?』


「うん。ひとまずはって所かな?美緒のお陰でなんとかなりそう」


 肩の荷が少し降りた気がした瑠璃は、どこか晴れやかな気分だった。


『ね?私の言う通りでしょ?しっかし瑠璃も大変だねー。急に弟が二人も出来て。私は妹一人だけでも大変なのにさー』


クスクスと笑う美緒。


『あ、てかもうこんな時間じゃん。明日も学校だし、そろそろ寝よっか?』


 瑠璃も壁に掛かっている時計を見た。時刻は深夜1時を回りかけていた。


「そうだね。美緒、遅刻しちゃあだめだよ」


『はいはい。あんたの所はいいね、起こしてくれる王子様がいるんだから』


「ちょっと、やめてよ」


 美緒のからかいに思わず恥ずかしがる瑠璃。電話の向こうでまた美緒が笑っている。


『冗談だって。じゃあ、おやすみー』


 通話が終わり、ふと喉の渇きを覚えた。寝る前に何か飲もうと瑠璃は自室を出た。

 二階の廊下に出ると、ガチャリと玄関を開ける音が届いた。瑠璃は階段を進み、その音の主を探るべく覗いた。


 玄関ドアが閉まる一瞬、秦の背中が見えた。

 瑠璃は特に気にせず、そのまま一階に降りてリビングへと入る。


 台所の冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注いでリビングの窓へと向かう。

 カーテンを少しめくると、寮の門前の少し離れた街灯の下に秦はいた。ケータイで何か話し込んでいるようだった。


 数秒程見つめた後、瑠璃はそっとカーテンを閉める。

 誰と話しているんだろう?と考えたが、秦にだって知り合いは学校以外にもいる。


 特に気に留める事もなく、コップの牛乳を飲み干すと、流しで軽くゆすいで瑠璃はそっとリビングを後にした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ