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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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8.学校へ

 朝。

 学校ということもあり、いつも早起きの慶太と秦以外の皆がいつもより早くに目を覚ます。

 朝の生き返ったばかりの陽射しが玄関に差し込み、瑠璃達がその陽射しを横目にリビングへ入る。そこで全員は目を丸くした。


 リビングの扉を開けた先にはワックスでキメキメの髪型をなびかせ、おしゃれに着飾った秦がそこにいた。

 高等部の紺色の制服のブレザーにはどこで買ったのかシルバーのブローチチェーンが付けられており、それが胸ポケットでキラキラと輝いている。


「どこかのホストか」


 寝起きの美咲が呆れていう。

 昨日の一件があったというのに、緊張感のかけらもない秦に瑠璃や美咲は呆れ返った。


「あ、あのぉ……秦くん?」


「いやぁ、昨日は変なことがあったけど、今日は学校だしな。第一印象は大事だからね」


 秦が手鏡で髪型を再度チェックしている。逆立てた前髪から、少しだけ額の前に跳ねた髪を、指先で丁寧に撫でている。

 テーブルで中等部の若葉色のブレザーに身を包んだ慶太はあえて何も言わず、黙ってお茶を飲んでいる。その隣に健太が座る。


「ね、ねぇ……。昨日はなんかあったの?」


「大したことはありませんよ。それより、馬鹿はほっといて朝ごはんにしましょう」


 お茶を飲み終わった慶太がささっと立ち上がり、台所に立つ。慶太が用意したのか、あらかたの準備は終わっていたようだ。

 まだ自分の髪型をチェックしている秦を尻目に、皆は朝食の準備を進めた。



― ― ― ― ―



 皆が登校する時間より先に瑠璃と秦、慶太は学校へ向かう。もちろん、転入の説明などを受けるためだ。

 空の月が逃げるようにぼんやりと消えかけ、それを追い払うかのような太陽の眩しい日差しが住宅街を包む。澄んだ空気がどこか心地よい。


「いやーすがすがしい天気だなぁ」


 穏やかな空気に溶け込むような笑顔の秦。その秦から発せられる強いコロンの匂いに、不快感を表す慶太。ふと、隣を歩く瑠璃がどことなく暗い表情を浮かべているのに気付いた。


「どこか、悪いのですか?」


 慶太が尋ねるとハッとしたかのように顔を上げ、すぐに取り繕ったかのように笑顔を見せる。


「ううん。なんでもないの。ちょっと、考え事をしていただけだから…」


 ぎこちない笑顔を向ける。慶太は「そうですか」と返した。

 当然、瑠璃が抱える何かが不安だと悟る。無理もない。昨日、あんな事件があったのだから。


 そんな様子を見ていた秦が、瑠璃の心中を察してか知らずか、ハハと笑う。


「大丈夫だよ、瑠璃ちゃん。俺達がこうして学校の中まで警護すれば、問題ないだろうしさ」


 にっかり笑う秦。慶太は仕事うんぬんよりも、まず自分のTPOをわきまえないそのスタイルをどうにかして欲しい、と心の中で突っ込んだ。


「そうだね。それならいいね」


 瑠璃も秦に釣られて笑う。だが笑い終わった後、そのまま明るい表情は出て来なかった。

 やはり、瑠璃はどこか上の空だ。慶太は分かっていたが、掛けるべき言葉が見つからず、ただ黙って横を歩くだけだった。


 三人はそのまま住宅街を抜け、新緑が鬱蒼とする青海学園へ続く小高い坂道へと進んでいく。

 木々から漏れる木漏れ日が、少し古ぼけた街灯を照らす。夜になれば街灯だけが頼りの道なのだろう、周囲の雑木林の奥は暗い。


「しっかし、こっちは薄気味悪いなぁ」


 周囲を見回しながら秦はいう。


「そうだね。この辺りは青海学園の土地らしくて、開発もしてないんだって」


 瑠璃が枝から漏れる光を見上げながらいう。


「そうなんだ。それなら、もう少し切り開いて、パーっと道を開けちまえばいいのにな」


「そうだね…」


 秦も同じように上を見上げる。


「……なんにもないけど、なにも変わらずにこのままだったら、いいのにね」


 ぼそりと瑠璃が囁く。慶太は思わず瑠璃を見た。秦には聞こえていなかったのか、ただ黙って木漏れ日を眺めている。

 その言葉に、何か深い意味があるのだろう。


 慶太はその言葉こそが、瑠璃が抱えている不安の内面吐露の一部なのだと、考えた。


 

 鬱蒼とした雑木林の中を歩いて10分ほど、すぐに木々の間から青海学園の校舎が見え始めた。


 目の前に遮られたフェンスが見え、そのフェンスの向こうには広い校庭が見える。校庭の真ん中では高等部のサッカー部が練習し、それの囲うように陸上部の生徒たちがトラックを走り、さらに奥のほうには野球部が練習している。思わず秦が目を見張った。

 

「おお、随分と広い校庭だなぁ」

 

「うん。ここは高等部のグラウンド。さらに奥の方には中等部と小学部が使うグラウンドもあるよ」

 

「パンフレットでは見たけど、改めて間近で見るとでっかいなぁ」


「なんせたって、マンモス校ってよばれるくらいだからね」


 瑠璃の説明に秦はへぇーと声を上げる。

 

「いま目の前に見えるのが小学部の校舎。その北側に挟まれてるように中等部があって、さらに北側に高等部の校舎があるんだ」

 

 瑠璃はいうが、秦達からでは小学部の校舎しか見えない。


「とりあえず、手続きのこともあるし、まずは総合職員室に行かないとね」


「総合職員室?」


 秦が聞き返す。


「そう。うちの学校は職員室もいっぱいあるから。このまま進んでいくと総合体育館前の校門になるんだけど、その体育館の北側にあるの。ちょっと、ややこしいんだけど」


 瑠璃が苦笑する。

 確かに、瑠璃の言葉だけではイメージが湧かない二人。どうやら、自分たちがこれから通う学校はショッピングモールなみの広さと施設があるのだと理解した。


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