22.「俺の勘だ」
襲撃から四日後。
事件の聴取も無事終わり、細かいことは全て裕子の手配によって片付いた。家の防犯対策がバッチリと決まり、さくらえんの寮には平和が訪れた。
今回の事件で、瑠璃はアメリカで起きた事を美咲と健太に全て話した。美咲も健太も認識を少し変えたようだが、相変わらず秦達とは馬が合わない。
昼下がり、暖かな陽気が窓辺から差し込むその部屋で、フローリングで身体を寝ころばせ、裕子から郵送されたA4の書類を眺める秦。
慶太は床に古新聞紙を広げ、その上にガバメントとボディガード.380のメンテナンスをしている。
「八木さんから貰った資料によれば、今回の襲撃者はチンピラ崩れ、前科者だって。そんで襲撃を仕掛けたのはやはりM&Aで会社を吸収された社長だってよ」
一連の事件の報告を受けた裕子は、どのようなコネクションを使ったのかはわからないが、首謀者のリチャルドという男に辿り着いた。
大企業の力はすごい。あっけない結末だが、権力の違いというのを垣根見た気がする。
慶太は「そうか」と素っ気ない返事をしながら、ガバメントのスライドにオイルを指す。
「お前の睨んだ通りだったな」
秦は褒めたつもりだった。だが慶太は眉一つも動かさず、スライドのかみ合わせをしている。
「なんだ?せっかく一安心だっていうのに、面白くない顔をしているな?」
秦に見向きもせず、ガバメントのスライドをジャキジャキ動かしている。
「……この事件。これで終わりとは思えない」
ぼそりと呟く。
「その根拠は?」
ガバメントを古新聞紙の上に置き、秦に顔を向ける。その顔はどこか真剣な面持ちだ。小さく息を吸う。
「笑うなよ?俺の勘だ」
その言葉に秦は少し黙った後ハハハ、と笑った。慶太はムッとする。
ひとしきり笑った後、再度慶太に向き直った。今にも噛み付いてきそうな目をしていたが、少し頬が赤く染まっている。
「……だとしても、俺達なら大丈夫だろう」
持っていた資料を床に置き、上体を起こす。
「それは何の根拠があってだ?」
秦は神妙な顔で慶太を見つめる。
「笑うなよ?それは俺の勘だ」
言い終わった後に含み笑いする秦に、慶太は油で汚れたティッシュを投げ付けた。