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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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6.女刑事

 警察官との簡単な聴取も終わりかけた頃。

 暴漢はパトカーに入れられ、秦達は後日に中央署に赴いて詳しい話をするだけ、という流れに持って行った。


 これでやっと帰れる。そんな空気が皆の中に漂い始めた。


「まったく、明日から始業式なのにとんでもない事件に巻き込まれたわね」


 風音が不機嫌な顔を浮かべる。

 思わず瑠璃が風音に頭を下げる。


 「ごめんね、風音ちゃん」


 突然の謝罪に態度を改めた風音が慌てて瑠璃に頭を下げる。なぜ瑠璃が謝るのか分かるのかは秦と慶太だけがだろう。


「い、いいんですよ先輩。それに、悪いのはあの男なんですから」


 そういって顎でパトカーに乗せられた男をさす。男はすっかり委縮してしまい、借りてきた猫のようにおとなしい。

 そんな様子を眺めていると、小さな赤色灯をつけた一台のセダン車がスロープを駆け上って来た。覆面パトカーだろう、タイヤをキキっと鳴らしながら、パトカーのすぐ後ろに停める。


 瑠璃達だけでなく、パトカーのすぐ隣で話していた秦たちと制服の警察官たちも目を開けてセダンを見た。

 セダンの運転席から髪を短く切りそろえた、パンツスーツ姿の女が現れた。女はそのまま警察官たちまで進む。


「第一課の相沢です」


「お疲れ様です」


 警察官たちが挨拶するとそのまま話すわけでもなく、秦と慶太に向き直った。


「ちょっといいかしら?」


 女刑事は若く、キリッとした情熱溢れる目をで二人を見る。

 今日はやたら美人に会うなぁ、秦は口にはしなかったが思った。


「あなたたちがボディガードチルドレンの二人ね?名前は……」


「まず、あなたが名乗るのが筋では?」


 すかさず慶太がいう。女は苛立ったのか、眉間に皺を寄せる。無理もない。一回りも下の人間が言うセリフではないだろうから。

 女は胸ポケットから警察手帳を取り出し、顔写真付きの証明書を見せる。


「私は新潟新中央署の相沢あきです」


「波喜名秦だ」


「横山慶太です」


 あきは胸ポケットに手帳をしまうと慶太に目をやる。


「これで満足かしら?それで、先週は孤児院での誘拐未遂に続き、今度はここでも未成年者略取未遂を捕まえたようね?」


 怪訝そうな口調であきが問い詰める。先ほどのことで慶太に興味が映ったようだ。


「偶然です」


 慶太は平然と言ってのける。


「本当に偶然かしら?」


「そうとしかいいようがございません」

 

何かを疑っているような口調で話すあきに不快な気分になる秦。


「相沢さん、何が言いたいんだ?」


 そう言われ、あきは肩を少しあげて息を吸い、はぁっと短いため息を吐く。


「単刀直入に言うわ。私はこの間の事件と、そしてアメリカで起きた事件は繋がっていると思ってる。そして今回のこの件もそう。そして、それを繋ぐものは、あなた」


 あきが瑠璃を見つめる。あきの鋭い視線に思わずドキっと身を震わせる。そのまま瑠璃に詰め寄る。


「谷田凪瑠璃さん。あなた、ヤダナギコーポレーションの社長の養子となっているそうだけど、その理由はなに?そして、それと同じ時期に起きた事件と彼らは?」


「わ、私は……」


 目の前の睨みを効かしたあきに瑠璃は困惑し、思わず視線を落とす。


「あなたの行動は、警察官の業務の域を超えていると思われます」


 背後から慶太が浴びせた。思わずキリッと向き直るあき。


「なんですって?」


「あなたの行っている行為は横暴だと言っています。警察手帳を使い、何の令状もないのに一般人に詰め寄る。もし何か調書を作りたいならば、それ相応の書類を掲示してください」


 淡々というが、慶太はあきに負けない程の目付きで睨む。思わずあきはたじろいた。


「こ、これは任意による職務質問よっ!」


「ならば、答えなくてもいいという権利もありますね?」


 言葉の上げ足取りにあきは更に眉間に皺を寄せる。互いに静かに火花を散らし、その様子に瑠璃は更に困惑の表情を浮かべた。見かねた秦が二人の間に割って入る。


「まあ、待てって二人とも」


 睨み合う二人の視線に挟まれるが、秦は気にせず続ける。まずあきに目を向ける。


「まず相沢さん。俺達にも守秘義務というものがある。それは依頼者との契約上で守らなくちゃいけないやつなんだ。あんたの質問に答えることは出来るし、出来ないものもある。それに、瑠璃ちゃんに聞くのはお門違いだ」


「それは、どういう意味かしら?」


秦が曖昧にするようにかぶりを振る。


「そういう意味だよ。ま、それは……」


 言い掛けた時、あきの胸ポケットの中でケータイが鳴った。あきは「ごめんなさい」と告げ、少し離れたところまで歩いてケータイの着信を取る。


 電話をしているあきの様子を見た後、秦は慶太に向き直った。無表情であきを睨む慶太の顔は、心底不快に思っているのだろう。


「慶太、気持ちはわかるがお前も変に敵を作るなっ!」


 秦が叱責する。思わぬ言葉に秦に向き直る。


「相手は警察だ。仲良くしろとは言わねーが、敵に回す必要はない」


「悪かったな、秦」


 頭を冷やしたのか、素直に謝る慶太。やれやれ、と言った顔を浮かべる秦。そんな様子を見ていた瑠璃は少し胸を撫で下ろした。

 あきに向き直ると、先程までの態度とは打って変わって、どこか身を固くしている。


「はい……はい……。わかりました……それではお待ちしております」


 大人しい口調で電話を終わらせる。小さな溜息を吐いて、秦達に向き直る。


「先ほどの態度は謝るわ。ごめんなさい」


 あきは深々と頭を下げる。二人はまるで肩透かされた気分になった。


「今、私の上司から連絡があって、今からここに来てあなた達を送るわ。もう少し待ってもらえるかしら?」


 突然の言葉に驚いたが、秦達は静かに頷いた。

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