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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第三章・春と嵐の予感
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4.篠埼三姉妹

 秦と慶太が事の端末を説明する。

 秦が瑠璃を見失ったこと。その後、瑠璃らしき人物が男の手に引かれてここまで連れ去られたこと。そして助けたら瑠璃ではなかったこと。


 どうやら瑠璃はあのランジェリーショップで紗香に出会い、長い間おしゃべりに夢中になっており、鞄にマナーモードのまま入れたケータイにも気づかなかったそうだ。一方で紗香のいるランジェリーショップに向かう途中だった雛乃は突然例の男に捕まれたそうだ。


 その結末に瑠璃は不謹慎ながらも思わずアハハハと笑った。瑠璃の笑いにムッと不機嫌な顔をする秦。


「そりゃあ人が悪いぜ。そんなに笑わなくても」


「それは仕方ないよ。だって、雛乃ちゃんが着てるのは、私のおさがりなんだから」


 そう言い終わると雛乃に目を向ける。雛乃は思わず紗香の後ろに隠れる。


「あ、あの、私……。じ、自分で服を選ぶのに自信が、な、なくって……。それで、お姉ちゃんに、頼んで……瑠璃先輩に……その、色々と……」


 雛乃が恥ずかしそうに告白する。まるで乙女の秘密を無理に暴いているようなもどかしい気持ちになった。


「でも、ごめんね。私のせいで、なんか変なことに巻き込んじゃって」


 瑠璃が謝る。紗香の背中越しで雛乃は首を横に振る。


「いえ、その……私は…助けて、もらったので……」


 もじもじしながらそっと慶太の顔を見る。慶太と目が合うと赤面し、慌てて紗香の背中に隠れる。

 そんな様子を見た紗香がはにかむ。


「本当にありがとうございます。さすがは警護の方ですね」


「いえいえ、滅相もございません。私達はすべきことをしただけですよ」

 

 秦がまた営業スマイルを作る。そんな態度の秦に瑠璃は少し呆れている。

そんな三人のやり取りを尻目に、風音が横に居た慶太を一瞥する。


「あんた、そういえば名前は?」


「横山慶太です。15歳です」


 淡々と挨拶する。風音はふーん、と鼻を鳴らし興味なさげに返す。


「雛乃を助けてくれたことはお礼をいうわ」


「どうも」


 互いに心の籠ってない言葉をただ口にする。でも、と風音は付け加える。


「雛乃に手を出したらただじゃすまないからね」


 キツイ睨みを効かす風音。まるで獲物を狙う肉食動物だ。慶太は一度風音を見た後、視線を正面の秦たちに戻す。


「その台詞は、向こうの奴に言ってやってください」


 風音も釣られて視線を戻す。紗香のだらしなく鼻の下を伸ばす秦が映る。風音の視線がさらに鋭くなる。

 そんな視線に気付かない秦に、やれやれといった表情を浮かべて近づく慶太。


「秦、そろそろいいだろう?」


「おっとそうだ。ちょっと忘れ物があるんだ。ちょっとここで待ってて」


 秦と慶太は四人を後にし、まだ伸びている男の元へ行く。

 途中、踵を返して四人にいう。

 

「あ、ごめん。ちょっと階段辺りで待っててもらっていいかな?寒いだろうし」


 篠埼姉妹は理解出来なかったが、瑠璃だけは察し、三人の背を押して階段の中へと押し込むように歩く。

 秦がまだ伸びている男の胸倉を掴みあげ、両頬をパチパチとビンタをお見舞いする。


「警察に突き出す前に教えろ」


 目を覚ました男は、すぐ目の前の秦に驚き、目を大きく開けた後に恐怖の顔を浮かべる。一方で慶太は男の懐を漁り、何かを取り出している。


「誰に命令された?それによっては見逃してもいい。」


「ひ、人違いだっ!ただ、家出中の娘に似ていたから……」


「はーん。娘を連れ戻すのにバタフライナイフやら警棒が必要なんだ?」


 白々しい言い訳に秦は飽きれた。男の顔の前で握りこぶしを作り、振り上げる素振りをする。


「秦、こいつを見ろ」


 秦が振り上げた拳を真上で止め、慶太の声がした方を見上げる。

 1ブロック離れたファミリーカーの前に慶太が立っていた。車のドアは空いている。どうやら、この男の車だろう。


 秦は男の胸倉を掴み、さきほど風音にやられた様に男の右腕を背中で捻り上げ、男を無理矢理歩かせる。

 車の後部座席を見るとそこにはプラスチックケースがあり、その蓋を慶太が開けた。中には拘束用のロープやインシュロック、ガムテープや目出し帽。さらには金づちまである。

 

「ほー、これが家出娘を探すための車か。随分といい物があるな。娘は霊長類かなにかか?」


 秦がドアガラスに男を押し付ける。男が苦悶の表情を浮かべ、ガラスが男の息で曇る。


「お、俺は頼まれただけなんだっ!ほ、ほんとうだっ!?」


「だから、名前を言えってんだっ!」


「し、知らない男だっ!で、電話があったんだっ!『いい仕事がある』って言われて……」


 慶太が男のズボンのポケットを探り、ケータイを取り出す。ケータイは指紋認証式のロックが掛かっており、すかさず拘束されている右手の指に押し付けて解除させる。

 電話の着信履歴を見ると数日前から『非通知』の着信がある。慶太は秦の顔を見ると、首を横に振った。


「なにか言ってただろ?いくらでやるとか、」


「依頼は300だよっ!ちくしょう、俺が組から借りた借金と一緒だ。相手の顔は知らないし、細かい連絡はアパートの郵便受けに書類が入ってただけなんだよっ!」


 男の言動からして恐らくヤクザの下っ端か、破門を食らったヤクザ崩れだろう。

男はあっと思い出したことを必死に話す。


「ただ、電話が切り終わる瞬間に聞こえたんだ。聞き間違いじゃなけりゃあ、『キーが手に入れば600億が手に入る』って!」

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