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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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17.不毛な喧嘩、開戦

 夕暮れ。

 部活動を終えた健太が住宅街で部の友人たちと別れた後、一人で家路へと向かっていた。


 あともう少しで寮の前に着く時、寮の前を白いワゴン車が徐行するくらいのゆっくりなスピードで走っているのが目に入った。


 車はそのままゆっくりと健太の横を通り過ぎていく。顔を向けずに横目で一瞥すると、運転席と助手席に男が座っているのがわかった。

 二人ともサングラスを掛け、身長も高くて体格のいい男だ。互いにお揃いのモヒカンにしていたが、運転席の男は赤く染めており、助手席の男は青く染めていた。


 男達は健太に顔を向けることもなく、そのままゆっくりとしたスピードで進み、十字路へ着くとウインカーを点灯させて曲がっていった。

 不思議に思ったが健太は足を止めることもなく、そのまま寮へと入って行く。

 


 

 玄関で靴を脱いでリビングに入ると険悪な空気が漂っていた。ギョッとしてリビングの扉の前で立ち止まる健太。


 秦と慶太が椅子に座り、互いに顔を背け、両腕を組んでいる。秦に至っては小刻みに貧乏ゆすりまでしているくらいだ。


 その向かいでは困った顔の瑠璃と呆れた顔で二人の様子を見つめている美咲。


 健太は恐る恐る「ただいま」と告げて、そそくさとリビングを後にして洗面所に逃げ込んだ。

 リビングでは我慢できなくなった美咲がテーブルを手のひらでバン、と勢いよく叩く。


 「あんた達、何があったんだか知らないけど、喧嘩を家の中まで持ってこないでくれる?」


 美咲の言葉に「へっ」と吐き捨て、口をへの字にする秦。


「俺は喧嘩してるつもりはねーよ。ただ、この頭でっかちが勝手に怒ってるだけで」


「そうか。俺はただお前がどんだけ無能か分かっただけで、別に不機嫌でもないけどな」


「その態度を不機嫌っていうんでしょっ!?」


 うんざりした美咲が不機嫌な顔を瑠璃に顔を向ける。


「もーっ!?瑠璃姉からもなんか言ってよっ!こいつらめんどくさすぎっ!」


 美咲の言葉にさらに困惑した顔を示す瑠璃。どぎまぎしながら二人を宥める。


「ま、まあ慶太くん……。秦くんも悪気はなかったんだし……。それにほら、私も学校に通っている以上は皆にそう思われちゃうからさ、仕方のないことだから…」


 まさしくその通りだ。それに加えて、正体がバレた原因は自分も話したことが一因でもある。だが慶太は納得しない。


「問題はそこではないです。こいつははっきり言ってBGCとして欠落している物が多すぎるんです。私がクライアントでしたら、間違いなく解雇しています」


「てめぇ、年上に向かって欠陥品扱いするのか?」


「そうじゃないのか?」


「んだコラァっ!?」


 互いに立ち上がって額をぶつけそうな程近付けて睨み合う。互いにヒートするたびに、必死に止める瑠璃の困惑も加速する。

 洗面所から戻って来た健太がこっそり美咲に耳打ちをする。


「美咲姉ちゃん、いったい何があったの?」


「慶太がボディガードチルドレンだってバラした秦を許せないんだって」

 

 そうやって話している合間にも秦と慶太が不毛な言い争いをしている。美咲はハァ~と大きなため息を吐く。


「健太、もうこんなのに付き合ってらんないから上行こっ」


 美咲はプンっと頬を膨らませてリビングを出ていく。健太も言い争う二人とそれを必死に宥める瑠璃を尻目に二階に上がる。先ほどすれ違った男の事など、すっかり忘れてしまった。


― ― ―


 二人の喧嘩は瑠璃によって収まったが、仲直りしたわけではない。

 秦と慶太は互いに一言も会話せず、リビングでそっぽを向いたままだ。

 夕飯の支度に来た深雪もそんな二人を見て笑っていたが、二人はもちろん、瑠璃も美咲も健太も笑えずにいた。


 唯一、人間の争いなど知らぬマックだけが皆の周りをくるくる回っていた。

 その日の夜は互いに背を向けて、何も言わずにそのまま寝た。


― ― ―

 

 明くる日、互いに同じ時間に起きたがもちろん会話はない。


 日課の早朝ランニングの時にも「出る」「あっそ」が最初の会話だった。


 それから皆が起き出して朝食の時でも会話もない。互いに視線を合わすこともない。これには瑠璃も美咲もガッカリし、美咲に至ってはうんざりしていた。


「私、こんな空気で朝ごはん食べたら食欲失せるんですけど」


 美咲が小言を吐いて、そそくさとまだ残っている料理と一緒に自分の食器を片付ける。


 気まずかった健太も美咲を追うように自分も食器を持ってリビングを後にした。瑠璃は何も言えず、ただ小さな溜息を吐くしか出来なかった。


― ― ―


 会話のない気まずい登校を終えた瑠璃は、教室の自分の机の上で気疲れした身体を突っ伏した。

 そんな瑠璃を見かけた美緒が声を掛けた。


「瑠璃、どうしたの?」


「うーん、色々と疲れたぁ…」


 顔だけを上げ、美緒を見る。


「美緒ぉ……聞いてよぉ…」


 瑠璃は疲れた顔で昨日のからの秦と慶太の喧嘩を美緒に語る。美緒は真剣な顔で瑠璃の話に耳を傾けて、時には頷いてく。


「……それで、あの弟くんは真剣に仕事したいわけで、あそこのおバカさんはそこまで真剣じゃないってことで喧嘩してるわけね」


 美緒は秦を見た。秦は朝の不機嫌はどこへ行ったのか、クラスの男子たちと世間話で盛り上がっている。


「そうなんだよぉ……。慶太くんの気持ちも分かるんだけど、でも秦くんみたいに時にはラフでもいいと思うんだけど……」


 二人は極端なのだ。瑠璃が見た印象だけだが、秦はやる時にやるというタイプ。慶太は綿密な計画を立ててきっちりと通すタイプだ。そして厄介なことに、互いのプライドが決して折れないということだ。


「瑠璃の話を聞いてると、絶対に『仲良しこよし』なんて無理そうだね」


「でもね…、実は……」


 こそこそと秦に聞き取られないように美緒に耳打ちする。話を聞いた美緒は「あーそういうことね」と納得した顔を浮かべた。


「それなら、ちょっと荒治療だけど……」


 今度は美緒が瑠璃にそっと耳打ちをする。

 瑠璃は何度か頷き、しばらくすると疲れた顔を少し晴らした。


「なるほどね!わかった、美緒、ありがとうっ!」


 咲いた笑顔に美緒は親指をグッと立てる。


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