2.屋上駐車場と暴漢
駐車場に辿り着いた二人はすぐに辺りを見回す。
日曜日の夜という事もあり、車の数はかなり多かったが、人の姿があまりない。
二人は周囲を注意しながら奥へと進む。だが人影がほとんどなかったのが幸いし、すぐに見つけた。
「ほら、早く来なさいっ!」
周囲に悟られないようにするためか、まるでワガママを諭す父親のような声を上げている。だが瑠璃と思わしき人影は掴まれた手を引っ張り返すように必死に抵抗している。
「待て、この変態っ!」
秦と慶太が男に駆け出し、秦が瑠璃を引き離すように飛び蹴りを食らわす。
不意打ちを受けた男は瑠璃の手を慌てて離して防御体勢を取る。一瞬、男の手から何かが落ちた。
男は秦の蹴りを肩で受け止め、そのまま後ろに転がるがすぐに立ち上がる。秦がすぐに体術の構えに移行する。ふと、先程足元に落ちた何かを目をやる。どうやらバタフライナイフのようだ。
一方で瑠璃は男に急に離された衝撃でよろめき、倒れそうになる。そこを慶太が駆け付ける。
「大丈夫ですかっ!?」
慶太がすぐに瑠璃を抱き抱えるように支える。だがその瞬間、慶太は驚きの表情を浮かべた。
一方で、そんな事を知らない秦は男と対峙していた。男はすぐにポケットから折り畳み式のアルミ製の特殊警棒を、スナップを利かせて展開する。食らったらひとたまりもない。だが、幸いにも構え方や立ち振る舞いからして、そこまで武器に慣れてないようだ。
「物騒な獲物を持ち出しやがって……」
男は何も答えない。
しばらくの睨み合いが続き、男が先に動く。タックルをするように半身をひねって右肩をこちらに向け、間合いを詰めながら腰から下に向け振りかぶる。秦は一歩下がり、男の振りを回避する。
斜め振り下げから、すぐに下から袈裟切りのように振り上げる。秦は半身を逸らして回避しながら右足を蹴り上げる。
空ぶった男の顔面に秦の蹴りがヒットし、男が体勢を崩す。その隙を見逃さず、今度は蹴り上げた勢いで半身を捻り、左足を蹴り上げる。見事な回転蹴りだ。
左かかとが男の顔面にもう一度ヒットし、男はそのまま後方によろめき、車と車の間に吸い込まれるように尻を付いた。
綺麗に着地を決めた秦はすぐに駆け出し、まだアルミ棒を握っていた右手を左足で踏み付け、男のこめかみにキックをお見舞いする。今度こそ男は地面に倒れ、伸びた。
「ふぅ。喧嘩を売る相手を間違えたなぁ。なぁ、慶太」
ステップを少し踏み、秦が振り返るとどこか渋そうな顔をした慶太が居た。すぐ横の瑠璃に目をやる。
「え?」
そこに瑠璃はいなかった。背格好は確かに瑠璃に似ているがどこか違う。瑠璃よりも頬は細く、おどおどとした伏目がちな目に、それを隠すように長く伸びた前髪。それに慶太と並んで気付いたが、慶太よりも背が低い少女がそこに怯えながら佇んでいた。
「あ、あの、わ、私……」
おどおどと拙い口調で話す少女。横で慶太が首を横に振る。
「どうやら、人違いのようだ」
慶太が少し呆れたような顔で言う。
目を丸くして固まっていた秦は、はぁ~と小さく溜息を吐いた。
おどおどとした少女を尻目に、秦はそのまま男が落としたバタフライナイフと特殊警棒を拾いあげる。
慶太は少女の身体を確認し、傷がないかを見た。
「あ、あの……」
「災難でしたね。とりあえず、傷などがないか確認します。両腕を見てもいいですか?」
少女が頷くと、慶太は優しく少女の袖をまくる。日に焼けていない少し不健康気味な真っ白い腕が露わになる。その腕を優しく触り、傷がないことを確認するとまた同じようにそっと袖を戻す。
「失礼。こう見えて私たちはボディガードチルドレンという者です」
「え……あ、はい……」
秦は男のポケットを探り、狂気がないかを確認する。
そんな様子を見つめる少女。慶太はケータイ電話を取り出し、即座に警察に電話を入れる。
電話を切ると、秦が二人の元まで戻る。
「あの男の獲物はバタフライナイフと警棒だけ。それで、警察は?」
「10分から15分で到着するらしい」
秦と慶太が少女を囲むように立ったその時だった。