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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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14.今後の行動

 外に出ると西日が警察署の外壁とアスファルトを赤く染め、少し寒さを含んだ風が頬の横を通り過ぎていく。

 駐車場の中ほどまで進むと、紗香がくるりと振り返り、秦と慶太を見据える。


「それじゃあ、私たちはこれで失礼します。ではまた明日」


 紗香がきちんと頭を下げる。


「ありがとうございます。それじゃあ……って」


 頭を下げようとした時、紗香たちの中に瑠璃も混じっている事に気付いた。


「あれ?瑠璃ちゃん、一緒に帰らないの?」


 秦が問い掛けると、瑠璃は顔の前で両手を合わす。


「ごめん、二人とも。紗香先輩が送って行ってくれるっていうから、私、こっちに乗ろうと思って……。いいかな?」


 その言葉に秦は慶太を見た。慶太は秦を一瞥した後、瑠璃に向き直って「いいですよ」と答えた。


「ありがとう。それじゃあ先に帰ってるね」


 パッと咲いた笑みを浮かべ、瑠璃はそのまま紗香たちと共に高級国産車に乗り込んでいく。車はそのまま走り出し、二人を残して新中央署を出て行ってしまった。駐車場の真ん中で立ち尽くした秦は慶太を見る。


「おいおい……。あれでいいのかよ」


 慶太は秦を見返し、静かに頷いた。


「あれでいい。ちょうど二人になりたかったからな」


 思わず秦が眉間に皺を寄せる。


「おいおい、俺にはそっちの気はないぜ」


 秦が頬に手を寄せ、『オカマ』のようなポーズをする。そんな秦に頭を悩ませたのか、慶太ははぁ、と呆れた溜息を吐く。


「……今後の事で話がしたいからだ」


「もちろん冗談だよ。お前は相変わらずジョークってものをわかってないなぁ」


「分かりたくもないし、これからも必要ない」


 苛立つ慶太が吐き捨てる。その横で秦がニヤニヤと笑う。

 二人はバラバラな歩調でバス停まで歩き出す。



― ― ― ―



「恐らく、今回の件は前回襲撃を仕掛けた人間の仕業だろう」


「あのリチャルドって奴か?だが、あいつはとうに逮捕されているぞ」


 帰りのバスの中、二人は議論する。幸いにもバスの中にほとんど乗客はおらず、二人は最後尾の席で桜陽島に着くまで話し合いを続ける。


「そいつも多分、誰かにそそのかされたと見ていいだろう。そうでなかったら、ここまで立て続けに襲撃が起きはしないだろう」


「なるほどな。だが、そうなると大丈夫なのか?瑠璃ちゃんを先に帰しても?」


 慶太は車窓から望む薄暗い町を見ながら首を横に振る。


「すぐに動きはしないだろう。だが、そう遠くない日に動きはするだろうな」


「どっちにしても厄介だな。だがどうする?肝心の容疑者はすぐにお縄で有力な情報は得られない。ましてや、警察はこちらに情報は流してくれないだろう」


 シートに深くもたれながら先程のあきを思い出す。恐らく、あの女刑事は独自で捜査するだろう。こちらも悪いとはいえ、あの啖呵の切り方をしてしまった以上はそう簡単に協力してくれるとは思えない。秦は軽挙妄動(けいきょもうどう)だった自分の言動を少し反省した。


「受け身というのは厄介だからな。だから護衛はしっかりしないと」


 前回、寮の襲撃を防げたのもギリギリの作戦であった。前回の作戦はこちらが罠を仕掛け、相手にタイミングを誘ったからこそできたものだ。


「そうするしかないな」と頷く秦。


「とりあえず今は事を荒立てるのはやめよう。なるべく、目立たないようにするべきだ」


「そうだな」


 二人を乗せたバスは桜陽島の橋を渡り、二人は下車した。

 バスを降りる頃にはすっかり太陽は沈み、通りの街灯や店の明かりに集まる様に、買い物客や帰宅する人がちらほら見受けられた。


― ― ― ―



 バス停から徒歩で寮に戻り、リビングに入ると瑠璃、美咲、健太がいた。

 何やら話し合いをしていたようで、二人がリビングに入ると同時に全員が会話を止めてこちらに顔を向けた。


「どうかしたの?」と問う秦。


 三人は顔を見合し、口を噤んだまま頷き合うと同時に首を横に振った。


「ううん、なんでもないよ。ちょっと夕飯は何にしようかなぁって」


 瑠璃は耳を出すように髪をかき上げた。その仕草や他の二人の振る舞いはどこか不審だった。


「え、本当にそうなの……?」


 勘繰った視線を送っているそんな時、寮のインターホンがピンポーンと鳴った。すぐに考えるのを止めて対応に向かう秦と慶太。


 リビングを出て、玄関のドアスコープを覗くと犬を連れた若い女がドアの向こうに立っていた。

 女は細く穏やかな目をして、ジーパンに春物のコートを羽織っている。年頃から見て20代前半だろう。犬はゴールデンレトリーバーで、ドアに顔を向けて嬉しそうに尻尾を振っている。


「はい、どなたでしょう?」


 秦がドア越しに問うと、女性は驚いた顔を浮かべた。


「え、あの、西野深雪なんですが……」


 初めて聞く名前だ。背後にいた慶太と顔を見合わせ、ドアをゆっくり開ける。

 その瞬間、ドアの隙間からレトリーバーが秦に飛び掛かり、玄関タイルに押し倒す。


「おい、待てっ!」


「あ、こらマックっ!ダメ、ステイっ!」


 深雪の制止など聞かず、尻尾を振りながら秦の上にのしかかり、顔の匂いを嗅いだ後、ぺろぺろと顔を舐めだす。

 慶太は即座に腰に差していた特殊警棒に手を掛けたが、マックと呼ばれた犬に敵意がないのを見て、警棒を抜くのを思い留まった。


 玄関での異変に気付いた瑠璃と美咲がドタバタとやってくる。


「深雪ちゃんっ!」


 玄関ホールで美咲が嬉しそうにいう。


「お知り合いですか?」


 秦が瑠璃に問い掛けると、瑠璃はハッと何かを思い出したようだ。


「あ、忘れてたっ!今日で深雪さん帰ってくるんだったっ!」


 深雪はマックに襲われている秦と慶太を交互に見つめてオロオロしている。


「しょ、紹介するね。いつも夕飯の準備をしてくれている、隣のさくらえんの保育士の西野深雪さん。それで深雪さん、こっちは横山慶太くんと波喜名秦くん」


 深雪は「えぇ、そうなの。よろしくね」とお辞儀をする。慶太も同じように「よろしく」と返す。

 一方でもう抵抗する事を諦め、好きなように顔を舐められている秦も「よろしく」と挨拶をした。

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