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ボディガード・チルドレン  作者: 兎ワンコ
第二章・新しい生活
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17.瑠璃のつまらない悩み

 三人は外に出ると駐車場の外れにあるたい焼きの売り場に向かう。

 小さなプレハブで販売しており、周囲にはプラスチックで出来た四人掛けの円形のテーブルが設けられている。


 瑠璃の支払いで秦と瑠璃は甘い餡子を、慶太はカスタードを注文した。


 四人掛けのテーブルで、安価で出来たてのたい焼きに舌鼓を打ってると瑠璃が切り出す。


「ねぇ、慶太くん。財布の中に入ってるお金って、慶太くんのお金なの?」


「はい、そうですが」


 既に食べ終わっていた慶太は別に気にすることもなく答える。


「もしかして……。お給料、すごくいいの?」


 瑠璃の思わぬ言葉に慶太と秦は顔を見合わす。先に瑠璃に向き直ったのは慶太だ。


「守秘義務がございます。ですが、これだけは答えられます。護衛に対する給料はまだ頂いておりません」


 秦の方を見る。秦はまだ食べ終わっておらず、口をもごもごと動かしながら指を口元まで運び、バッテンマークを作る。それもそうだ。客が従業員の給料を訪ねて、答える人はいないだろう。


 そう考えると、慶太の出はとても裕福な家なのだろうか?瑠璃は思考する。どこかの牧場を経営する家の持ち主?はてまたセレブの家の出身?どれも憶測の域を越えない。


 聞いてみたい気持ちが高まったが、さくらえんの寮の決まりがあり、瑠璃は聞くことが出来なかった。そこで質問を変える。


「後さ、今日買った物だけど……。あれはどうするの?」


「あれは届き次第、さくらえんの寮に設置させていただきます。セキュリティに関して、だいぶ甘いようでしたので」


「あれを全部?工事はどうするの?」


「もちろん、出来る限りの事は私達の方で行ないます。電気配線などは専門職が必要になるので、そこは八木さんと既に相談しており、向こうで信頼できる専門の方にお願いしております」


「え…?それはつまり、ほとんど慶太くんと秦くんでやるの?」


 瑠璃の問い掛けに二人は同時に頷く。瑠璃は更に目を丸くした。


「その……ボディガードの学校の授業で習うの?」


「本来ならばお話をすべきではないかと思いますが、授業では大まかな事しか習いません。ですが、設備は必要に応じては行います。基本的BGCは身辺警護なので設備に関してはほとんどですが、今回は八木さんからの依頼内容に含まれていますので、それで行っているのです」


 淡々と答える慶太。もう目の前の15歳の少年は、とても自分よりは年下とは思えない。今度は食べ終わった秦がいう。


「じゃあ、慶太くんは今までそういうことをやってきた、ってこと?」


 言葉を逆手に取られたらしく、慶太は一瞬口ごもった。


「まぁ、過去には……」


 どこかはっきりとしない返事だった。


「大丈夫だよ瑠璃ちゃん。こいつはどうかは知らないが、俺はおじさんの家の手伝いで日曜大工やってたから」


 秦が慶太を指差しケラケラと笑う。秦の人を馬鹿にしたような態度に慶太はムッと睨み返す。秦は気にせず続ける。


「大丈夫、俺は電動工具とかも触って来たし、なんとかなるよ。どうせお前の知識はインターネットかなんかで見ただけだろ?」


 舐めてかかる秦に慶太は更に睨むが、そっぽを向いてはぁと小さいため息を吐く。気を取り直し、瑠璃に向き直る。


「……とりあえず、心配はいりませんのでご安心ください」


「そう……なんだ」


 払拭出来ない何かが胸の中で渦巻く。瑠璃の関心は慶太の過去に注がれていた。



― ― ― ― ― ― ― ― ―



 その後、三人はまたバスに乗って桜陽島へと帰路につく。


 バスでは来た時と同様に秦が隣に座り、後ろに慶太が座っている。


 時折、瑠璃は慶太の方に振り返る。慶太はバスから見える景色を左右に首を振りながら眺めている。それは景色を堪能しているというよりは、何かに注意しているような目だ。


 瑠璃が振り返るたびに慶太は気付いて目があった。その度に適当に笑ってみて誤魔化していた。


 一方で秦も車内の様子を眺めたり、時折外の景色に目をやっている。だが、慶太に比べるとどこか気が抜けているようで、その振る舞いは自分と同年代の男子と同じ感じがした。


 瑠璃は思う。


(どうして、この二人が選ばれたんだろう?)


 裕子は会社で選んだと言っていた。確かに、この二人はロサンゼルス空港とニューハルス空港で私を守り抜いてくれた。それはきっと優秀なことなのだろう。


 だが、基本的な性格はまるで正反対だ。


 一人は平均的男子の代表ともいえそうなほど怠惰で、しかもお調子者。


 かたや一人はとても十代とは思えないほどの堅実な言葉遣いに仕事熱心で、しかも過去を一切語らない。

 この二人をどうやって選んだのだろうか?なにかのくじ引きだろうか?


 しょうもない考えばかりが頭を支配する。

 瑠璃は考えることを止め、今はバスが桜陽島へ着くのを待った。

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